主人公には予定外しかないらしい②
我が家でお昼を一緒し、メグがお薦めだというお店に行くことに。
「父に引き取られる前に、よくここでお手伝いをしていたんです」
焼き菓子が人気だという。
「メグのお薦めをお願いしたいわ」
私がメグに伝えると、大きな瞳が更に見開かれた。
「メグ、目を開きすぎると落っこちちゃうわよ。
それに私そんなに苦手なもの、あ、蜂蜜は控えたほうがいいらしいけど食べられないものはないから」
「今まであたしのことメグさんっだったのに、メグって」
私から心の声が出ていたようです。
メグは私にとって相変わらず主人公だもん。
「あ、違うんです。
呼び捨てが嫌って意味じゃなくって、嬉しいなって」
「そう。では私のことも、ちゃんも無しにしてくれたほうが嬉しいわ」
「いいんですか」
メグは組んだ手を胸の前に掲げ、全力の笑顔と共にハートを飛ばした。
敬称が無くなることによって、感覚的に距離は近くなるはず。
メグからの私に対しての気持ちは、全くの別として。
彼女を信じていないというのとも少し違う。
今まで自分をさんざん傷付けてきた人を、そんなに簡単に信じられない。
メグが、というよりも人はそういうものだと、私が思っているから。
それでも近づいてきてくれるメグ。
彼女の計算でも良いや。
我が家ではマリー母が、メグに失礼な態度取ったしね。
お昼に冷や汗かいちゃったよ。ママンのせいで。
ママンがかなり私の気持ちを削ってきたの。
「だってメグ嬢は私生児なんでしょ」(意訳)だなんて。
気持ちが取っても疲れちゃって。
「お薦めの中でもとても甘い物が良いわ」と伝えればよかったと少し後悔。
いっか、「お薦めを」と言ったら喜んでくれたし。
メグを見ていると、自分の気持ちが分からなくなる。
ずっと心が疲れているから、もうなんでも良いじゃないかという気持ち。
どうでも良いと思いながら、メグを傷付けたくないという思い。
以前のマリーのように、自分の事だけを考えていられたら楽なのに。
私の視線は穿っているのだろうか。
何もかもどうでも良いからこんな世界も知るもんか。
誰も傷つけたくない。なんて両方の気持ちがあるから。
結局、良くも悪くも自分の事しか考えていない駄目な人間だ。
メグの楽しげな様子に相槌をうちながら、ぼんやりと考えていた。
「マリー、クグロフが来ましたよ」
「この形可愛いわ。王冠みたい」
「マリーに『お薦め』と言われて、見た目がぴったりだと思って」
ディスり?わからん。
これって、もしかして「あの」ケーキ?
「パンを食べればケーキを食べればいいじゃない」
こんな見た目だった記憶が。
「マリー気に入らなかった?」
「ううん、ちょっと見た目が綺麗だから食べる前に目に焼き付けておいたの」
「マリーはとてもロマンチックなんですね」
全然その感覚分からん。
「贅沢なパンだなって思ったから」
「お嬢さん、よく分かってんな」
店の奥から野太い声が聞こえた。
メグがお世話になっていたという店主の声だ。
私は彼の声の方へと目を向けた。
「ここ数年不作だろう?
その前は豊作続きだったから今は何とかなってるものの。
この店もそろそろ終わりかねぇ」
「そんなに小麦が不足しているの?」
店主の話を聞いた私はメグに視線を戻し尋ねた。
「あたしも聞いただけなんですけど、このまま続いたら良くないって」
「お嬢さん。あんたあのアカデミーにかよっているんだろ。
なんかいい知恵無いのかよ」
パンが無いならケーキを食べれば良いじゃないなんて言えないし。
小麦無いなら、大麦を食べれば良いじゃない。
ジャガイモとかトウモロコシは?
お口に合うかは分からないけれどお米だってあるし。
「マリー、何か考えがあるって顔してる」
メグが期待の眼差しで私に嬉々として言う。
「い、イモ類……」
私の答えに「アレだろ?それって見た目が不細工な奴だろう」と店主が叫ぶ。
彼は私たちの会話に聞き耳を立てていたらしい。
「お花を飾ればいいんです」
ふとマリー・アントワネットが携わったと言われる政策を思い出した。
「花瓶に生けるのではなく、人を飾るんです」
「どういうこと?」
メグは私の話を促す。
「ジャケットや髪に差して身近なものだと宣伝するの。
料理は、そうね、まずは舞踏会なんかで出してみるもの良いんじゃないかしら」
「そんなもんかね」
店主はふんとばかりに鼻を鳴らす。
私はあなたが言うから案を出したっていうか、パクっただけなのにー!!
「マリーが言うなら、あたしは食べてみたいなって」
メグ優しい。
「舞踏会ってんなら、お嬢さんの家で出してみてくれよ」
店主意地悪。
「レシピの開発もあるでしょうから、すぐには難しいでしょうけど家に掛け合ってみます」
煽られて、つい。
よし、せっかく私はお姫様なのだ。
お家でわがままマリーさん、発揮しちゃうぞ!!