表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/12

ヒロインと、ついでにヒーロー登場②

「マリー様っ」

 心配した様子の女性の声が聞こえた。

 見ていた本を剥ぎ取られ、腕を引っ張られる。

 

「メグ嬢っ、何をするの」

 誰かー!!

 わたくしマリーさんが、可愛い女の子に誘拐に遭ってます~~~!!


 かなり驚いて、悲しみがなんかちょっと飛んで行った。

 助かる。



 私はヒロインのメグに拉致られたらしい。

 人が少ない図書室で、更に人影が見えない場所に連れていかれ座らされたのだ。


「どうぞこれをお使いください」


 

「汚すといけないから」

 メグは私の隣に座り、ハンカチを渡した。

 しかし断った私に対し、彼女は自らの手で私の涙を拭いてくれる。


「汚れるって言ったのに」

 呟いた後、彼女の手にあるハンカチを私は借り受けた。



「ありがとう、ちゃんと綺麗にして返すから」



「気にしないでください」

 メグは私に微笑み、私が持っているハンカチを取り上げてしまう。


 なんか気まずい。

 全部マリー昔のせい。

 じゃないな、勝気なはずのマリー(というか私)が涙を流していたから。


「どうして……」


「言ってくれたじゃないですか。マリー様が『友達になろうって』」

 私はマリー昔の記憶を必死に探した。



「私がメグ嬢に言ったわりに出来ていないし、入学当初の話じゃない」



「私の中では今でも有効ですから」

 メグはにっこり私に笑う。



「それに今日のマリー様は今までと違う様な気がしたんです」

 メグはやはり小さく首を傾げた。

 こっちが首を傾げたくなる言い様だけど。


 もしかして、中の人が違うから?


「うーん、やっぱり中身?」なんて私は思っていただけ。

 それを私からの「何か言いなさいよ」の、圧とでも思ったらしい。


「誰もが認める高嶺の花のマリー様にお友達になろうと言って貰って。

 本当は、あたしももっとお話ししたかったんですけど、やっぱり近づきにくくて。

 今日は、今までよりずっと雰囲気が柔らかいなって」


「ありがとう。私は今まで決していいお友達じゃなかったのに」


「あたしは良い事しか思えていられないんです」

 メグは私に大きく微笑んだ。


「やっぱりヒロインだわ」


「え?」


「ふふっ、なんでもないの」

 私はメグにくすくすとしながら答えた。


 そうだった。私はあの漫画の好きだったところはメグの強さだった。

 すぐにネガティブになってしまう私にとって自ら未来を切り開こうとしていく強さ。

 それがとても好きで魅力的に映ったのだった。


 私が好になった漫画だから早々に打ち切られたのだと、友人からは言われたけれど。



「ところでマリー様、さっき見ていた本はなんだったんですか?」


「東方の衣装が載っていたの」

 

 やっぱり私はまだこの世界に慣れきっている訳じゃない。

 着物が載っていたから、不意に日本を思い出した。

 だから涙がこぼれてしまったみたい。


 どれだけ侍女たちに優しくしてもらっても、ここはまだ私の世界じゃない。

 

 私の表情が曇ったからだろうか。

 メグは明るく私に声を掛けた。

「マリー様は、いつもお洒落ですもんね」


 メグは私に対して本当は思う事はあるはずだ。

 ただ彼女は優しい人。

 私が泣いている姿を誰にも見られないように配慮してくれただけ。


 今の私は、メグの優しさにすがろう。


「メグ嬢はというか、寮の子たちは制服が多いわね。

 何故なのかしら」


「あたしは違うと思いますけど、やっぱり部屋に置き切れないくらいのドレスをお持ちの方も多いじゃないですか」


「なるほど」

 確かにドレスが大量なんて収納場所に困っちゃうもんね。


 もっと上手く話せたらいいのに。

 


「あ、そろそろ迎えが来てる頃だわ」

 逃げるように私が言うと、隣に座っていたメグも一緒に立ち上がった。


「あたしも行きます」


「図書室に用が、あ、図書室に戻るまでってことね」


「マリー様を校門までお見送りしたいんです」

 何この子、すっごい懐くじゃん。

 超かわいい。

 うっかり「お願いね」って言っちゃったわ。


「あ、やっぱり駄目よ」

 私がメグに伝えるとわかりやすく悲しそうな表情をする。


「マリー様なんて呼ばないで頂戴。そうしてくれたら見送って下さって良いのよ」

 私はちょっとだけ顎を上げてメグに言う。

 

「はい、それでは、、、マリーさん?ちゃん?嬢?」

 照れたような表情も可愛い。

 何この可愛い生き物。


 マリー昔の感覚が残っているからギリ、口に出して変態じみた態度取らなくて済んだ。



「呼びやすいので良いわ。敬称なんて無くても良いわよ」

 私の言葉にぱあっとメグの顔の周囲からハートが飛んだ。

 ヒロイン、すごい。ハート出したよ、そして似合うよ。


「では、マリーちゃんと呼ばせてください」


「さ、行きましょう。メグさん」

 メグの方から「ぱあっ」って音が、また聞こえた。


「はいっ」

 メグの明るい合図とともに私たち横に並んで校門へと向かう。


 別に対して会話があったわけじゃない。

 それでも私たちには親密な空気が流れた。気がする。




 姉さん大変です。

 私がヒロインのメグと仲良くなってしまうと、『夜明け前』の最後は変わってしまう訳で……。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ