主人公、侍女の未来を壊してみた
私は自室に戻り、テーブルの椅子に座った。
パティに話を聞くためにだ。
「まず、座ってくれる?」
「お話がございましたら、いつも通りこのまま伺います」
彼女は椅子の隣に立ったまま答えた。
「そう。じゃあこのままパティに聞くわね。
お母様から伺った話はどういうことかしら」
私は彼女の目を直視できずに口元を見て話した。
気のせいかパティの喉は上下に動いているような気がする。
「オレリアン家からお暇を頂きます」
「そう。確かに人事権は母だし最終的に決定するのは父よ。でも……」
私にも一言欲しかったというのは、それってワガママなの?
「申し訳ありません。
確実に決まったらお伝えしようと思っておりました。
しかしマリー様のご様子が『そっか。私が体調崩したせいね』
いいえ、マリーお嬢様のせいではありません」
「もし良かったら理由を聞かせて欲しいの。
私的な理由なら言いづらいなら諦めるけど」
私がこちらで目を覚ましてから、ずっと彼女が傍に居てくれた。
パティにとってはただの仕事なのかもしれない。
でもこちらの世界に来たばかりの私は、彼女の優しさに頼り切っていた。
私の機嫌を伺うかのようにパティは言う。
「家の者の体調が優れず、看病をしたいのです」
「連れてこればいいじゃない」
私はとても素早く答えていた。
考えるよりも先にと言っても過言ではない。
「いえ、そういう訳には」
そう言ってパティは俯いた。
スカートの前で揃えている手に、力がぎゅうっと込められたように見える。
「パティさえ、パトリシアさえ良ければ私はそうして欲しいの。
両親に話してくれたことは私が何とかするから」
「ですが、マリー様。もう決まったことですから」
「私やこの家に居たくないというなら、話は別よ。
でもお家の方が病気だというなら、セントバーナードのように家族で住めばいいじゃない」
私の言葉に、パティの頭の上に一瞬「?」が浮かんだ。
「セントバーナードではなくセバスチャン様のことですか。執事の」
「あ、そうそれ。今はそんなことはどうでも良いの!
パトリシアは家族と一緒に使用人たちの部屋に住めば、何かあればいつでも侍医を呼べるもの」
私がまくし立てるように話すから、彼女は呆気にとられている。
「私は、あなたがいいの!パトリシアがいいの!
いつも私のワガママ聞いてくれたんだから、今回だって聞いてよ!!」
子供のように駄々をこねてしまった私は、彼女を困らせたのではと上目遣いで見た。
「え、あ、ちょっと、ご、、、ごめん。泣かないで」
そんな泣くほど私ことマリーが嫌いだっただなんて。
気付けなかったもん。
私は戸惑いながら涙を拭えるような物を探す。
パティことパトリシアは、大きく息を吸い込むとこう言った。
「マリーお嬢様がそんなにもわたくしを慕って下さっていとは思いもしませんでした」
少しだけ零した涙はそのままで、彼女は私に本当にうれしそうな笑顔を向けてくれた。
その後、私はまず母を説得しするとパティに伝えた。
母から父に伝えてもらうつもりだとも。
「もし難しいようでしたら、わたくしは予定通り家族の看病をするだけですから」
母に伝えるために部屋を出るときに、パティが私にかけた言葉だ。
私の説得が上手くいかないと思ったのだろう。
「わかったわ。
そのかわりちゃんと上手くいったら、そのときは又これかもお願いね」
私が笑顔で伝えると、パティもマリー昔が見たことないほどの笑顔を返してくれた。
アカデミー始業前には、再度パティが侍女に戻ってくれることに。
侍女頭に戻ることは、パティが断ったらしい。
「無理を通してもらった」とか言って。
それは良いんだ。
彼女が戻ってきてくれたことは、率直に嬉しい。
「今まで以上にマリー様に誠心誠意お仕えします」とまで言ってくれたし。
でもなー、パティさんという味方増やしちゃったのかも。
未来の私と一緒に処刑送りにされちゃうと困るっていうか嫌だよ。
そっかそっか、私が全部やりました。侍女は何の関係もありません。
って言えば、罪には問われないよね。
だから決めたの。
これからは自ら動くお嬢様になるっって!!
私はマリーお嬢様。だから「あれ持ってきて」「あれやって」で済む。
しかし、あえて自ら動く。
全て私の責任のもとで、私が行動する。
私の責任と言えばね~。
パティの件のついでに使用人たちの福利厚生を訴えてみたんだ。
公爵様に呼び出されて「君の細かい考えは書面にしなさい」って言われちゃって。
仕事に励むためには、やっぱりアメが欲しいよねってつい、ね。
平民に人権無くても、労働者は別腹って言ってみたらさ。
「ぽかーん」ってなってました、マリー父。
すぐ威厳取り戻した顔になったけどさ。
私の考える福利厚生と、福利厚生が必要な理由を書面にしろですって。
あの圧のすごいパワハラ上司に、提出させられるの。
失敗したら私の責任問題じゃん。
「困ったなぁ、私生きてるだけで精一杯なのに」
まだ私の心の奥底は、混乱だってしてる。
それに、なかなか消えない絶望感だってあるんだよ。
そうだ!
この際、「そんなこと話してない」って言い張ってみようかしら。
そうだ、そうだ。そうしよう。
私マリーさん。やっぱり天才だった。
これで使用人たちに恩を売ることもない。
何より更に父から信頼もさらに無くせちゃうという技。
はい。
味方減りましたー。
うえーいですぅ。
一応、主人公は侍女をパティと呼んでいますがパトリシアであることは記憶してます。