主人公、当主に楯突いてみた
執務室にこもり切りの父が、夕食に参加するらしい。
私は食事の為の着替えをパティに手伝ってもらっている。
「体調が良くないって言って、食堂に行かなくていいってことは無いわよね」
私はパティに聞いてみた。
「蜂蜜は出来る限り控えるようにと厨房にも伝えました」
お、おう。スルーですか。
蜂に刺されたせいで昏睡状態に陥っていたらしいのだ。
私ってアレルギー体質だったのか。
さて一緒に夕食をとることになった父。
私は彼から嫌われている。
だから父に今更楯突く必要もない。
マリー昔はマリー母と共に、ドレスやゴシップにしか興味が無いからだ。
「これからはあんまり新しいドレスもいらないからなぁ」
「さようでございますか」
とはいえ「いらないって言っても買うんでしょ」とは思っていそう。
そりゃそうだよね。
「準備にもっと時間かけていいわよ」
「さ、終了いたしましたから食堂へどうぞ」
「あ、うん」
ひどい。
なんか冷たい。
父から嫌われているのは良いのよ。
このままの関係でいれば「公爵」が味方じゃないから。
問題はあの空気に私が耐えられるかなんだよね。
「もしお食事中にマリーお嬢様のご気分が優れないようでしたら、すぐにお申し付けください」
やっぱり優しいわ、パティさん。
「お父様、大変ご心配おかけいたしました」
私は父が食堂に来てすぐに伝えた。
「あぁ」
うん、いつもの感じですね。
両親は正反対の人間と言ってもいいはずだ。
何故こんなにも価値観の違う二人は結婚したのだろう。
やっぱり政略結婚か。
ぼんやりと考えていた私に母がかな切り声を上げた。
「ねぇ聞いてるのマリー?」
「失礼いたしました。食事が美味しくて」
「当然よ。メニューはいつも通り、わたくしがかんがえたんですもの」
「そうだな。君は本当に素晴らしい妻だよ」
父が口を挟んだ。
言葉だけを聞くと褒めているようだが、なぁんか含みを感じちゃう。
「マリー聞いた?
あたなのお父様はとても、わたくしを大切にしてくださってるでしょう。
あなたもこんな素敵な殿方を見つけるのよ」
母の言葉を引き継ぐように、父が私に話しかけてきた。
「そうだな。君はすぐにでもアカデミーに行けるようにしているそうじゃないか」
公爵様だから?なんか圧すごくない?
「はい、思いがけず体力が落ちていたようです」
「4月から1年生としてナイロ国の王子が留学してくるそうだしな」
「左様でございましたか」
知らんがな。
そんな事より、このお肉美味しい。
ん?待てよ。
「お父様。あの隣のナイロ国の、ですか?」
家の図書室にあったあの役に立ちそうにない神話本に載っていたんだよね。
昔からフルーム国とナイロ国は小競り合いを繰り替えしているみたいな話。
「あぁ、そうだ。噂ではナイロの王子は見目麗しいそうじゃないか」
狙ってるんだろう?的な嫌味ですか。
はい、そうですか。
今もママンがぎゃーぎゃー言ってるけど無視して、父に質問をした。
私には気になることがあったからだ。
「お父様、王子の件は決定事項なのでしょうか」
「あぁ、そうだ」
「お止めになられた方がよくありませんか。
王子のアカデミーへの受け入れをです」
父は胡散臭そうに私を見た。
母は「あなたがそんな事に口を挟むなんて」だの何だの言っている。
「ナイロ国とは表向き友好的だったと思うのですが」
うーん、私が言う事でもないか。
「いえ、私の話は忘れて下さいお父様」
「気になるな、マリーの深い考えを教えてくれ」
やだー「深い考え」とか、明らかに嫌味じゃん。
続けて話しても話さなくても、ご当主に喧嘩売ることになったようです。
ありがてぇ、隣国の王子様。
「それでは、お言葉に甘えて」
持っていたナイフとフォークをテーブルに置く。
私が彼にきちんと視線を向けるために。
「端的に申し上げます。スパイを受け入れるようなものです」
私の言ったことを聞いて、更にママンがぎゃーぎゃー騒いでいる。
「つまり?」
珍しく父が私の話にきちんと興味を示したらしい。
食事の手を止めている。
ついでに母のぎゃーぎゃーも、父が軽く手を挙げ止めている。
「アカデミーは貴族の子女であれば誰でも入れます。
しかし我が国の頭脳の礎でもあります」
「そうだな」
「上手く表現できかねるのですが」
もう良いでしょうと暗に伝えるため、私は食事を再開するふりをした。
「気にせず続けなさい」と父は言った。
気にせずも何も、説明するべきか迷うんだよな。
仕方ないチラっと思ったことを話すしかなさそうだ。
「そう、ですね。
ナイロ国は我々にとって非友好的な相手だと記憶しています。
アカデミーに入学させるのは考え方や思考の仕方を教える気がいたしまして。
如何なものかと思ったのです」
「そうか」
父は私の意見に急に興味を失ったらしく、こう一言告げた。
つまり、話を打ち切ったのだ。
父はナプキンをテーブルに投げ置いた。
「そろそろ私は席を外す。お前たちはゆっくり食事の続きをすると良い」
私は席を立った彼に笑顔を向けて、食事を再開。
スタスタと部屋を出てい父。パワハラ上司って感じだな。
一応、親だからパワーペアレントってことはパワペアか。
パワペアって響きはちょっとかわいい。気がする。
相変わらずドレスや噂話をしている母。
私は適当に相槌を打っていた。
「そうそう、マリー。
あなたがアカデミーに行くときにはパトリシアの変わりに次の侍女頭が付いて行くから」
「侍女は付いて行けませんよ、母上」
パトリシアって誰だっけ?そうだ、パティの事だ。
それよりもパティが侍女頭だったはずなのに「次の」ってどういうこと?