(自称)世紀の大悪女、ここに誕生
「マリー様、本日のお加減はいかがでしょうか」
私をマリーと呼んだお仕着せを着た女性から質問を受けた。
「ありがとう。もう大分すっきりしてるから大丈夫だと思う」
私をマリー様と呼んだ女性に、私はベッドに座ったまま答える。
一週間程前にこちらの世界で目を覚ましたらしい。
「らしい」というのは、ここ2~3日前まで頭の中に紗がかかったようで意識が混濁していたからだ。
「一昨日程から大分楽になられた様子で、本当にようございました」
「えぇ、びっくりさせちゃったみたいね。心配かけたわ」
私の一言にメイドが一瞬目を見開いた気がした。
「お気づきになられたと、奥様に報告して参ります」
そう言って、侍女の女性は静かに扉を閉め出て行った。
「はぁ、全くもう」
私は呟いていた。
「頭の中を整理しよう」
天蓋付きの大きなベッドから降り、お高そうな机に向かう。
『私の名前はマリー・オレリアン。
ダントン・オレリアン公爵の娘』羊皮紙に記入していく。
「一応マリーとしての’過去の’記憶もある。もちろん日本での記憶も」
『今は1828年3月2日のフルーム国』
目が覚めることのないようにと、大量に薬を飲んだのは確か3月の始め。
21世紀の日本での事だ。
『《夜明け前》という漫画の世界』
「とりあえず、現状はこれくらいかな」
ペンを持った手を顎に付け、机に肘をついた。
「しかしなんか雑なタイトル。そりゃすぐ打ち切りになるよね」
きっと、近代だか中世風のヨーロッパ感が気に入ったのね。
うんうんと自分の寝間着や部屋の中をぐるりと見た。
「確か学校が始まって」と言いながら
『私やヒロインが最高学年になるところから物語が始まる』と続いて記入。
アカデミーと呼ばれる学校で、ヒロインと主にこの国の王子様と恋物語のようだった。
「何でかわかんないけど、4月から始まって大学みたいに前期と後期に別れてたんだっけ」
この学校のには王族や貴族たちが通っている。
「私もマリー・オレリアンとして春休みが終わったら3年生になるんだよねぇ」
そう、転生だか憑依した先のマリーとして。
漫画の中でのマリーは、とにかく私は苦手だった。
ヒロインいじめまくってたから。
「途中で終わるから、最終回にマリーたちは斬首刑になりましたって一言あっただけで」
マリーは最高学年の終わりに斬首刑となる公爵令嬢。
理由は、分からん。けどギロチン。
最高学年になるのはあと約一カ月後から。
記憶が確かなら、あと約一年後に処刑台に送り。
「という事は」と思わず拍手しちゃった。
何でって?当然です。
こっちで目が覚める前までは死ぬ気満々だったの。
合法的に一年後、この世界の住人じゃなくなるんです。
むしろ、あと一年も我慢して生きてやるつもりなんだから。
感謝してよねーって感じ。
「一応ね、ここは今までと違って日本じゃないし」
私は世界が変わったことを確認するために、窓からの景色を眺める。
他の世界とはいえ目が覚めてしまった。
意識が混濁していた時から既にマリーになっていた。
意識がはっきりしてからもマリーだった。
認めるしかない。世界が変わったことを。
そろそろ考えるのも疲れたから、ベッドに戻ることにした。
「ふわっふわぁ」って言いながら、枕を抱っこしベッドにもう一度倒れ込む。
天蓋付きベッドなんてお金持ちに生まれ変わったって感じするよ本当に。
意識がはっきりしてから、私なぁんもしてない気さえしてる。
ぜーんぶ、侍女さんたちがやってくれちゃってるからさ。
「彼女たちがいろいろ手伝ってくれてるお陰かなぁ」
日本にいた時のような、日々追われてるっていう感じがしない。
目覚めてから聞いたことを総合するに漫画『夜明け前』の世界で間違いだろう。
つまり私は公爵家のご令嬢っていうこと。「お姫様なのだ!!」
この国の権力にとぉっても近い。
だ、か、ら。
一年後の斬首刑までに悪さを重ねておくの。
何故って?
悪女として名を残せるかなーって。
せっかく権力に近いんだもん。
どうせなら歴史に爪跡を残せたらいいなぁって。
私はずっと世の中の小さな歯車でしかなかった。
こんな機会なかなかないよ!
「世紀の大悪女に私はなるっ!」ってね。
漫画の中ではただの、意地の悪い役でしかなっかた私。
私が乗っ取ったマリーは、ただの悪役じゃなくて正しい「悪人」の御令嬢になってやるのだ!!
「そう、ギロチン一直線の為に」
この台詞を人差し指差しながら堂々と言ったら、決めぜりふっぽくなるよね。
「ほーっほっほっほ」
なぁんて一人でお嬢様ごっこ。
「問題はなぁ、マリー昔との性格の違いだよねぇ」
私は枕を抱っこしたまま、ベッドをごろごろする。
本当にこのベッドふわっふわの、ふっかふか。
寝転んだまま、もう一度部屋中を眺めた。
「日本で住んでた時のアパートの部屋と、今の私の部屋。
大きさ一緒。なんなら、この部屋の方が広いんだよねぇ。
ひぇぇぇぇ」
思わず気持ちの悪い声を出してしまう。
仕方ないよね。
マリー昔は生まれた時からホテルのようなお城が家。
マリー今はついさっきまでちっちゃい1LDKに一人で住んでたアラサー。
「そんな二人が、同じような考え持つわけないもん」
これからは、どんどん悪人になる予定の私だけど、やることはちっちゃいよ!
何故なら人間がちっちゃいからね!中の人の思考が残念だもん。
「っていうか、一週間くらい寝込んでいた私が学校行けるのかな。
体力的なこともだし周囲の目みたいなのも含めて」
お屋敷内広いから、お散歩がてら運動も良いかなぁ。と、ベッドから降り室内履きを履く。
「とにかく私はヒロインと会って、全方向から嫌われて味方のいない状況にならないと」
私は呟きながら、お散歩がてら屋敷内の図書室に向かう事にした。
今後の悪人計画の資料をゲットするために!