94 天然キザ男はこれだから困る
三人で屋台の通りにやってきた。お祭りということもあってかいつもより出店数も多く、お客さんで賑わっている。
お小遣いはもらっているので食べ歩きをしたい、という私の要望に笑顔で応えてくれる二人。うーん、いいお兄ちゃんを持ったなー。
甘いカステラの串に、フルーツの飴。甘いものの後はしょっぱいものが食べたくなって、肉の串焼きとたっぷりチーズのパンも食べた。全部三人で分け合ったよ。
さすがに一人前を食べたらお腹いっぱいになっちゃう。夕食はお屋敷で美味しいものもたくさん食べなきゃいけないからね!
その後は歩きながら歌や踊りを見たり、気になった品物の前で足を止めたり。
「あ、この髪飾り……リュドミラに似合いそう」
ふとオリドが立ち止まって少し頬を染めてそんなことを言う。
ふふ、オリドは相変わらずリュドミラちゃんのこと大好きだよね。日を追うごとに綺麗になっていくもんなー、リュドミラちゃんは。
オリドが見ていたのは銀細工の小鳥の形をした髪飾りだった。くちばしで小さな花を一輪くわえていて、花の中央に水色の宝石が埋め込まれている。
こういう店で売ってる宝石って、屑石って呼ばれている、いわゆる道具として商品にするには使えない宝石が使われているんだよね。キラキラで十分かわいいから、町の女の子たちには人気だったりする。
うん、たしかにリュドミラちゃんのふわふわな金髪に似合いそう。
「リュドミラちゃん、今日は都合がつかなくて来られなかったんでしょ? きっと残念がっているから次に会った時にプレゼントしたら?」
「そうだね、そうする」
「水色の石ってところが、独占欲を主張してるよね。自分の瞳の色を身につけさせるなんてさ」
「うっ。そ、そりゃあリュドミラはかわいいから、変な虫がつかないようにするのは当然なの!」
「はいはい。ごちそうさまー」
顔を真っ赤にしちゃって、オリドもまだまだかわいいなー。
と、からかって遊んでいるとリビオが元気に声をかけてきた。
「なぁ! ルージュはこっちが似合いそう!」
えっ、私?
思ってもみなかった発言にビックリして声が裏返っちゃった。
「そ、そうかな?」
「うん。サンリィの花って前からルージュっぽいって思っててさ。ほら、太陽みたいだろ?」
「え、私って太陽みたいなの? 髪が赤いから? 目がオレンジだから?」
「んー……」
私の色合いが太陽っぽいと言われたらたしかにそう。でも性格はそうでもないんだよね。
私には太陽、眩しすぎる。
けれどリビオは胸に手を当てながら恥ずかしげもなく語った。
「ルージュと一緒にいると、ここがぽかぽかあったかくなる。それがさ、陽の光に照らされているみたいで好きなんだ! だからルージュは俺の太陽なのかも!」
「うわ、素でそんなキザなことを……」
「えー、キザかなぁ。だって本当にそう思うんだもん」
天然のキザ発言、恐ろしい。なんかこっちのほうが恥ずかしくなってくるじゃん。
「リビオのほうがよっぽど太陽みたいじゃん。元気だし、明るいし、熱血だし」
「そうか? じゃ、俺らは二人とも太陽だな! お揃いだ!」
「太陽二つとか、熱すぎるよ」
どこまでも無邪気なリビオと話していたら、もう笑うのを我慢なんてできないね。
あはは、と二人して声をあげて笑っちゃった。
リビオもまだまだ子どもなだなーって感じ。二人とも、今日成人したんじゃなかったの?
「でもさ。ルージュは太陽っつっても、夕日みたいなんだよな。陽の光が夜に隠れてしまう前の、ちょっと寂しい最後の灯っていうかさ。寂しいのに力強く感じて……って、何言ってんだろ、俺。最後の灯とか、ルージュには寂しいイメージなんてないのに。えーっと、えっと、もっと明るいイメージで!」
リビオが急に一人で慌て始めた。
そんなに慌てなくてもいいのに。だって私としては寂しい太陽のイメージのほうがしっくりくる。
私はずっと寂しかった。それは間違いないから。
もちろん、エルファレス家のみんなと出会う前は、だけどね。
仕方ないな、という目で見ていると、ようやく何かを思いついたようにリビオが再び口を開いた。
「そうだ! 太陽ってさ、絶対にまた昇るじゃん? 必ずまた燃えてくれるっていう希望みたいなのを感じるんだ」
「そういう考えもできるね、たしかに」
「夕日って優しくて強い太陽なんだよ。ルージュは俺にとっての希望だからぴったりだろ?」
「き、希望って……!」
無理無理、さすがにこの天然キザ発言で赤くなるなってほうが無理!
ちょ、オリド、横からつついてこないで! さっきの仕返しってこと?
こんなの面と向かって言われたら、惚れた腫れた関係なく照れるに決まってるじゃん!
だというのに当の発言者リビオは気にした様子もなくサンリィの花の髪飾りを手に取ってお金を支払うと、流れるように私に手渡してきた。
「だからこれ、プレゼントな!」
「え」
「ルージュがくれたみたいなさ、魔法とかなんもないただの髪飾りだけど。これが俺からの、ルージュのお守りな!」
手のひらの上に乗せられたサンリィの花の髪飾りは、明るい金色でキラキラと輝いて見えた。
中央にはオレンジ色の屑石。赤い髪につけてもあまり目立たない。
私の髪に映えるようなデザインではないけど、リビオが私っぽいからと選んでくれたことが嬉しい。
今夜から、またしばらく会えなくなる。思いがけない贈り物だったけど、これのおかげでがんばれそうだ。
「……ありがとう、リビオ」
「おう!」
「ね、着けてよ!」
「よっしゃ、任せろ!」
一度ぎゅっと髪飾りを胸の前で抱き締めてからリビオに頼むと、快く着けてくれた。不器用ながら一生懸命がんばってくれている。
「似合う?」
「似合う!!」
「本当かなぁ。私の髪だと目立たないんじゃない?」
「うっ、そ、それは、そうかもしれないけど……俺が似合うと思うから似合う!!」
「なにそれ。……ぷっ、あはは!!」
「な、ルージュ! からかったなー?」
本当に、ありがとうね。リビオ。