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83 それって愛じゃん


 丸投げにされたベル先生は最初こそ驚いた様子を見せたけど、すぐにまぁ仕方ないかと言いながら眉尻を下げて笑った。


 そうでしょ? だって、私からは話せないんだもん。


 正確に言うと、私がどこまで話せるかがわからないのだ。


 私は足首に付いている魔道具に意識を向ける。

 結局、腕ではなく足首に装着することとなった約束の魔道具。あんまり人に見られたくないからね。


 エルファレス家に戻って全身隈なく健康診断をされた時のこと。案の定あっさりとフクロウ仮面の魔道具が見つかった。


 もうそれはびっくりするほどあっという間に。


『健康診断を始める前に、一つだけ聞いておきたいのだけれど。……その足枷(・・)は無理矢理つけられた?』


 あの時の表情が抜け落ちたベル先生の顔は忘れられない。

 恐らく、私と再会した瞬間に気づいていたのだろう。見えない場所に身につけていたというのに……恐ろしや、ベル先生の慧眼。


 すぐに魔塔の魔道具専門家たちが調べてくれて、ある条件を満たすと私がやばいってところまで見抜いてくれた。

 フクロウ仮面があんなに時間をかけて作ったのに、魔塔の人たちもやっぱりすごい。


 それで、条件がなんなのかを私とすり合わせていくことで恐らく情報を漏らさないことだろう、というところまで突き止めたんだよね。

 答えがわかっているのに頷くことも否定もできないのはもどかしかったなぁ。ルージュはなにも反応しないで! ってみんなに言われて、ぐぬぬったのがまるで昨日のことのよう……。


 伝えていいこととだめなことをノアールと念入りに話し合ったはずなんだけどなぁ。

 思っていた以上に穴があったというか、ベル先生たちの質問が鋭かったというか。


 正直、途中からは私にも明かして大丈夫な情報のラインがわからなくなっちゃったから曖昧になったけど、わからない時は答えなくていいとベル先生が言ってくれたんだよね。


 何が発動条件かわからない以上は触れないのが鉄則ってわけだ。私だって戻ったばかりでまたノアールの下に転移なんてことになったら泣く。


 というわけで、ループの事情については私ではなくベル先生からしてもらいます。

 たぶん私が話しても大丈夫なラインだと思うけどね。念には念を入れておきたいのだ。


「……ルージュ、初めて会った時から妙に生意気な子どもだと思ってたけど。中身は大人みたいなもんだったんだな」

「生意気って」

「子どもらしからぬ言動や魔法の腕前。ようやく納得できた気がするな」

「クローディーまで。二人とも受け入れ早くない? そんなに簡単に信じられるような話じゃないと思うんだけど?」


 そして、説明を聞いたばかりの二人の反応がこちら。納得するのが早い。早すぎる。


 でも魔法使いがこういう不思議現象を受け入れるのが早いのはわからなくもないか。


 ……いや、絶対に違う。

 魔法の知識があるからこそ、何度も世界規模でループする呪いがどれほどあり得ないものかわかるはずだ。

 やっぱり受け入れが早すぎる。柔軟すぎる。ありがたいやら、困惑するやら。


「だって、ベルナールもルージュもそんな嘘吐く必要ないじゃん」

「そもそも、くだらない嘘など吐かないだろう。真実を言わず煙に巻くだけで嘘は言わないのがベルナールだ」

「あー、それはそう」


 すごい説得力だ。これには私のほうが納得してしまった。あっ、ベル先生の笑みが深まっている。


「でも、わかったよ。その迷惑な呪いを解くために暗黒騎士と協力するのが最善策ってわけね。理解はしたけど……やっぱり納得いかねぇ! あっちがルージュを巻き込んだんじゃん!」

「落ち着くんだ、ジュン。気持ちはわかるよ? 僕も今ジュンが言ったことを一通り叫んだからね」

「ベルナール、叫んだのか……」

「当たり前だろう!? 僕のかわいい娘がこんな目に遭っているというのに、叫ばない父親がどこにいると思って」

「わ、わかった、わかった。俺だって気持ちはわかっている。お前のほうこそ落ち着けベルナール」


 急に大人たちがぷんぷんし始めた。それを見ていたらなんていうか……変な気分。


 私が一番苛立っているはずなのに、なぜだか怒りとかそういう感情がすーっと消えていくのを感じる。


 私のことでみんなが怒ってくれているのが嬉しいんだ。もしかして、ママやリビオやオリドも怒ってくれるのかな。

 なんだか悪いな。怒ってるのにそれが嬉しいなんてさ。


 だって、それって愛じゃん。


 急に笑いが込み上げてきて、我慢しきれずに声を上げて笑ってしまう。


「ぷっ、あははは! みんな私のこと好きすぎ!」


 愛されているなぁって実感できるなんて、幸せすぎるよ、私。

 今回の人生はこれまでで一番人に愛されているかもしれない。というか、そう感じられるのが尊いよ。


 いろいろピンチも多くてさ、何度か「ああ、またループするんだな」なんて思ったりもしたけど、ギリギリのところで人生が終わらずに済んでいる。

 このまま順調に魔王をぶっ倒して、これまでのループ人生の中で最も幸せな今のまま大人になっていきたいよ。


 一人でけらけら笑っていると、ベル先生が膝をついて目線を合わせてくれた。


「そうさ。みんなルージュのことが好きなんだよ。僕は愛しているけどね」

「んふっ、わかってるよ」


 もー、これ以上笑わせないでよ。胸の奥がくすぐったい。

 目線を上げると、クローディーとジュンの二人が目を細めて私たちを見つめてくれていた。


 いやいや、貴方たちもだからね? 私は二人にも笑いかけた。


「だから大好きな私のためにさ、クローディーもジュンも協力してくんない?」


 私がそう言うと、二人はきょとんとした顔をした後すぐに声を上げて笑った。


「はは、無論だ。協力させてもらう」

「ったく、調子乗んなよ? 仕方ないから協力してやるよ!」


 わしゃわしゃと頭を撫でてくるジュンに抗議の声を上げながら、私たちは暫しの間笑い合う。


 よし、スッキリしたところで今度こそ作戦会議といこうじゃないの!


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