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81 良心が痛むんだけど?


 エルファレス家へ帰ってきてからひと月が経った。

 なんだかバタバタしっぱなしで、ノアールたちのところにいたのがもうずっと昔のことのように錯覚してしまう。


 帰ってからの数日間はひたすら療養させられたんだけど、なんというか休めた気はしない。


 予想していた通りたくさんの検査を受けたし、常に誰かが側にいたし、家族はこれでもかというほど過保護が酷くなっていたしでそれはもう忙しかったよ。療養とは……?


 でも屋敷内で穏やかに過ごしているという点では療養といえる。


 激しい運動どころか、このひと月魔法を一つも使っていないもん。というか、使わせてくれない。

 腕が鈍りそうで怖いけど、許してくれないんだよね、ベル先生が。


 しかもあれこれと話を聞きたいだろうに、私が戸惑うほど何も聞かれない。

 むしろ私が話したくて口を開きかけても、まだ休む時間と言われてしまって何も話せずじまいだ。


 たぶんだけど、私の精神面に配慮してくれてるんだと思う。


 何度も心折れるループを繰り返している身としてはこの程度なんてことはないんだけど……。

 ベル先生に「カミーユが泣くから」と言われてしまっては従うしかない。ママに泣かれるのは私も嫌だ。


 そして、ようやくひと月が経った。


 私がワガママを言わず、ママたちの言うことを良く聞き、大人しく過ごしていたからこそやっと諸々が解禁した。今日から事情を聞いてくれるという。


 あまりにも暇だったのでノートに話したいことをまとめちゃったんだよねー。ある意味、状況整理ができたからよかったかもしれない。


 ノアールやフクロウ仮面が知ったら「ひと月もなにをしていたんだ」と言われそうだけど知ったこっちゃないね。私は家族のことが大事なのだ。


 というわけで、今日はとても久しぶりに魔塔へ向かいます。ジュンやクローディーにも会える。

 正直、楽しみな気持ちと気まずい気持ちがあってすごく複雑だ。


 たぶんあの二人には責任を感じさせてしまったと思うし……。それをいうならラシダさんだってそうだ。


 誰も悪くなかったとか、私はこうして無事に帰ってきたからとか、そういうことじゃないんだよね。


 あの日、あの時、誰にもどうすることもできなかったということ自体が問題で、悔しいんだから。


 逆の立場だったら私だってずっとへこむし引き摺っていると思う。だから二人がどんな反応をするのか、そしてそれをどう受け止めればいいのかわからない。


 ここであれこれ考えたって仕方ないんだけど……でも、戸惑う気持ち以上にはやく会いたい気持ちが勝っている。


 よし。どーんと構えていよう。

 と、覚悟を決めてきたはいいものの。


「うぅぅ、ぐすっ、うぁぁ……ずびっ」

「……ジュン、ルージュがものすごく困ってるぞ」

「うぅ、うるさい! 仕方ないだろぉっ、うああああん!!」


 再会して二秒、ジュンが私に抱きついて泣き続けていて、もうどうしたらいいのって感じです。

 しかも、ごめんごめんってずっと言われ続けている。


 こ、これは私の良心が痛む……!

 意外と好待遇だったとか言えない雰囲気だよ!


 とりあえず地面に座り込んで腰に抱きついているジュンの頭をひたすら撫で続けている。よしよし。


 なんともいえない複雑そうな表情を浮かべているのは私だけではない。

 クローディーもまた同じような顔をしながら私の前に来て、片膝をついてこちらを見つめてきた。


 身体が大きいので両膝をついてようやく私と同じくらいの目線になる。ジュンのフォローをしてくれるのかな?

 と思ったら、クローディーは頭を思い切り下げてきた。それはもう、地面に額がつくほどに。うぇっ!?


「ジュンがこんな状態で言うのもなんだが……けじめとして言わせてくれ。ルージュ、本当にすまなかった。俺たちは決してルージュから目を離すべきじゃなかった」

「あ、頭を上げてよクローディー! 私はあの時、信頼してもらえたみたいで嬉しかったんだから。むしろ謝るのはこっちだよ。せっかく信じてもらえたのに連れていかれるような失態を……」

「お前っ、まだ子どもだろぉがぁっ! ぐすっ、絶対に大人であるボクらが悪いんだよっ、謝るな!!」

「……ハイ」


 私が反省の意を示すと、許さないとばかりにジュンが叫ぶ。もはや返事しかできない。


 困ったな、私からの謝罪は受け取ってもらえないみたいだ。それに関してはクローディーも同じ気持ちみたいだし。

 えぇと、こういう時ってどうしたらいいんだろう。


 困り果てた私はチラッとベル先生に視線を送って助けを求めた。

 ベル先生はクスッと眉尻を下げながら笑うと、私たちに歩み寄る。


「ほらジュン、そろそろ離れなさい。ずっと謝られ続けるほうの気持ちも考えてごらん?」

「わ、わかってるけどさぁ」

「前にも言ったよね。これからのことを考えようって。今は過去を後悔して立ち止まっている暇はないんだよ」


 ベル先生がぽんと一つだけジュンの頭を撫でると、ようやく私の身体を離して服の袖で乱暴に涙を拭いた。

 泣き腫らした目と鼻が真っ赤になっていて、また心が痛んだ。


「っ、ずびっ、そう、だな。うん、わかった。ルージュ、本当にごめんな」

「うん。謝罪を受け入れるよ、ジュン。クローディーも」

「ああ、ありがとう」

「ぐすっ、よし。もう言わない。切り替える」


 一時はどうなることかと思ったけど……よかった。

 それだけに、またいつかみんなの元を去らなきゃいけない日が来ることがどうしようもなく切ない。


 ……まぁ。まだ先のことだし、それまでに心の整理をしておこうっと。


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再開めでてぇな!ヨッ! 『状況整理しましょう(クイクイ)』 『…眼鏡とかホワイトボードとか小道具、誰が用意したの』 『(ス…)娘のお願いだからぁ』 『『わからんでもない!』』
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