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75 それでも私はこいつが憎い


 その後ノアールは一度、呪いの解呪について話題を変えた。

 そうだ、本来聞きたいのはそれだったね。


 魔王の復活が迫っていることについてはもちろん無視できないけど、今慌てたところでどうしようもない。


「呪いについてはフクロウのほうが詳しい。説明を頼む」

「……わかりました」


 フクロウ仮面はチラッと目だけを動かして私を見ると、軽くフンと鼻を鳴らして小さく頷いた。


 はいはい、わかってるよ。私のためじゃなくてノアールの言うことだから仕方なく聞くってことね。


「呪いというのは、かけるより解くのが難しいものだ。解呪には対価が必要となる。呪いが複雑であればあるほど対価も複雑だ」


 魔王がノアールにかけた呪いは「死に戻り」だ。

 つまり、解呪に必要な対価はとんでもなく複雑なんじゃないかって簡単に予想がつく。


「だが相応のもの、と言っても曖昧だ。そのため、基本的に呪いの内容にあわせて考えればいい。たとえば声を失う呪いの解呪には新しい声を用意する必要がある。音を操る魔法使いがいれば容易いものの、普通は都合よくそんな魔法使いはいないがな。死の呪いなら、呪いを受けた本人が命を生み出す必要がある。動物や虫を交配させることでも代用可能だ」


 なるほど、ある意味わかりやすいかも。死の呪いを解く方法が思っていたより簡単なのは驚いたけど。

 子どもを作らなきゃいけないとなると複雑だけど代用できるんだもんね。


 命の重さはどれも等しいと世界が判断しているからだとフクロウ仮面は言う。

 ふむ、世界にとっては人も動物も虫も全て同じ重さの命ってことか。


 呪いが複雑であればあるほど難しいという意味がよくわかったよ。

 解呪が絶望的な呪いなんてかけられた日には途方に暮れるよね。それがノアールであり、私である。


 っていうか、そういう法則ならループの解呪方法ってさ……。

 嫌な予感はするけど、はっきりさせないと意味がない。私は覚悟を決めて口を開いた。


「ノアールのかけられた呪いは死ねない呪いだから、命を捧げなければならない、ってこと?」

「ルージュ、私のかけられた呪いはそれだけではない。死ねず、時間が戻るのだ」

「あ。でも、時間なんてどうやって対価を払えば……?」


 それこそ詰みでは? 未来の時間を渡すなんて、死ぬしかなくない? しかもループの回数が途方もないんだからノアールや私の未来の時間程度じゃ……。


 そこまで考えてザッと血の気が引いた。


「普通に考えるなら、ループを繰り返した分、誰かの未来を支払う必要がある」

「そ、んなの……一体どれほどの人数の未来を奪えば……」


 ノアールや私だけで済むなら別にいい。あんまりよくないけど、それで終わらせられるならって覚悟もできる。

 でも、関係のないたくさんの人の未来まで奪わなければならないっていうの……?


「っ、まさか、そのためにノアールは殺戮を」

「それは違う。……と思いたいが、正直なところ『俺』がどういう意図をもって殺戮を繰り返すのかはわからない。本能で解呪法を感じ取ってがむしゃらに未来を奪っている可能性もなくはない」

「自分のことなのに、わからないの?」

「私が自我を失っている間の記憶はあっても、『俺』の考えまではわからない。それは逆もしかりだが、『俺』は私のことなど興味もないだろうな。ただ、殺戮を繰り返すのみだ」

「ちょっとよくわかんないんだけど?」


 曰く、自我を失った状態のノアールは敵味方関係なく殺戮を繰り返すだけの、魔王に生み出された傀儡なのだという。

 それがノアールの言うところの「俺」ってことか。


 つまり私たちの知る恐怖の権化たる暗黒騎士は「俺」ってわけね。


 ノアールは少しずつ自我を保てる時間が伸びていて、今はフクロウ仮面の魔道具によってほぼ「俺」が出てくることはないという。


 本当? 信じていいのそれ? 突然自我を失って暴れ出して殺されるなんてことない?

 まぁ、そうなったらもう諦めるしかないけどね。またループして魔王の時間稼ぎに貢献するのは絶対に阻止したいけど。


 でもようやく腑に落ちたよ。ノアールが私に危害を加えない理由がね。


 こいつは自我さえ保っていれば、無駄に殺生する気はないんだ。

 邪魔なら殺す、みたいなところはあるっぽいけど、殺戮マシンより交渉の余地がある分ずっとマシ。


 そうなると、聞いておきたいのはこれだよね。


「じゃあ、魔王の味方じゃないってこと?」

「私はただの操り人形だ。意思など持たない、な」

「傀儡のほうは、でしょ? そうじゃなくて、あなたはどうなんだって聞いてるの」


 敵か味方か。


 なーんて、そんな二択でわけられるような関係じゃないってことはわかるよ。

 いくら自我がない傀儡のせいだとわかったとしても、心は追い付かない。


 今でも怖いし、憎いし、殺したい。


 ただ、悔しいことに私はこいつと運命共同体だ。呪いの解呪が叶うまで、協力関係くらいにはなってやってもいい。


「私にとって魔王は敵だ。ヤツを殺せば、呪いの解呪に一歩近付く」

「対価の命、ってこと?」

「いや、時間のほうだ。ヤツはこれまで私がループした時間を使って回復をしている。それをそのまま返す形になるだろう」


 えっ。そ、それじゃあ……無関係の人を大量に殺戮しなくてもいい、ってこと?


「だが、魔王に生み出された私は魔王に攻撃することができない。『俺』を抑える魔道具も意味をなさず、私は自我を奪われるだろう」


 うっ、最大戦力のノアールは魔王に逆らえないのか。だから傀儡は殺戮という方法をとったのかもね。


「つまり、魔王討伐に協力しろって言いたいの? だから私を連れてきた?」

「それもあるが、どのみち人間たちは再び戦力を集めて魔王討伐に向かうだろう。そして、いつも魔王に会う前に負ける。私に阻まれてな」

「あんたのせいじゃん……。じゃあ私に何をしろっていうの」


 目を細めて私がそう言うと、ノアールは一度言葉を切って黙り、数秒後に再び口を開いた。


「魔王を倒した後、ルージュの手で私を殺せ。私の命が、対価となるだろう」


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