74 聞きたくなかったよ、でも聞かせて。
さ、いい加減色々と聞かせてもらおうじゃないの。
私が偉そうな態度を取ったところで機嫌が悪くなることもなさそうなので、開き直ってもうなにも気にしないことにした。
というか、こちらが話を切り出さないとなにも進まない気がしてきたし。
「呪いを解く方法も気になるけど……結局、どういう経緯で協力者になったの? フクロウ仮面のほうはノアールのことだーいすきみたいだし、ひょっとして元々知り合いだったとか?」
「それはわからない」
「なに、わからないって……」
「私は魔王によって生み出された殺戮兵器でしかない。知り合いなどいようはずもない」
「なるほど? じゃあ、知り合いの誰かに似てたりするの? でもノアールだって仮面だし、顔なんてわからないよね?」
話している途中でフクロウ仮面のほうに質問を投げかけるも、やつは微動だにせずこちらに目もくれない。
なんだかムカついたのでさらに質問を重ねてみた。
「ねぇ。どうしてそんな凄腕の魔法使いなのに、どこにも所属してないの? 魔塔には行かなかったの?」
「……」
「無視ね。別に話したくなきゃいいけど」
答えてくれないとは思ったけどね。態度悪ぅ!
そんないけ好かない野郎なフクロウ仮面だけど、その実力はたしかなんだよなぁ。
アンチマジックとか防御や隠蔽とかの魔法って実はかなり難しいし。私も一応は使えるけど、完璧に防ぐことは無理だ。
そっち方面に適性のある魔法使いであっても、こいつほどの使い手はいないと思う。ベル先生が知ったら魔塔に来てもらいたがるだろうな。悔しいから絶対に言ってやらないけど。
「もういいや、フクロウ仮面のことは。じゃあ本題に入るけど……ノアールにかけられたループの呪いを解く方法ってなんなの? 本当に私が必要なの?」
「それを話すには、まずこの呪いが誰によってかけられたのかを知る必要がある」
ああ、それも気になってたよ。でも大体予想はついてる。
これについてはベル先生とも推測を話したことがあるんだよね。確信はなかったけど、他にいないよねってことで。
「魔王、でしょ?」
「わかるのか」
「やっぱそうなんだ……わかる、っていうか。他にこんな複雑な呪いをかけられる存在なんて考えられないじゃん」
あっさり答えを聞かされて拍子抜けだよ。半分以上は確信していたけどさ。
はぁ、魔王か。私には絶対に倒せない、それどころか近づくことさえできない脅威だと思っていたけど、なんだか身近になっちゃったな。
一番最初の人生で女剣士として挑み、あっさりノアールに負けて……心折れてからはずっと関わらないようにしてきたけど、そういうわけにもいかなそうで絶望するよ。
いくら魔法を覚えたからって、魔王に適うわけないじゃん。どうしろっていうの……。
「では、なぜ魔王はこんな呪いをわざわざかけたのか。その理由はわかるか」
「わかんないし、どうでもいいよ」
「どうでもいい、か。この呪いをかけることで、魔王が時間稼ぎをしている、と知ってもか」
投げやりな気持ちでいたところへ、思わぬ話を聞かされて視線を上げる。
ループの呪いが、時間稼ぎ? どういうこと?
「先代勇者との戦いで魔王は敗北し、魔力が回復しきる前に再び勇者が現れ、魔王は戦いを余儀なくされた。その戦いではどうにか魔王が勝利したものの、ダメージは大きく、その存在は消えかけてしまった」
「まだ完全に力を取り戻していないからこそ、人類は魔王の完全消滅を狙ったんだよね。でも、勇者は負けてしまった……だけど魔王に与えたダメージも酷いから、すぐには侵略に来ないだろうって聞いたことがある」
「そうだ。勇者のみが使える聖剣のダメージに薬や魔法は通用せず、自然回復するしか方法がない。魔力を完全に取り戻すためには途方もない時間が必要だった」
途方もない時間……って、まさか。
嫌な予感がして、ヒュッと喉が詰まる。
「魔王は、ループを繰り返して時間を稼ぎたかったのだ。そのための道具として私は使われている。疑問に思ったことはないか。戻っているのに記憶や知識、魔力だけは消えずに蓄積されていることを」
どくんどくんと心臓の音が大きく聞こえる。
疑問に思ったこと? あるに決まってる。そのせいで魔力が暴走して、これ以上増えすぎたらやばいって状態になったんだから。
それが、魔王のせい?
「魔力を回復させたいのに、それらもループしてしまっては意味がないからだ。道具である私も同じように記憶や魔力を引き継ぐのは至極当然のこと」
「なに、それ……さらに巻き込まれた私は、ループを繰り返す度に魔王の回復を手伝ってたってこと……?」
「そうだ。この果てしなく長い期間、魔王はずっと力を取り戻し続けてきた。そして……完全復活は目前だ」
ショックで、頭が真っ白になりそう。
怒りを通り越して、全てを諦めてしまいそうだ。
最近になってようやく無為にループ人生を過ごしていたことを後悔するようになったのに、もっと思い知らされることになるなんて。
私の人生って、なんなの……?
全部、全部、魔王のせいだったなんて。
ギュッと握りしめた拳が震える。
行き場のない怒りをどうしたらいいのかわからなかった。
……ダメ。落ち着け、ルージュ。今怒ったって仕方ない。どんなに逃げ出したくても向き合わなきゃならない。
冷静になんてなれないけど、ここで取り乱したって魔力暴走を起こして疲れ果てるだけだ。
何度か深呼吸を繰り返し、私は再びノアールに目を向けた。話の続きを聞かせて、と。