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72 意外と庶民的なことするじゃん


 空腹に耐えられず、警戒しながら階段を下りる。

 やっぱりここは貴族かなんかが住んでいてもおかしくないほど立派な屋敷だ。


 エルファレス家ほどじゃないけどね。基準がアレじゃあね。


 とにかく、いい匂いが漂うほうに向かって足を進めると広い食堂に出た。

 そこには長い食卓テーブルの端に座るノアールと、数席空けて座るフクロウ仮面の姿があった。


 予想していたから別に驚きはしないけど、なんでそんな離れた位置に。近くにいても奇妙なのは変わらないけど。

 なお、食事をしているのはフクロウ仮面だけだ。


「腹が減ったんだろう。食べるといい」


 食堂の入り口で立ち尽くしているとノアールがそう言った。

 いや、でも。さすがに食べ物は躊躇しちゃうよね。


「毒なんか入ってない。もし入っていても死ぬことはないだろう。今ループするわけにはいかないからな」

「毒で苦しむのも嫌なんだけど」

「まったく同じものをそいつも食っている。問題ないはずだ」


 見ればフクロウ仮面の斜め前、ノアール寄りの席に同じ食事が並べられている。

 美味しそうなふわふわオムレツとベーコンにスープ、そして硬めのパンという一般家庭によくある朝食だ。


「ノアールが作ったの?」

「まさか」

「じゃあ……フクロウ仮面?」


 視線を向けるとフクロウ仮面は一瞬ピタッと動きを止めたけど、またすぐに食べ始めた。

 なるほど、正解なのね。


「フクロウ仮面、か。私も今後はフクロウと呼ぶとしよう」

「え、いいのそれで」

「もともと名前など呼ぶ機会もなかったからな」


 どんな関係性なの、ますます意味がわからない。

 まぁいい。お腹が空いていたらなにも始まらないからね。

 奴らのことを信じるわけじゃないけど、いちいち疑ってたらキリがない。食べ物に罪はないし、いただくことに決めた。


 食事は、悔しいことに美味しかった。ちょっとくらい卵がぐちゃっとしてたりベーコンが焦げてたりでもしてればケチもつけられたのに。悔しい。

 ひょっとして、洗濯もフクロウ仮面がやったのかな。料理する姿や洗濯する姿を想像するとちょっと笑えるかも。

 そんな失礼なことを考えることで、悔しさを紛らわせることにした。ちきしょう。


 食事を終え、この後はどうするべきかと一人悩んでいると、スッと横から手が伸びてビクッと肩を揺らす。

 目だけで手の持ち主を見上げると、フクロウ仮面が無言で私の食器を下げようとしているところだった。


「ちょ、そのくらい自分でできるし!」

「ルージュは私と話がある。やらせておけ」

「な、なにそれぇ!? 話する時間なんていくらでもあるんでしょ? いいから置いてよ! 自分でやるっ」


 ノアールはえらそうにそんなことを言うけど、ほんとに何様なわけ? フクロウ仮面の肩を持つとか同情とかするわけじゃないけど、そういう上からな態度大っ嫌い!


「ノアール様に対して無礼だ」

「っ」


 ギンッとノアールを睨みつけていると、真横から聞こえてきたのは怒気を孕んだ低い声だった。

 なんなの、もう。フクロウ仮面はノアールを崇拝してるとかそういう? はいはい、そういうことねー。


「無礼なのはお互い様でしょ。フクロウ仮面と違って私はノアールを敬う気持ちなんてこれっぽっちもないんだから、そっちの価値観を押し付けないで」

「なっ」


 言い返されると思っていなかったのかもしれない、フクロウ仮面はここへきて初めて表情を変えた。目を丸くして口をわなわなと震わせている。ふんっ、いい気味。


 鼻息荒く私は自分で食器を片付けると、ドスドスと足を踏み鳴らしながら再び食堂へと戻ってきた。

 身体がまだ十歳なのでちっとも迫力がないけど、ご機嫌斜めだということくらいはアピールできたはずだ。ノアールはなんにも気にしてないし、だからどうということでもないけどね!


「で? 話は」


 椅子の背凭れに寄りかかり、腕と足を組んでツーンと言い放ってやると、しばらくの間沈黙が流れた。

 ……調子に乗り過ぎた? どうせ殺されることはないと思って。でも痛い思いはするかもしれないよね、どうしよ。

 今更ながらにだらだらと冷や汗を流しつつもツンとした態度を保っていると、なにやらくつくつという声が聞こえてきた。


 チラッとノアールに目を向けてみると……わ、笑ってる? えっ、あのノアールが? 破壊と恐怖の暗黒騎士が!?


 愕然としたままノアールを見ていると、それに気づいたらしい彼は笑いながらも口を開いた。


「ああ、悪い。だがルージュの奇妙な態度を見ていたら不思議と笑いが込み上げてきた。こんな感情が私にもあったのだな」

「笑っちゃうような態度で悪かったね」


 なにこいつ、ムカつく。最初から殺したいほど憎かったけど、憎悪に上限ってないんだね。初めて知った。


「さて、話だったか。私から話すのは吝かではないが……ルージュのほうが聞きたいことがあるのではないか?」

「聞いたら答えてくれるの」

「ああ、何でも答えてやる。……さぁ、何から聞く?」


 ノアールの言う通り、聞きたいことは山ほどある。

 どうして私をここに連れてきたのかとか、そもそもここはどこだとか。

 本当に呪いを解くのに私が必要なのかとか、なぜ私が巻き込まれる羽目になったのかとか。


 ノアールは結局誰で、殺戮を繰り返すあの狂人と今ではまるで別人なのはなぜなのか、とかね。


 他にもあるよ、聞きたいこと。でもまずは……。


「こいつ、誰なの? フクロウ仮面。前に会った時はいなかったよね? いつの間にか仲間でも作ったわけ?」


 なぜか私の隣にぴったりくっつくように佇むこの鬱陶しい男の正体を教えてくれない!?

 ねぇ、なんでそんな近いの! 嫌そうな顔するくらいならもっと離れてよっ!!


「別に仲間というわけではないが、利害の一致というやつでな。協力関係にある」


 ノアールの答えはだいたい予想通りだった。まぁ、そうでもない限り誰かと一緒にいるなんてイメージないしね。


「フクロウはな、我々の呪いを解く方法を解析してくれた」

「えっ!?」

「何者か、という質問の答えをまとめよう。フクロウは、魔法の妨害や解析などを主に研究する腕利きの魔法使いだ」


 意外っ! 不健康で体力のなさそうな貧弱男だと思っていたけど、結構仕事のできるやつじゃん。

 ま、不健康で貧弱そうなのは変わらないし、尊敬なんて絶対にしてやらないけどね。ふーんだ。


「鑑定士ロイの伝わりにくい溺愛」

という癖強な男主人公の異世界恋愛を連載中です。

よろしければ!(リンクは下に)

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