表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

70/109

70 目的のためならなんだってやってやる


 リビオ、なんで動けるの? 魔法を使えないどころか、魔力も持っていないのに!


 いや、今はそんなことも全部後回し!


「ダメ! 来たらダメだってば!!」

「そっちこそ、ダメだっ!! なんでルージュが、連れてかれなきゃ、なんねーんだよっ」


 だんだん動けるようになってる……!?


 なに? 気合い? 精神力? いやいやおかしい、魔法を物理でどうにかするとか、どうなってんの!?


 私がパニックになっていると、次に放たれた予想外の言葉に硬直してしまう。


「俺はもう……二度と! ルージュを死なせたくない!!」

「え……?」


 死なせたくないって言った? え、なんで?


 リビオは、ループのことを知らないはずなのに。


「あれ、なんだ? ……なんだ、この記憶」


 本人もかなり戸惑っているみたいだ。

 私はもっと戸惑っているけどね!


 いやいやいや、おかしいでしょ。

 万が一にも今、リビオが何度目かのループの記憶を取り戻したとして、だよ。


 私を死なせたくないって言うのは変だ。


 だって私は何度もループを繰り返しているけど、死んだのは二回だけだもん。

 記憶が混ざってる、のかな? 思い出したっぽいこと自体、理解が追いつかないんだけどさ。


「ええい、今はそんなことどうだっていい! ルージュ、今行くからなっ!」


 ぐぎぎ、と唸りながら一歩ずつ前に出てくるリビオに唖然としてしまったけど、スッと剣に手を伸ばしたノアールを見て一瞬で冷静になる。


「ダメ! お願い、聞いてリビオ! ノアールもやめて!!」


 このままじゃ、リビオが無事でいられない。

 それどころかこんな場所でノアールが暴れようものならここにいるみんなまで犠牲になっちゃう。


 きっとリビオは頭に血が上って、そこまで考えられていないんだ。


 私が叫んだことで意外にもノアールはピタリと動きを止めてくれた。気まぐれかもしれないけど助かる。


 問題はまだ諦めないという決意を滲ませた目で見てくるリビオだ。

 私はできるだけ穏やかな声で諭すように告げた。


「リビオ、無事に帰ってベル先生に伝えて? 私は、情報を掴んで必ず戻るって」

「でもルージュ、前もこいつに酷い目に遭っただろ!」

「う、遭ったけど! あの頃とは違うもん!!」


 この場で一から全てを説明する時間はないだろう。

 というかノアールがそこまで待ってくれるとは思えないし……。


 あー! こんなことになるなら、さっさと話しちゃえばよかった。

 できるだけ混乱を避けたいとか、巻き込みたくないとか、そんなくだらないことぐちゃぐちゃ考えてないでさ!


 結局、巻き込んじゃってんだから。もうほんと、私ってヤツは!!


 ……諸々の反省をごくんと飲みこみ、私は言葉を続けた。


「こいつは、私を殺さない。絶対に戻るから……信じて」


 リビオの目が微かに揺れた。迷ってる……! もう一息だ。

 今度はノアールに目を向けて質問を口にする。


「ねぇ、私は用が済んだら帰れるでしょ?」

「お前次第だ」

「嫌な言い方……」


 ここは空気を読んで帰れるとか嘘でも言うとこでしょ。いや、こんなヤツに期待するだけ無駄か。

 まぁ、無理だと言われなかっただけましだね。私は再びリビオに顔を向けた。


「お願いだから。リビオだけが、パパに伝えられるんだよ」


 ええい、フクロウ仮面に抱えられたままじゃ埒が明かない。


「下ろして。逃げないから」


 フクロウ仮面は一度ノアールに目を向け、ヤツが頷いたのを確認してから私を地面に下ろした。

 ちょ、もう少し優しく下ろしてよね。こっちはフラフラなんだから!


 本当は指一本動かすのも疲れるくらいだったけど、リビオに気合いが出せて私に出せないのは癪だから必死で動かす。


 ゆるゆると両手を広げて、よたよたとリビオに近づいてガシッと両肩を掴んだ。


「見て、リビオ。私は今回、攫われるんじゃない。自分の意思でノアールについていくの。運命を変えるために」

「ルー、ジュ」

「約束するから」


 無言で互いの目を見つめ合う。

 リビオの目が揺れ、じわじわと涙が溜まっていくのを見るのはかなり心にきたけど、ここは絶対に譲れない。


 ついに折れてくれたのか、リビオは涙をボロボロ溢しながら叫ぶように声を上げた。


「っ、絶対だぞ! 絶対、絶対! 絶対を百回くらいっ」

「あはは、何それ。うん、百回くらい絶対ね。約束」


 私はリビオの涙を服の袖でごしごし拭いてあげた。

 もう、小さな子どもみたいだな。


「いってきます」


 それから、頬にキスをした。


 顔を離すと、リビオはさっきより涙を流している。

 悔しそうに顔を歪めて、声だけは上げないようにしているのがわかった。


 あーあ、さっき涙を拭いたばっかりなのに。


 でももう拭いてあげられない。ノアールたちの方に向かって歩き出しちゃったから。


 私の鼻の奥もツンと痛くなったけど、ノアールの近くに辿りついてから振り返った。

 ニッと歯を見せて笑って、返事を求めるようにもう一度言う。


「いってきます!!」

「っ、待ってるからな!!」


 うん、待ってて。そう簡単にループしてやらないからさ、今回は。


 それで、帰ったら全部教えてあげる。これまでのことと、これからどうするかってこと。


 あー、限界。身体が疲れてもう一歩も歩けない。

 ぐらりと傾いた身体を、今度はフクロウ仮面ではなくノアールが支えて抱き上げた。屈辱。


「ルージューっ! 帰ったら、結婚するからな!!」


 それは断る。っていうかそれでいくと、私との再会は何年後だって話じゃん。

 こっちはまだ大人になったことさえないというのに。


 けどノアールの言うことが事実なら、今度こそ私は大人になれるのかもしれないよね。


 気持ちを切り替えよう。


 やってやろうじゃん。

 このループの呪いを解けるなら、敵とも手を組んでやる。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ