67 え、いいんだ? それ、ありなんだ?
洞窟を進み、僅か十数メートルほどでさっそく戦闘が開始した。
私たちは後方からついて行っていたのでその様子がまだよく見えないけど、わりとサクサク倒しているっぽい。まだ出番はなさそうだ。
「うー、早く戦いてぇ!」
「落ち着くにゃ、ジュン。この洞窟、かなり魔物がいるから後で嫌ってほど戦う羽目になるのにゃ。温存できるうちにしておくにゃ!」
「でもぉ……ああっ、また魔物の群れを一掃しやがった! ボクがやりたかったのにぃ」
「若いって怖いにゃ。頭でわかっててもこれだもんにゃぁ」
良かった、ラシダさんも戦闘狂っぽかったけどちゃんと理性的だ。
本能に任せて動くのは獣人の特性だけど、振り回されている様子がないのはさすがだよね。経験の差かな。
むしろジュンのほうが獣人っぽく見えるよ。頑張って、理性。
途中、道が分かれている場所に来たので予定通り二手に分かれて進む。
おかげで私たちも戦闘回数が増えたよ。ジュンはノリノリで前に出て戦っている。
身体強化しているとはいえ拳で敵を屠るジュンの姿に、冒険者たちは目を丸くしていた。
わかるよ、小柄なのにどこにあんな力があるんだって思っちゃうよね。魔法ってすごいでしょ。
そんなこんなで私の出番はやっぱりあんまりない。時々、補助魔法を使うくらいかな。
ばらけた敵を一か所に集めるよう誘導したり、攻撃を食らいそうな人の前に水の壁を作ったりね。褒められちゃった、えへん。
「リビオ! そっち三体いったぞ! いけるか!?」
「へへっ、よゆー、よゆー!」
突如聞こえてきた声にパッと振り返ると、リビオが素早い動きで魔物を三体立て続けに剣で倒したところだった。
すごい。わかってはいたけど、リビオって本当に強いよね。
私の知る大人になったリビオはもっと強かったと思うけど……今もこれだけの実力があるなら、大人になったら他の人生で見たどのリビオよりもずっと強くなっていそうだ。
はぁ、ループしてしまうのが恨めしい。
このままいけば、魔王にだって勝てるかもしれないのにって思っちゃう。
またループした時、リビオの強さはどうなっているんだろう。
今より強いのか、それとも弱くなってしまうのか。
その辺りの予想がまったくつかないのが困るんだよね。
というか、同じような人生を繰り返しているのにどうして差が出るんだろう。
……私がいる、から?
自惚れかもしれないけど、実際幼い頃に私と出会っているリビオはそうじゃない時よりも明らかに強い気がするんだもん。
しょ、しょーがないなー。
ループの度にちゃんとエルファレス家の子になるしかないじゃん。
それでリビオが強くなるっていうなら、万々歳だよ。私も、家族に会いたいし!
「ねー! 見てた!? 今の俺、めっちゃかっこよかったっしょ!」
「おいリビオー! お前なんのために来てんだよ!」
振り返ってこちらを見ながら主張するリビオに、仲間からのツッコミと後頭部への一撃が入る。
やれやれ、とは思うけどね。憎めないよね、わかる。仲間たちも笑っているし。
「かっこよかったから、次のエリアに行こ。油断はだめだよ」
「やったー!! 任せろ!!」
こんなんでいいのか、リビオよ。
呆れた眼差しで見ていると、つんつんと肩を突かれて振り返る。
そこにはニヤニヤ笑うラシダさんがいた。
「にゃーに? ベルナールの息子くんったら、ルージュにベタ惚れじゃーん」
「あー、あれは惚れてるというのとはまた違うというか……」
説明が難しい。
魂レベルで大切な存在、と言うとそれはまた運命の相手みたいな受け取り方をされそうだし。
恋愛感情がなくても、誰より大切な存在とか大好きな人っていうのはいるんだよ。伝わらないかなー?
「おーい、ラシダ! ルージュ! あっち、また分かれ道だってさ!」
首を傾げながら考え込んでいたらジュンの元気な声が聞こえてきた。
ふむ、ということはついにリビオたちともここで一度お別れかな。
私もいよいよしっかり仕事をする時がきたかも。周りに他のチームさえいなければ、時魔法も使えるしね。
「もっとルージュと一緒がよかった」
「わがまま言わないの。あとでまた武勇伝聞いてあげるから」
「言ったな? ルージュも聞かせてよ? それを楽しみに俺、がんばるからさ!」
ニカっと歯を見せて笑うリビオを見ていたら、なんでかわからないけど背中がゾクッとした。
嫌な予感? 違うな、なんだろ。
デジャブ、かも。
ああ、そういえば。
前のループでリビオが大怪我する前も、最後に会った時にこんな笑顔をしていたからかな。
……やめてよ、そういうの。縁起でもない。
私はガシッとリビオの両腕を勢いよく掴んだ。
リビオは驚いたように目を丸くして私を見下ろしている。
「ねぇ。絶対に無茶はしないで。茶化してるんじゃないよ? 大げさでもない。私さ、絶対に後悔したくないの」
「ルージュ……?」
「約束してよ。無茶しないって、言って」
きょとんとした様子だったけど、リビオは私を見てからかうようなことはしなかった。
急にこんなこと言い出してさ、普通は呆れるか冗談だと思うよね。心配しすぎだって笑うよね。
でも言わずにはいられない。
二度と後悔したくない。
リビオのことは私が守るんだ。
でも、道が分かれてしまうのだからどうしようもない。
私一人、リビオについていくなんて言えないし……。
「にゃら、ルージュはリビオのチームと一緒に行くといいにゃ」
「え?」
言った、ラシダさんが。
え? え? でも、そんな勝手なことしていいの? 許されるわけ?
第一、私が抜けたらこっちのチームは三人になるし。リビオたちの方は五人になるし?
お荷物になるって嫌がられるかもしれないし、身内だからってそんな、そんな。
「いいじゃねーか! 泣けるぜ、こんなに心配してくれる妹がいるなんてよぉ。健気でさぁ」
「俺も構わねーぞ! その嬢ちゃん、ずっと気にして見てたけど魔法を的確に使ってくれるし、何度も助けられたしな!」
あれ、これはいいって流れ? 本当に?
「まじ!? やった! ルージュ、俺たちと一緒に行こうぜ!!」
「え、あ、え? うん……?」
「やったーっ!!」
私をひょいと抱き上げて喜ぶリビオに、混乱していた私はされるがままだ。
い、いいんだ? ……いいんだ。
そっか。いいんだ。
よし。それなら今度こそ、リビオから目を離さないから。
……っていうか! いい加減、離して!!