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61 そんなとこまで似るんだね?


 何度目のループの時だったかまでは覚えてない。

 でもまだループを繰り返してから十回とか、そのくらいだったと思う。


 最初の数回はよくわからないまま人生を送った。

 何度か繰り返されてうんざりし始めて、精神的な限界を感じたのが十回目くらいだった気がするんだよね。


 つまり、私はものすごく弱ってた。

 誰でもいいから聞いてほしくて、色んな人に打ち明けた気がする。


 結果、それが余計に私を絶望させることになった。


 真摯に聞いてくれる人は何人かいたけど、心の底から信じてくれる人はその半分もいない。


 病気じゃないかと心配されたり、構って欲しいからって作り話をするなと責める人もいた。

 気味が悪いと距離を置かれたり、頭がおかしいと蔑む人も。


 それらの対応は、絶望した私の心に追い打ちをかけた。


 とまぁ、そんな頃だよ。リビオに打ち明けたのは。


 働いていたお店の常連だったリビオと話すようになって、少しずつ仲良くなって。

 それで、リビオならちゃんと聞いてくれるかもしれないって思ったんだよね。


『信じられないよね、こんな話……あはは。ごめん、気にしないで』


 聞いてもらった、というよりは精神的に限界だった私がリビオにぶちまけるように話した、って感じだったな。

 きっと信じてもらえないって思ってたから、最後は言い訳みたいなことを言って、勝手に話を終わらせようとした。


 立ち去ろうとした私の手を掴んで、リビオは私を引き止めた。


『待って。俺、信じないなんて言ってないよ』

『……でも、頭おかしいでしょ。こんな非現実的なこと』

『確かにビックリするけどさ、ちょっと心当たりみたいなのがあるんだよね』


 リビオは、他の人とは違う反応を見せた。


『俺、初めてルージュを見た時に運命を感じたんだよ。なんていうか、初めて会った気がしないっていうか』

『……口説いてるの?』

『そ、そういうんじゃなくて! ……いや、口説きたいところではあるんだけど』


 顔を少し赤くして、リビオは人差し指で頬を掻きながら続けた。

 その時の私は、リビオに対して淡い期待を抱いていたと思う。


『実はさ、ルージュの初対面はあんまりいい印象がなかったんだ。今は違うぞ!? ただ、この子は自分の身を大事にしない子だって、なんとなくそう思って』

『当たってるから気にしなくていいよ』

『いやいや、ダメだよ。気にするよ。……でもさ、たくさん話すようになって、仲良くなって。ルージュのこと、よくわかるようになってきてわかったんだ』


 不思議な感覚だったな。

 まるでリビオが、前の人生で私と会ったことがあるのを覚えているみたいで。


『ルージュは優しすぎるんじゃないか? 周りの人が傷つくくらいなら自分が、って思うところあるだろ?』

『……それは優しいんじゃないよ。他の人が傷つくのを見たくないのは確かだけど、そんなの私のワガママでしかないし。リビオが嫌なヤツだって思うのも当然じゃない?』

『ええっ!? 俺、ルージュのこと嫌なヤツなんて思ったことないよ!?』

『前の人生では言われたの。そういうの嫌いだって』

『嘘だろ、俺……!!』


 嫌いって言われたのは、女剣士時代のことだ。


 そうだ、思い出した。

 それを覚えていたから、リビオに対して八つ当たりのように打ち明けたんだ。


 やけになってたというか、こいつにならどう思われたって構わないって思ったというか。

 けど、思いの外ちゃんと聞いてくれたのが意外だった。


『安心してよ。私はただの町娘だし、もうどれだけ自分が身代わりになりたいと思っても、そうできるほどの力がないもん。リビオに嫌われなくて済むね』


 八つ当たりしちゃってごめんねって思った。

 私の方が嫌なやつだったのに、それでも心配してくれてさ。良いヤツすぎるんだよリビオって。


 だから冗談めかしてそう言ったんだけど……急にリビオがぼろぼろ涙を流し始めたものだから、すごく慌てるはめになった。


『えっ、リビオ?』

『ごめん。でも、なんかすげー寂しくなったから』

『……なんで、リビオが』

『そう、寂しいのはルージュだよな。何度も同じ人生を繰り返すはめになって、誰も自分のことを覚えていないなんて……どれだけ寂しいんだろう』


 ちょっと聞いてくれたらそれでよかった。

 まさかここまで親身になってくれるなんて思ってなかったんだよ。


『変わってやれたらいいのに。せめて覚えていられたらいいのに』

『……言ったって仕方のないことだよ』


 感受性が豊かなんだろうな。ボロボロ泣くリビオを見ていたら、人が良すぎていつかものすごく悪い人に騙されないかって心配になった。


『何度ループを繰り返しても、俺はルージュのことをきっと心のどこかで覚えてるよ。どっかで会った気がするっていう俺の感覚は当たってたわけだろ?』


 けど、救われた。

 私はあの時のリビオに、間違いなく救われたんだ。


『約束するよ、ルージュ。少なくとも今ここでルージュの秘密を聞いた俺は、絶対にルージュを一人にしない。そりゃあ戦いには行くことになるし、離れている時間の方が長くなるけど……絶対に帰ってくる。ルージュの下に』

『やっぱり口説いてるでしょ』

『そーかも。じゃあ、口説かれてくれる?』

『それはちょっと』

『嘘だろ。俺、今あっさり振られた?』


 なんだか照れ臭くて、冗談を言って二人でケラケラ笑った。

 リビオが言うと、本当に覚えていくれそうで希望が持てた。


『ありがとう、リビオ』

『ん!』


 そんなわけ、ないのに。


 ループしたら、誰もが同じ条件で全てを忘れる。

 いや忘れるという言い方は違うな、あの人生はもともと何もなかったことになる。


 他の人生があった事実すら知らないんだから当然だよね。


 希望を抱いたままループして、次の人生が始まって。


 新しい人生で成長した私がリビオに初めて会った時、私は思わず名前を呼んだのだ。


『え、っと。ごめん。俺、君に会ったことあったっけ?』


 当たり前のことなのに、ショックで立ち直れなかった。


 リビオなら覚えていれくれるって勝手に期待して、勝手に絶望したんだよ、私は。


 だから私はその後、いくらリビオから求婚されても二度と打ち明けることはなくなった。


 信じて、また絶望するのが怖かったから。


「うわぁぁ!! ルージュ!? な、ど、どうした? なんか俺、傷つけるようなこと言っちゃった!?」


 気付けば私は泣いていた。

 隣でリビオが大慌てしているけど、涙が止まってはくれなかった。


「違う、違うよ、リビオ。なんでもない……」

「なんでもないわけないだろ!? え、どうしよ、具合悪い? 部屋まで連れて行こうか?」


 どうして気づかなかったんだろう。


 毎回、一足飛びにプロポーズするのはなぜだろうって疑問に思ってた。

 私を愛しているだとか、恋をしているだとか、そういう気配はあんまり感じないのにって。


 リビオはただ、あの時の約束を守り続けてくれていただけだった。


 私を一人にしないって約束を無意識に守ろうとしてくれていたから、愛の告白じゃなくてプロポーズだったんだね。


 あの時の約束を、リビオだけは守り続けてくれていたのに。

 臆病者の私はそれをずっと拒否し続けていたのだ。


「ありがとう」


 私は馬鹿だから、気付くのがこんなに遅くなっちゃった。

 いつも軽率に求婚してくるリビオのこと、適当にあしらってた。

 何度も繰り返す人生のせいで忘れていたなんて、言い訳にもならないよね。


 だってリビオは、覚えていないはずなのにずっと覚えていてくれたんだもん。


「よくわかんないけど、どういたしまして?」

「ふふっ」


 さすがはベル先生の息子だよね。

 そういうところまで似るんだって笑っちゃうよ。


 渡してくれたハンカチを受け取って涙を拭きながら笑うと、リビオはようやく安心したように肩の力を抜いた。


 その後、私を無理矢理部屋まで連れて行ってベッドに寝かすのはやり過ぎだと思うけどね。

 過保護なところまで似なくてよろしい!


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