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41 予想通りは私に安心をくれる


 何がどうしてこうなった?


「ふむ、やはり体にピッタリ合う服はなさそうだね」

「も、申し訳ありません」

「いや、いいんだよ。仕方のないことだから。ひとまず今すぐ着られそうなかわいい服をいくつか貰おう。今度うちに採寸に来てくれ」

「っ、はい。かしこまりました」


 今、私は高級服飾店で着せ替え人形となっている。


 ループしたばかりの五歳の私って本当にガリガリだから、合う服がないのは当然。

 身長に合わせた服だっていつもぶかぶかだったし。


「すまないね、ルージュ。今日は少し大きめの服で我慢しておくれ」

「我慢って……私、お礼を言うことしかできないよ?」

「ははは! いちいち成熟した大人のようなことを言うね!」


 魂は成熟しきってるからね。たぶん。


 それに、今回は早々に全て打ち明けようと思っているから、最初から取り繕う気はない。前回もあんまり取り繕ってはいないけど。


 まぁいい、そんなことは。


 私が言いたいのは、お店にピッタリ合う服があるわけないってこと。何十着も試着しなくたってそのくらいベル先生ならわかるでしょ!


 しかもサイズが大きいってわかってるのに何着買う気なんだ、この人は。無駄になるじゃないか。

 やっぱりお貴族様の価値観が私にはちっともわかんないよ。はぁ。


「それよりも、こんなに急にお屋敷に行っても大丈夫なの? 出会ったばっかりなのに」


 今日の朝に魔力をぶっ放してベル先生を釣り、さっき挑発したばかりなのだ。


 前の人生ではエルファレス家に行くまでに手続きやらなんやらで色々と時間がかかったというのに、今回は即日私を持ち帰りだよ? おかしくない?


「妻は突然の来客に慣れているからね。それに直接ルージュを見たら、みんなあまりのかわいさにイチコロだよ。どうせ賛成するに決まってる。それなら早く我が家に慣れてもらった方がいいじゃないか」


 そうだ、この人はこういう人だった。直感と思い付きで報告するより先に動いてしまう。

 それでみんなにかなり文句を言われたりするんだけど、最後には全員を納得させちゃうんだよね。

 エルファレス家の方々に関しては文句も言わずに納得しそう。


 あまりの展開の早さに戸惑いはあるけど、私としてもさっさとあの家に行けるのは望むところだ。


 前回と全く同じ関係を築けるかはわからないけど……早く、会いたいから。


「あ、あの服もいいんじゃないかな? そっちもいいな……」

「もう服はいいってば!」


 だというのにその後小一時間ほど着せ替え人形を務めることとなった。

 おかげでヘトヘトだよ。

 そして現在、ようやく馬車に揺られている。つ、疲れた……。


「眠っていてもいいよ、ルージュ」

「眠く、ない、し……」

「舟を漕ぎながら言われても説得力がないな」


 あぁ、デジャブ。前回とは疲労の原因が全く違うけど、結局私は馬車で眠ってしまう、の、か……。


 ※


「ん、むぅ……」


 重たい瞼を押し上げて、最初に飛び込んできたのは水色の瞳だった。


「あ! 起きた!」


 水色の瞳はキラキラと輝いていて、私の寝ぼけた顔が映っている。……近い。心臓に悪い。


 はぁ……。相変わらずだね、リビオ?


「……乙女の寝顔を目の前で見るのは、変態がすることだよ」

「ええっ!? ご、ごめん! だって、かわいかったからつい!」


 それもまた変態の言い訳だ。


 リビオは慌てて私から距離を取り、ペコペコと頭を下げ続けている。まったくもう。


 ああ、リビオは変わらないな。思い返してみれば、リビオだけはずーっと変わらないかもしれない。

 どの人生で、どのタイミングで出会っても必ず求婚してくるし。今回も時間の問題だろう。


 じっとリビオの顔を見る。

 最後に見たのは、顔の左半分と左腕がない状態だったから。


 当たり前だけど、今はちゃんとある。

 頭ではわかっているのに、思わず手が伸びた。


 リビオの左手を取り、にぎにぎと確認する。うん、あったかい。


「え、え? な、何?」


 戸惑う声を上げるリビオを無視して、今度は左頬に。軽くぺちぺちと叩くと、リビオは左目をキュッと閉じた。


 ……顔も綺麗なままだ。よかった。

 今度は、あんな怪我なんてさせないからね。


 そんな決意を込めてジッとリビオを見上げると、左頬に触れていた私の手の上にリビオの左手が重なった。


「……もしかして、お、俺のこと好きなの?」


 そうきたか。いつもとは違うアプローチだな。


 まぁ、初対面でこんなにベタベタ触ってたらそう思いもするか。

 にしてもまだ八歳でしょ? ませてるよね。今さらか。


「……私、寝起きなの。着替えたいから、出てって」

「え、あ、ちょ、ちょっと待って」

「メイドさぁん、手伝ってぇ」

「はい、かしこまりました!」

「ちょっと、待ってってばー!」


 グイグイとリビオの背中を押しつつメイド……アニエスに手伝いを頼むと、ニコニコと微笑みながらあっという間にリビオを部屋のドアまで連れて行ってくれた。

 五歳の力ではビクともしなかったから助かるよ。リビオがアニエスにはあんまり逆らえないの、知ってるんだからね。ふふん。


「ねぇ! 名前、名前だけ聞かせてよ!」


 おっと、まだ言ってなかったっけ。ベル先生も教えてないのかな?


「ルージュ」

「ルージュ……すごく素敵な名前だ」


 ドアの向こうで振り返ったリビオが目をキラキラさせながら言う。ついでに少しだけ頬が赤い。


 くるか、いつものが。


「俺、ルージュと結婚したい! ね、結婚しようよ、ルージュ!」


 あまりにも予想通りすぎて思わず噴き出して笑っちゃった。

 アニエスは目を丸くしてぽかんとしている。まぁね、初見だとそういう反応になるのが普通だよね。


 でも私にとってリビオのプロポーズはもはや挨拶みたいなものだから。


 ドアに手を伸ばし、ゆっくり閉めながら私はにっと笑って答えてあげた。


「リビオのことは好きだけど、結婚はできないよ。だって妹だもん」

「あーっ、そっかー! 妹とは結婚できないのかぁ! ……あ、あれ、待って。今、俺の名前……」


 教えたっけ? と不思議そうに言った声には聞こえないふりして、パタンとドアを閉める。


 けれどアニエスはしっかり聞いていたようだ。不思議そうに私の顔を見つめていた。


「ベル先生に聞いたんだよ。貴女のことも。今日からどうぞよろしくね、アニエス」

「えっ、い、いつの間に……いえ、失礼いたしました。こちらこそよろしくお願いいたします、ルージュ様」


 切り替えの早いできるメイドさんだ。

 きっと、まだ私自身のことは信用していないだろうけど、ベル先生を信じる彼女は以前と変わらず丁寧にお世話をしてくれるのだと思う。


 ならば私は今回も、アニエスの信用を得るために努力するだけだ。前回より、不気味な幼女感は増すだろうけど……。


 そこはほら。ベル先生の選んだ養女だから諦めてほしい。


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