40 ベルナール・エルファレスの直感
※本日2話目です。
あれほど濃く、膨大な魔力を感じたのは人生で二度目のことだった。
一度目は、思い出したくもない魔王の魔力。
僕は目の前で対峙したわけではないが、ビクターの記憶を探る時に間接的に触れただけで鳥肌がたったのを今でも鮮明に思い出せる。
そして今が二度目。あんな魔力を感じるなんてこと、魔王以外ではないと思っていたから驚いた。
ただ、その質は似ても似つかぬものだったけどね。今回感じたのは、温かで、明るくて、美しく……そして、切ない魔力だ。
「こんにちは、おじさん」
「お、おじ……!?」
そんな魔王と同じ規模の魔力をぶっ放した存在が、今目の前にいる愛らしい子どもだということは、それ以上の驚きだった。
まだ幼いというのに、浮遊魔法を完璧に使いこなしているというのも含めてね。
驚きすぎて言葉を失うなんてこと、初めてだよ。大抵のことは動じないはずなんだけど。
どう考えても普通じゃない。幼児が持てる魔力量ではないし、ここまで魔法を使いこなせるわけがない。
異常だ。魔族かもしれない。
頭ではそう思うのに、本能は違うと確信している。
なんということだ。こんな経験、したことがない。
「貴方が探しているのは、私でしょ?」
全てを知っているかのような、理知的な瞳。
沈みかけた太陽が放つ美しくも切ないオレンジ色から目が離せなかった。
ふわりと揺れる、少し癖のある真っ赤な髪も印象的だ。
魔力の質そのものの姿が、彼女は人であるという証拠。
魔族ではない。魔力の相性も僕と合うんだろうな。
だがそれだけでは説明できない何かがあった。
彼女を見ていると、心がざわつく。不思議な感覚だ。
この子を一人にしてはいけない、この子の助けにならなきゃいけない。そういった焦燥感に襲われる。
泣きそうな癖に無理矢理ニッと歯を見せて笑う姿が、痛々しくも愛おしく感じる。
もしかしたら、前世で深い繋がりでもあったのかもしれない。
「一つ、提案があるんだけど。私を、娘にするのはどう? ……パパ」
パパと呼ばれた瞬間、ビリビリと身体の奥底から震えが来た。
僕は一体どうしたというんだ? 魔法か呪いでもかけられたのだろうか。彼女が愛おしくて仕方ない。
口角が上がって行くのが抑えられず、思わず片手で口元を覆う。
馬鹿馬鹿しい。魔法や呪いをかけられたのだとしたら、魔塔の主たる僕が気付かないわけないだろう。
「面白い!」
気付けば、そう口にしていた。彼女を養女に迎えることは、前世からの決まりごとのようにも思えた。
どうかしてしまったのかもしれない。研究ばかりで、ついに頭がおかしくなったか?
だが、それでもいい。
もし彼女に裏があったのだとしても、僕が後れをとることはない。いくら愛おしくても、油断はしないさ。
そもそも、魔法使いの直感には従うのが正解。彼女は無害だ。直感がそう告げている。
それどころか、僕や魔塔の魔法使いたちに良い影響を与えてくれるだろう。
もしかすると世界を変える存在かもしれない。それこそ、魔王を倒すカードになり得る。そんな予感がするんだ。
魔法使いとしても、非常に興味深い。
なぜ幼い子どもが魔法を使いこなせている?
どうして僕を知っている様子なんだ?
あの目が見てきたものは一体なんだ?
彼女は何者だ?
わからないことだらけだ。面白すぎるだろう。研究のし甲斐があるというものだ。
ああ、いや。そんなことより大切なことがある。もっともっと重要なこと。
「歓迎するよ。名前を教えてもらっても?」
「……ルージュ」
「そうか、ルージュ。とても良い名だね」
この子を、ルージュを、思い切り甘やかしてやらないと。たくさんの愛情を注がないと。
「パパに、全てを話してくれるかい?」
「……うん。本当のパパになったらね」
「任せて。あっという間に君はルージュ・エルファレスになるから」
ああ、愛するカミーユの喜ぶ顔が早くみたいな。息子たちもきっと喜ぶ。
ルージュとの出会いは、きっと僕ら家族に幸せをもたらしてくれる。まだなにもわかっちゃいないが、そういう確信があった。
どうぞよろしくね。
底知れぬ何かを抱えた、愛おしい僕の娘。
これにて序章はおしまいです!
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次章からは週一更新を予定しております。
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