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35 感謝してるよ、結婚はしないけど


 今回の人生は、いまだかつてないほど順風満帆といえよう。


 魔法の勉強はもちろん、一般教養やマナーも身に付けることができて、毎日が充実している。

 ここ最近の人生は惰性で生きていたというか、代り映えがなくて時間が過ぎるのもあっという間だった。けど、今回は一日一日がとても長く感じるしね。


 楽しみがあって、何かに没頭できるってだけで幸せだ。


 その上、家族が優しくて色んな場所に連れて行ってくれて、休みの日でさえも楽しい。


 これは、以前までの生活に戻るのに苦労しそうだなぁ。そう思うと切なくなってため息が出てしまう。


「人間って、欲深い」

「え? 何か言った?」

「ううん、なんでもない」


 前を歩くリビオがパッと振り返って訊ねてきたけど、何食わぬ顔で首を横に振る。

 気のせいか、と言いながら再び前を歩き始めたリビオの背中は、随分と大きくなったように見えた。


 それもそのはず。リビオは先日、成人を迎えたのだから。もちろん、オリドもね。


 ただ、私にとってはこの大きさのリビオの方が馴染み深いから、どちらかというと「やぁ、久し振り」という気持ちだ。


 ちなみに現在、私は十五歳。そう、十五歳になってしまった。


 そう考えるとあっという間に思えるけど、一日一日は本当に長いと感じるから不思議だよね。


 エルファレス家に来て早十年。魔法の腕と貴族としての振る舞いを学び続けた私は、かなり成長できたと思う。

 特に魔法はかなり上達した。まだベル先生ほどたくさんの魔法は使えないけどね。当たり前か。


 そうそう。ついこの間、盛大に開かれた双子の誕生日パーティーでは、美味しいものをたくさん食べられて幸せだったな。

 貴族のレディーとしての振る舞いもだいぶ板についてきたから、粗相もしなくて済んだし。たぶん。

 誰にも注意されなかったから良しとしているだけだけどね。陰口まではわかんない。気にもしていないけど。


 ちなみに、パーティー中はずっとオリドの婚約者であるリュドミラちゃんと一緒にいた。

 ふわふわ金髪のかわいくて優しいご令嬢で、私とは正反対のお淑やかな子。

 かなり前にオリドに紹介されてからというもの、頻繁にお茶会に誘われたり誘ったりし合っているうちに仲良くなれたのだ。


 ヴィヴァンハウス出身の養女だと知っても偏見なんて一切持たず、態度も変わらず慕ってくれるものすごく良い子。加えて、オリドのことを話しながら頬を染める様子がもう、すごくかわいい。


 リュドミラちゃんとも、ループする度に仲良くなれたらいいなぁと願わずにはいられない。貴族のご令嬢だから、私も貴族にならないと難しいけどね……。


 次のループでもエルファレス家の養女になるかどうかは、まだ悩んでいる。そううまいこと養女にしてもらえるとも限らないしね。

 まったく同じ出会いはできないだろうし、状況が変われば未来も変わる。


「さて、そろそろお別れだな」


 町の外へ出る門の近くまで来ると、リビオは立ち止まってこちらに振り返った。顔は真剣そのもの。


 私が感じるのは……デジャヴ。


「ルージュ、結婚してくれ!」


 やっぱりね。もはや驚きもへったくれもない。なんなら、懐かしさを感じるほどだ。


「諦めないよね、リビオも」

「もちろん! ね、返事は?」

「結婚はできないよ」

「あーーーー、またダメかーーーー!!」


 頭を抱えて叫ぶリビオ。この姿も見慣れたものである。

 私はというと、出てくるのはため息ばかりだ。全然諦めないよね、本当に。


「それに、お別れだなんて大げさだよ。依頼でいつもよりちょっと長い間帰らないだけでしょ?」

「大げさなんかじゃないさ! 冒険者ってのはいつ命を落としてもおかしくないんだ。今が最後かもしれないだろ? それに今回は北の方に遠征に行くんだ。なかなか厳しい旅になるんだからな!」

「北? ってことは、魔塔の近く?」

「そうそう。途中で他の依頼もこなしながら行くんだ。あっ、そうか。魔塔の近くに着いたら、ルージュに会えるかもだよな!」


 ルージュたちはいつも転送陣で行くんだから羨ましいなー、と言いながら、リビオはニコニコ笑う。


 別に、私としてはいくらでも転送陣を起動させてあげてもいいんだけど、冒険者として活動するリビオ一人に特別扱いすると色々と問題があるからね。仕方がないことなので、徒歩で頑張って。


 リビオは成人を機に、冒険者への道を歩み始めた。住んでいる場所は相変わらず屋敷だけどね。


 子どもの頃から冒険者ギルドに通っていたし、腕も立つしで誰もがすんなり受け入れている。リビオが貴族だって知らない人も多いんじゃないかな? 私もそうだったし。


 ベル先生とママは……当然、渋っていたけどね。

 でも、言って聞くような子じゃないってのもよくわかっているのだろう。強く引き留めることはせず、命を大事にするようにとだけ注意をして許してくれたのだ。心が広い両親だね。他の貴族家じゃこうはいかないだろう。


「最後かもしれないのに求婚するなんて。もしオッケー出して、命を落とす結果になったら、私に対して最大の裏切り行為じゃない?」


 ま、リビオに限ってそう簡単に命を落とすことはないだろうけど。

 少なくとも、魔王討伐の旅へ本格的に向かうまでは生きている。それは未来を何度も見ている私が保証する。


 とはいえ、いつも同じ未来を辿るわけじゃないから絶対とは言い切れない。ただ、リビオの強さと生き抜く力は信用できる。そのくらい、今のリビオはとても強いから。


 だからこそ、私もこういう冗談が言えるのだ。しかし。


「え、オッケーしてくれるの?」

「しないけど」


 論点をずらすな。まったく、いつもこうだ。わかっていたけどね。


「でもさ、生きている限りは何も諦めたくないんだよ、俺は」


 リビオはグッと拳を握ると、それを見つめながら何やら真剣な声色で告げる。


「魔王討伐だって同じ。今の俺には無理かもしれなくても、生きてさえいれば何度だって挑戦できる。ルージュへの求婚も、今回ダメでも明日ならいい返事がもらえるかもしれないじゃん?」


 それはないけど。

 でもそういう考えだから、リビオは凝りもせず毎日のように求婚してくるのだろう。最近は、文字通り毎日だ。


 ちっ、一足先に大人になったからって。こちとら一度も大人になったことないのに。


「今日はこうして見送りに来てくれたし、ワンチャンあるかなって思ったんだけどなぁ」

「買い物に行くついでだもん」

「それでも、商店街を通り過ぎてここまで来てくれたじゃん。ちょっとは俺のこと好きって思ってくれてるんだろ? それだけで嬉しい」


 ポジティブ思考も極まればここまで幸せそうに笑えるんだなぁ。いつどの時代のリビオも変わらず眩しすぎる。


 そりゃあリビオのことは好きだよ。恋愛方面には一切考えられないだけで。買い物のついでに見送りくらいはする。たまーにだけど。


「ルージュもさ、何かを手に入れたいって思うことがあったら、諦めたらダメだよ」

「え」


 急に、真っ直ぐこちらを見つめてそんなことを言うものだから、ドキリとする。なんだか、考えを見透かされたみたいで。

 リビオに限ってそんなわけないと思うんだけど……ベル先生の息子だからな。時々、鋭いところがあるのだ。


「ダメっていうか、もったいないからさ! 百回、千回、万回ダメでも、次はうまくいくかもしれないんだろ? 可能性は常にあるんだ」


 百も、千も、万も。繰り返し失敗してもめげずに訓練を続けてきたリビオの言葉は……正直、少しだけ説得力がある。

 私はすぐ諦めがちだから、グサッともきた。


 でも。だって。……辛いんだもん。何度も人生をリセットされるのはさ。


「……そんなにうまくいかないのが続いたら、辛くない?」

「んー、辛いけど……」


 だから、思わず恨みがましげに聞いちゃった。リビオに言ったって仕方ないのにね。


「それでも、手に入れたいから。魔王のいない平和な世界も、ルージュのことも!」


 変な質問をして申し訳ない気持ちが吹き飛んだ。


 ああ、真っ直ぐだ。真っ直ぐすぎる。私のことは諦めてほしいけど。


「リビオらしいね。ほら、そろそろ行かないと。一緒に行く仲間が待ってるんじゃない?」

「そうだった! 行ってくる! 愛してるよー、ルージュ!」

「わかったから! 大きな声で言わないで、馬鹿っ!」


 大きな声で叫びながら手を振りつつ去っていくリビオに苦笑を返しつつ手を小さく振る私。


 リビオのような考え方はできないけど、見ていると元気が出る。思えばどの人生でも、リビオにはそう言った意味で助けられ続けているな。


 ありがとう、リビオ。結婚はしないけど、たくさん感謝はしてるよ。


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