34 魔法って楽しい
ドゥニの持ってきた魔法陣を使って試しに使用したところ、あっさり成功。二人して拍子抜けしちゃったね。
でも、魔力の減り具合は正直なところよくわからない。数値化して見えるわけでもないからね。
自分や、魔力量を調べる人の感覚しか頼れないのだ。
「ルージュの魔力が多すぎてどの程度減ったのかよくわからないが、減ったという事実だけは確かだ」
「なんかごめんなさい?」
もっとわかりやすければ良かったよね。
とはいえ、元の魔力量が少ない人がこの魔法陣を使ったら、最悪魔力がなくなってしまう危険がある。それなら、多すぎて減り方がわからない方がずっといいのかも。
「何を謝る? オレの作った魔法陣が正しく機能したということがわかっただけでも進歩だ! 後は減らす量の調節ができれば言うことなし。今後はそっちをメインで研究できる」
ドゥニは、初めて魔法陣を使うことができて喜んでいる。
力になれてなによりだよ。私としても安心材料が増えたし、ウィンウィンだ。
「それで、あー……とても言いにくいんだが。ルージュ、今後も……」
まぁ、そうだよね。一回じゃ確認もできやしない。
とても言いにくそうにしているけど、私としてもお願いしたいくらいなので食い気味に答えてあげた。
「まだたくさん魔力が残っているみたいだし、改良版ができたら呼んで。また試すから」
「ああっ、愛しているよルージュ! キスしてもいい?」
「ダメ。絶対ダメ。近寄らないで、それ以上」
ええい、立ち上がるな、近寄るな。本物のロリコン変態エルフになってもいいのか? 私だって初めてのちゅーを変態に奪われるのは嫌だ。
思わず時魔法でドゥニの足を止めちゃったよ。身の危険を感じた。ふぅ。
「へぇ、ルージュは時の魔法使いか。それだけの魔力量があれば問題ないね。しかし、精密な魔力操作だな。部分的に時を止めるなんて高度な技術、どこで学んだの」
「こういう使い方したいなー、と思ってやったら、できた」
「ははっ、天才だ。天才がここにいる」
別に天才なんかじゃないと思うけど。向き不向きみたいなもんでしょ。
私にはドゥニのような的確で素早い回復魔法は使えないだろうしね。
「ルージュ、君のことが気に入った。なぜそこまでして魔力を減らしたいのかは聞いちゃダメか?」
ん、まぁ当然の疑問か。いくら魔力が多すぎて危険だといっても、普通だったら訓練さえしなければ問題ない。増やすのだってそれなりに大変なんだから。
さて、なんて答えようか。
たぶんだけど、あまり深堀りして聞いては来ない気がする。かといって、嘘は吐きたくない。
「……死にたくないから」
「……なるほど」
よくわからない答えになってしまったけど、ドゥニは何かを察したのかそれ以上は何も聞いてこなかった。そういうところは助かるよ。変態だけど。
「じゃ、君の命を守るためにも、魔法陣の改良に精を出そう。ルージュはどうする? 見ていく? それとも他のところに行く?」
ふむ、どうしようかな。このままここにいたら、研究の邪魔になるかもしれないよね。
他にどんな場所があるのかも気になるし、少し魔塔の内部を散策してみようかな。
「探検してくる」
「それはいい。変なヤツらに絡まれないように気を付けろよ。ま、時の魔法使いなら大丈夫だろうけどな」
さっきも言われたけど……時の魔法使い、か。なんだかくすぐったいな。
ああ、あと。すでにドゥニという変態に絡まれた私に怖いものはない。
部屋を出る時にもう一度だけチラッとドゥニの方を見たけど、すでに研究に没頭し始めたのかこちらを見ることもなく集中していた。
切り替えが早い。ドゥニの方こそ天才だと思うな。
いや、魔塔にいる人たちみんなが、何かしらの天才なんだろうね。天才の集まりだ。恐ろしい。
ドゥニの下を去った私は、浮遊魔法を使って魔塔のあちらこちらをうろついた。
すでに私の顔は知れ渡っていたので、ほとんどの人たちが好意的に接してくれている。
ドゥニのように研究室に引きこもっているタイプは、そもそも私がウロウロしただけで遭遇することがないだけかもしれないけど。
声をかけてくれた人たちには、得意魔法は何か、研究していることはあるかなどを聞いて回った。
水や火、風や光などのわかりやすい魔法を扱う人が多い印象かな。使い方は人それぞれで違うけど。
私の時魔法がいかに特殊かわかるよね。もちろん、重力や植物を操ったり、身体の一部を変化させたりする変わった魔法を使う人もいた。
みんなに共通しているのは、それぞれの得意魔法をとことんまで極めていること。自分だけの使い方っていうのかな、応用の幅がすごくあるんだよね。
私もいくつか使える魔法が増えたけど、まだどれも基礎ができる程度だからね。見習いたいところだ。
見学しているだけで勉強になるなぁ。
魔法って奥深い。ちょっとハマっちゃいそう。知れば知るほど楽しいんだもん。
ループするごとに増えすぎてしまう魔力問題も解決の兆しが見えたからか、心の余裕ができたかな。
「魔力が多いってだけで強いわけじゃないんだよね」
「僕の娘は魔塔に来た初日にそこまで学んだのか」
「! ベル先生」
次はどこへ行こうとフラフラ飛んでいると、背後から声をかけられて振り向く。
浮遊魔法で近付いてきたベル先生はどこか嬉しそうにニコニコしていた。
「感心するようなことじゃなくない? そんなこと、すぐにわかるよ」
みんなが工夫して魔法を使っているのは、見ればすぐにわかることだ。
私は時を止めることができるから、相手を無力化することはできるけど、全員が私より弱いかと言われたらそれは違うと思うし。
「わかっているのと、理解して受け入れることはまた別の話なんだよ」
「ふぅん?」
「あ、わかっていない顔だね。まぁいいさ。ルージュはそのままでいてくれ」
そう言ってベル先生はポンと頭を撫でてきたけど……ちょっとはわかるよ。プライドが邪魔して認められない人が多いってことでしょ? たぶん。
私にだってプライドはある。もし最初から魔法が使えていて、ずっとちやほやされて育っていたら、自分が一番だーって自惚れて調子に乗っていた可能性が高い。
使えないと思っていた魔法が使えることがわかったから、自分の強さに関しては割とどうでもいいんだよね。使えることが楽しすぎて。
けど、それを超えたら調子に乗ってしまう日が来るかもしれない。初心を大事にしようと思う。
「もうランチタイムを過ぎてるよ。そろそろお弁当を食べようか。ドゥニとの話も聞かせてよ」
「うん、わかった。はー、お腹空いちゃったな」
「はは、ルージュは食いしん坊だね。おかげでカミーユもシェフも喜ぶ」
食いしん坊なのは、美味しい味を知ってしまったからである。その責任は私を養女にしたベル先生にあるんだからね。
それに、こんなにお腹が空いたのは思い切り泣いたせいもある。ますますベル先生のせいだ。今日もたくさん食べちゃおう。
これから、私は魔塔で過ごすことが増えるのだろう。
もっと魔法の使い方を学んで、今後の人生の糧とする。
……あー、ただ。ループする度にドゥニとは絶対に知り合わなきゃいけないというノルマができちゃったけどね。
永遠にパーンする運命が待っているかもしれないと思えば、毎回変態と知り合うことくらいなんてことないけど。
とにもかくにも、目標ができたことでますます今生の私は充実した日々を送れそうである。