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33 変人じゃない、変態だった


 食い入るようにドゥニの目を見つめていたら、背後でフゥと小さく息を吐く音が聞こえてきた。


「まー、なんかよくわかんねーけど。この調子ならボクはもう用済みだな? 行っていいだろ」


 あ、そうでした。

 慌てて振り返ると、ジュンがそのままドアから出ていこうとしている。ま、待って、まだお礼を言ってない!


「ジュン! ありがとう、助かったよ」

「……ふん、軟派エルフの研究材料にされてもボクは責任取らねーからな」


 それは怖い。気を付けよう。

 でも、素直じゃないなぁ。お礼を言われるの、苦手なんだろうな。どちらかというと、好意をぶつけられると照れちゃうのかも。


 だから色んな人にからかわれているのかもしれない。ちょっとだけからかう人の気持ちがわかっちゃったな。


「さて、そこまで興味を示すってことは」


 ジュンが部屋を出ていった後、ドゥニが話を戻す様に口を開いた。

 振り返って彼の近くに歩み寄ると、どこか見定めるような目でこちらを見るドゥニと目が合う。


「やっぱりルージュも魔力を増やしたいクチか?」

「ううん、減らしたい方」


 即答すると、ドゥニの動きが停止した。

 え、何。そんなに変な答えだったかな?


「……本気?」


 さらに数秒後、ドゥニは目を見開いて真剣な顔で聞いてきた。

 細目だから瞳が赤いことをここでようやく知った。綺麗だなぁ。


「本気だよ。私は魔力を減らしたい」


 もう一度、今度は目的をはっきりと口に出して言うと、ドゥニは片手で目を抑えながら顔を上に向けた。それ、どんな感情?


「魔力ってやつは、増やすよりも減らす方が簡単だ」


 その状態のまま、ドゥニは何やら説明をし始めた。


 たしかに、どんな物でも何もないところから何かを生み出すよりも、元々あるものを減らす方が簡単だよね。

 ってことは、減らすことはできるってことかな。期待感が増す。


「増やす方については、いまいち画期的な魔法を思いつけていないんだが。減らす方はすでに魔法陣ができてる。ただ一つ問題があって」


 ドゥニはようやく顔を正面に向け、手でソファーに座るよう私に勧めてから自身も向かい側のソファーに座った。

 さっきのような軟派な雰囲気は一切感じられない。すごく真剣で、真面目で普通の魔法研究者みたいだ。


「問題って?」


 素直に疑問を口にすると、ドゥニは口角をこれでもかと上げた。

 ……前言撤回。普通だと勘違いするのは危険。すごく不気味。


「魔力を減らしたいってヤツがいないことだ」


 ……あ、そうか。よく考えてみればそれも当然だね。


 基本的に、魔力をたくさん持っている人っていうのは少ない。使いたい魔法があっても、魔力が足りないから使えないなんてことはざらにある。


 普通、魔力を減らしたいだなんて思う人はいないよね。減らして得になることなんて、普通は何もないから。


「減らした魔力は元に戻らない。そう言うと、誰も試そうなんて思っちゃくれない。自分で試そうとも思ったが、オレの魔力が減って研究が進まなくなったら本末転倒だし」


 魔法陣を新たに作る時には、魔力がたくさん必要だって勉強したっけ。

 うん、ドゥニ自身が減らすわけにはいかないよね。エルフだから魔力量も多そうだけど。


「つまり、魔法陣は完成しているが試したことが一度もないってこと。これが問題」


 なるほどねー。つまり、研究がそこでストップしていたってわけか。それなら私という存在はピッタリだ。むしろ運命と言ってもいい。


「私で試していいよ」

「……さっきも聞いたが、本気か?」


 迷いなくそう言ったのに、ドゥニはまだ疑いの眼差しを向けてくる。

 口説く時はグイグイくるのに、こういうところはちゃんとしているというか、人の心を持っているというか。


 ま、理由もなくオッケーと言われてもそうなるよね。後で文句を言われても困るとか思うだろうし。


 というわけで、こちらの事情も少しだけ明かすことにした。


「私ね、魔力が多すぎて持て余してるの。これ以上増えたら危ないんだってベル先生が言ってた」

「ふぅん……? じゃあちょっと魔力量、調べさせろ」

「いいよ」


 まだ信用できていないのか、手を差し出してきたのですぐに自分の手を乗せる。こんな小さな私がそこまでたくさん魔力を持っているわけない、とでも思っているのかも。


 ただ、こっちは命がかかっているのだ。魔力で身体がパーンとなるのを何としてでも避けたい。


 っていうかさ、ベル先生は対処法があるってわかってたってことだよね? あれだけ脅かしておきながら。

 ……大泣きした私の気持ちはどこへ向かえばいいの。本当にベル先生ってさ、もうさ……。


 はぁ、もういいや。好感度下げとこ。


「うわ、これは予想以上。オレはてっきり、元々の容量が少ないタイプだと思っていた」


 ドゥニは前にベル先生がしたように、右手を私の胸の前辺りでかざすとすぐに驚いた声を上げた。

 元々の容量が少ないタイプ? よくわからなくて首を傾げていたらドゥニが説明してくれた。


「魔力が多すぎて体調を崩す病はすでにある。でも実際は魔力が多いわけじゃなくて、魔力を保持できる容量が少なすぎるのが原因でな。要は生まれつきの体質ってやつ。そういった患者には、定期的に魔石に魔力を移すことで対症療法をとってもらっているんだが」


 へー、そうなんだ。そんな病気があるのも初耳だし、実際は身体の方に問題があるというのも初めて聞いた。

 でもそうか、そういった人たちも対症療法をするしかないんだね。きっと大変だろうなぁ。


「ルージュの場合、魔石がいくつあっても足りないな。元々、容量も馬鹿みたいにデカいから。山火事をコップの水で消そうとしているようなものって言えばわかるだろ?」

「ほとんど意味ないね……ね、そんなに私の容量って大きいの?」

「オレより大きい。エルフとして嫉妬するレベル」

「えぇ……」


 今回の人生では新たな事実を知ることが多いなぁ。しかも自分のことで。

 要は、ループしていなければ完全に宝の持ち腐れな体質だってことじゃん。きっと、知ることもなかっただろうね。


「話を戻して。この研究はそもそも、そういった病を対症療法ではなく根本から治すために生み出したものだ。早く実際の医療に取り入れたいと思っている」

「でも、実際に使用できるようにするためには治験が足りないから保留になっていたってこと?」

「正解。頭がいいと話が楽で助かるな? ルージュが子どもでなきゃ、今すぐ押し倒して既成事実作ってオレのものにしたいところだ」


 本当にこの人は余計な一言、二言、三言が多い。私は思い切り引いた。


「アウトだよ、ドゥニ。その発言はアウト。よく覚えておいて」

「お? そうなのか」


 できる限り冷たい目と声でそう言ってはみたけど、ドゥニに気にした様子は全く見られない。

 魔法陣の準備してくる、と鼻歌交じりに研究室の奥へと向かってしまった。


 あれって、エルフジョークなのかな? 種族の差? 感覚の違いってやつなのかも。


……だとしても私がまだ子どもで良かったし、この変態が子どもにまで手を出すような変態じゃなくて良かったと心から思った。


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