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31 フッ。恋、か……


「はいはい、お呼びで……え、どういう状況? うわ、すごい顔。泣いたの?」


 ベル先生にあやされ、ようやく落ち着いたところで部屋に来客が訪れた。いや、口ぶりから察するに、ベル先生が呼んだっぽいけど。


「ああ、よく来てくれたねジュン」

「いや、スルーすんなし。何があったんだよ……」


 来てくれたのは青髪のジュン。さっき、真っ先に挑んできた人だね。

 眉間にしわを寄せて私とベル先生の顔を交互に見ているジュンに対し、私は答えを口にしてあげた。


「ベル先生に、泣かされた」

「違っ、くはないけど……! ちょ、ルージュ!」

「うわ、最低。ベルナール、そんなヤツだったんだ」

「違うってば! 慰めていただけだよ、僕は!!」


 けど、容赦なく現実を突きつけて泣かせたのは事実じゃないか。怖かったんだからね、本気で。

 ちょっとくらい、意趣返ししたって許されると思う。


 それに、ジュンもニヤリと笑って面白そうにしているし、本気で誤解しているわけではないだろう。


「ごほん。ジュンに頼みがあるんだよ。この子をドゥニのところに連れて行ってあげて」

「なっ、なんでボクが? ってか、それならドゥニを呼べばいーじゃんか!」

「ジュン……僕は無駄なことはしない主義なんだよ」

「ぐっ、確かにアイツは呼んでも来ないだろうけど……!」


 お、今度はジュンがしてやられている。というか、一体誰なのだろう、ドゥニって。


「はー、下っ端はこういう時に損だよな。細かい雑用をあっちこっちで頼まれてさー」

「別に下っ端だとは思っていないよ。ジュンがなんだかんだ言って頼みごとを引き受けてくれることをみんなが知っているだけじゃないかな」

「なっ!? じゃ、じゃあ今後は引き受けないからなっ!」


 私のせいで面倒な仕事が一つ増えてしまったのか。申し訳ないな。

 というかジュンって……実はちょろい人? 完全にベル先生の手のひらの上で転がされている感がある。


「頼りにしてるんだよ。それに……ドゥニのところなら理由を付けてでも行きたいんじゃないかな?」

「ばっ……! おっ、お前っ!! そん、そんなわけ、ね、ねねねねねぇだろっ!!」


 めちゃくちゃ動揺してるな……。顔も真っ赤だし。


 なるほど。恋、か。


 私がフッと息を吐いてにんまりしていると、ジュンがバッとこちらを勢いよく振り向いた。


「おい、ルージュ! お前、何をわかった風な目をしてやがんだよ……! 違う、違うからな!?」

「ん? 何が違うの?」

「うっ、だ、だからっ、ボクは別にドゥニのことなんか……!」


 何も言ってないのに。語るに落ちるとはまさにこのこと。

 これはからかい甲斐がある。思わずベル先生と微笑み合ってしまったよ。


 ジュンって言葉遣いは荒いし、ダボッとした服装のせいで体型もわかんないしで、やや小柄な男の人に見えるんだけど、実は女の人だ。

 魔法使いは相手の基本的な情報を、纏っている魔力でなんとなーく察するから間違いない。


 パッと見は本当に男の子にしか見えないんだけどね。髪も短いし。あ、前髪は長くて左目が隠れているんだけど。

 なんというか、雰囲気も全体的に男っぽいんだよね。わざとそう見せてる部分もあるかもしれない。


 だけど、話してみればあらビックリ。めちゃくちゃ乙女だった。恋する乙女。

 いよいよ、ドゥニがどんな人なのか気になるところだ。


「ね、ドゥニって誰? どんな人?」

「ルージュの命を繋いでくれるかもしれない人、かな」


 命を繋ぐ? なんでそこ、ハッキリ言わないんだろ。

 ベル先生って秘密主義というか、驚かせようと思っているのか、こういう時に濁すところがあるよね。言ってくれればいいのに。


「命って……ルージュはどこか悪いのか?」

「健康だよ」

「おいてめぇ、ベルナール。思わせぶりな言い方すんな」


 心配そうにこちらを見てきたのでサラッと返すと、ジュンはすぐさまベル先生を睨んだ。その切り替えの早さ、嫌いじゃない。


「ドゥニの研究内容は知っているだろう? それが今のルージュに必要ってことさ」

「あいつの研究内容って……えぇ? ますます意味わかんねぇ」


 ああ、そういえば。魔塔の魔法使いは国や冒険者ギルドなどから依頼がきた時以外は、魔塔でそれぞれ思い思いに魔法の研究をしているんだっけ。

 研究をせずに、依頼ばかりを受ける魔法使いもいるみたいだけど。ちなみに、ジュンはその依頼ばかりを受けるタイプの魔法使いらしい。


 で、研究組は本当に様々で、それは一体なんの役に立つの? というものから、成功すれば世界がひっくり返る、という魔法を研究している人もいるのだそう。

 ドゥニはどちらかというと真っ当な研究をしているよ、とベル先生は微笑んでいるけど……いつもながら信用できない微笑みだ。


「ま、どっちにしたってボクには関係ないね。用はそれだけ? じゃ、ボクはもう行くからね!」


 フンッと鼻を鳴らして腕を組んだジュンは、そのままドスドスと足音を立てながらドアの方へと向かった。

 案内は拒否か。仕方ない。自力で探して……と、考えていると、急にジュンがクルッと振り返って叫んだ。


「おいっ、ルージュ! さっさと付いてこないと置いてくぞ!!」

「……案内はしてくれるんだ」


 驚いてチラッとベル先生の顔を見ると、こうなることがわかっていたのかにっこりと笑顔を向けられた。ほんと、いい性格してるな。


 ジュンは悪い人じゃないだろうし、魔力の相性的にも合うって感じる。言葉と態度が少し乱暴なだけの乙女だ。


「行ってきます、ベル先生」

「いってらっしゃい。頃合いをみて迎えに行くから」


 さて、ドゥニはどんな人かな。油断せずに気を引き締めていこう。


 ※


「ここがドゥニの研究室。ノックしたところで聞いてやしないから、勝手に入って声をかけた方がいいぜ」


 浮遊魔法で移動したその場所は、研究室が並ぶ三階の一室だった。階段がある場所から四つ目の右手側、と。ドアの前には名前が書いてあるから大丈夫かな。


 ドゥニ・ファラーラ、か。ちょっとかわいらしい名前だ。


「じゃ、ボクは行くから」

「ちょ、ちょっと待って」


 そのまま立ち去ろうとしたジュンの腕をグイッと掴んで引き止める。

 ジュンは嫌そうな顔で振り返ったけど、これは貴女にとってもチャンスだと思うので。まぁ、話を聞いていってよ。


「私は初対面で、どうしたらいいのかわかんないから……最初は間に入って紹介してくれない?」

「はぁっ!? なんでボクが! 厚かましいぞっ!」


 と、言いながらも顔がほんのり赤い。ドゥニと話せるチャンスでもあるじゃないか。

 それに実際、初めて会う魔法使い相手に、なんて切り出したらいいのかわかんないんだよ。助けてよ。


「お願い、ジュン。今頼れるのはジュンだけなの……」


 あまりこういう頼み方はしたくないんだけどね。ベル先生みたいで。

 でも使えるものは使うのだ。子どもの上目遣いうるうるおねだり攻撃はどうだ。


「うっ、ず、ずりぃぞ! そういうとこ、なんで似るんだよっ! どんな教育してやがる、ベルナールめっ!!」


 よしよし、矛先がベル先生に向いたぞ。私は内心でニヤリと笑った。

 もちろん、表では引き続き懇願するようにジュンを見つめている。うるうる。


「今回だけだからなっ!!」

「ありがとう、ジュン! 大好き!」

「だっ、大好きとか軽々しく言うなっ!! ほら、行くぞ!」


 ダメ押しの大好き攻撃に顔を真っ赤にしたジュンは、荒々しくドアを開けた。


 ふふん、伊達にエルファレス家でもう五年も過ごしてないんだよ。

 あの家の「好意をどストレートに伝える」スキルを知る私は無敵だ。


 まぁ、実際やってみせるのにはかなりの精神力を必要とするんだけど。息をするように言えるわけではない。


 ジュンの背後で満足げに頷いた私は、彼女に続いて研究室に足を踏み入れた。


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