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29 とても怖い話を聞いた


「何者、ってどういうこと?」


 とりあえずしらばっくれる。無駄な足掻きかもしれないけど。

 でも、まさか私がループしていて、何度も同じ人生を送っているとは思わないだろう。ベル先生だって、どういうことかはわからないけど私に違和感を覚えるからこうして探っているのだ。


「だって、君は少し他の人と違うだろう? 今さら気遣うようなことは言わないよ。君は魔塔を継ぐに相応しい立派な『変人』だ」


 失礼だな。面と向かって変人だなんて。


「君は出会った時から不思議な子だった。とても年齢にそぐわない考え方をするし、言動も、反応も、とても五歳児とは思えなかったよ」


 油断した。そう、これは明らかに自分が悪い。


 これまでの人生で、私について疑問を持つ人はいなかった。それは、関わってきた人たちがみんな、私にそこまでの興味を抱かず、深く考える人たちじゃなかったからだ。


 その感覚のまま、この人と接してはいけなかったのだ。

 もっと子どもらしく、細心の注意を払って行動していれば……いや、未熟な私の嘘を、ベル先生が見抜けないわけないか。


 結果として同じだったのかも。下手に演技して不審に思われていたかもしれないことを思えば、良かったと言えるのかもしれない。

 まだ比較できるほどベル先生と関わる人生を送っていないからわからないけど。初めてだし。


「今はそれに慣れて不思議には思わなくなったけれど、十歳の今だって十分規格外の能力を持っている。魔力量にしろ、対応力にしろ」


 この人は、私に興味を持って近づいてきた。変人で、くせ者で。


「まるで、年齢を偽っているみたいだ」


 そして……鋭い。


 馬鹿だなぁ、私。油断させて本音を知ろうとする手口、ずっとわかっていたのに。まんまと何度も引っかかってさ。


「本当に十歳だよ、私」

「そうだね」

「悪いことだって考えてない」

「うん」


 結局のところ私に言えるのはこんな子どもみたいなことばかりだ。何度も人生を繰り返しているというのに、こういった点で私に進歩はない。


「これは予想だけれど。ルージュ。君はその違和感の原因を知っていて、それをどうにかしたいと思っている。魔塔で調べたいことに関係しているんじゃないかな」


 うわ、このままじゃ丸裸にされそうだ。


「……間違っては、いないけど。間違ってもいる」

「うーん、難しいな」


 別に、秘密にしたいわけじゃない。ただ、虚しいだけだ。


「それを僕に話すことはできない? 秘密にしたい理由があるの?」

「だって、言っても今の私が少しスッキリするだけで、後で辛くなるもん」


 ループして、全てがリセットされたらこの記憶だってなくなる。

 信じてもらえないだろうな、と思いながら説明して、たとえ信じてもらえたとしても次に同じとは限らない。それは経験から学んでいるんだ。


 信頼関係の構築とか、タイミングとか、その時の機嫌とか。あらゆる要素が絡み合って、結果が出る。

 人生を何度も同じように繰り返しているつもりでも、毎回微妙に違う人生になるのはそのためだ。


 ベル先生のことは信用してる。今の人生ではね。でも、この先の人生で同じように思えるかはわからない。


 同じように扱ってもらえるか、わからないからだ。同じ人物でも、毎回違った顔を見せるし、その分その人に抱く印象も変わっていく。


 ああ、面倒臭い。何度やり直しても、今のように良い関係が築けるのならこんなに悩んだりしないのに。


「じゃあ、今言わなかったら後で辛い思いはしない?」

「……する」


 言っても言わなくても、辛い思いはするんだよ。やり直した先でね。


「言わなければ今もスッキリしないし、後で辛い思いもする。それって損じゃない?」


 それは、そうだけど。


「いずれにせよ後で辛いなら、せめて今のルージュが少しでもスッキリする方がよくないかい?」


 それもそう。わかる。


 ……まぁ、この流れと今のベル先生との信頼関係なら、話しても大丈夫だとは思う。信じてくれるかどうかは別にして、鼻で笑ったり適当にあしらったりはされない気がする。


 ああ、違う。たぶん私の中では、すでに答えが出ているんだ。認めるのが癪なだけでさ。


 この人は、大丈夫だって。

 ……話して、みるか。


「信じてくれるか、わかんないけど」

「うん。ちゃんと聞くよ」


 ベル先生は、こちらを慈しむような、愛おしむような。とにかくなんだかむず痒くなるような笑みを向けてきた。いつもの、胡散臭い微笑みじゃなくて。


 私だってきっと、出会った瞬間からベル先生を好ましいと思っていて、合うと思っていて……。


「私は、たぶん。もうずっと、誰かの死に戻りに巻き込まれ続けているの」


 ————ずっと、話を聞いてもらいたいと思っていたんだ。


 ※


「なるほど、君の魔力量の謎が解けた」


 全てを話し終えた後、ベル先生が開口一番に言ったのはそんな言葉だった。


「ん? 何をそんなにおかしな顔をしているんだい?」

「お、おかしな顔なんてしてないもん」

「そうだね、かわいい顔だったね。ごめんごめん」


 そういうことでもない。


 まぁ、そんなくだらないやり取りはどうでもいいのだ。

 今、なんて言った? 魔力量の謎が解けたって言ったよね?


「魔力量の謎って、何?」


 まずはそこからだ。あ、もしかして年齢の割に魔力が多いのが不思議だったってことかな?


「確認するけれど、ルージュはこれまでの人生で魔法を使えていたことはないんだよね?」

「うん。使えたのかもしれないけど、魔力があるって気付いたのが今回初めて」

「ずっと魔力がないと思っていたのかな?」

「ううん。あるのは知ってた。でもものすごく少なかったから」


 ふむ、と言いながら顎に手を当てたベル先生は、どこかホッと安心したような顔を見せた。けれどそれは一瞬だけで、すぐに真剣な顔になる。


「ある意味よかったかもしれないな。もしルージュに元から魔力がたくさんあったら、その身体は保てていなかったかも」

「えっ」


 思ってもいなかった角度からの発言に、驚いて変な声が出た。

 身体が保てないってどういうことなの。怖いイメージしかわかないんだけど。


「人間の身で耐えられる魔力量には限界があるんだよ。たとえば妖精族なら、魔法に特化した身体を持っているから耐えられるかもしれないけどね」

「えっ、えっと、どういうこと?」


 結局何が言いたいのかはっきりしない。でも、すごく嫌な予感がして聞きたいような、聞きたくないような。


「それ以上、魔力が増えたら身体が持たないってこと。現にルージュ、君はヴィヴァンハウスで魔力を暴走させてしまったじゃない」


 確かに、あれは今までにないことだった。というか、あれがあったから魔力があるらしいことに気付いたんだけど……。


「あれは、そろそろ限界だっていう身体からの信号だ。本当に幼い子なら、感情の制御が甘くて暴走するってことも実際にあるけれど。君は違うだろう?」


 何それ、話が不穏……。いやでも、あの時の私は実際にかつてないほど情緒不安定だったし、暴走してもおかしく……ううん。


 絶望に打ちひしがれたり、怖い思いをしたことは何度もあった。その時は何も起きなかったもん。

 それはひとえに、魔力量がそこまで多くなかったからだ。


 ベル先生の話は信憑性が高かった。それが余計に恐ろしく感じる。私は恐る恐る訊ねた。


「身体が持たなくなったら、どうなるの……?」

「……言ってもいいの?」

「そ、そこまで言われたら、黙られる方が怖い」


 スッと真顔になられるのも怖い。

 あまり良くないことになるだろうってことは想像がつくよ。だから覚悟はできてる。


 じっと見つめていると、ベル先生はふぅと小さく息を吐いてから重々しく口にした。


「……破裂するよ。文字通りね」

「ひっ」


 は、破裂って。思っていた以上に怖いんだけど……!?


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