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28 まったく、恐ろしい人だよ


 それからはみんなに囲まれ、あれこれと質問攻めにされた。収拾がつかなくなりそうなのでベル先生が強制的に解散させたけど。

 また今度、ゆっくり話しを聞かせてもらいたい。私も皆さんのお話には興味があるし。


 渋々といった様子で引き下がっていく魔法使いたちを見送っていたら、ベル先生がウインクしながら問いかけてきた。


「いい加減に理解した? 君の実力がとんでもないってこと」

「……あ」


 ずっと、ベル先生は私を褒め称え続けていた。その度に大げさだって、お世辞だって思っていたけど。


「私って……めちゃくちゃ強い魔法使いなの?」

「めちゃくちゃ強い魔法使いだよ? 僕と同じくらいかそれ以上に最強の。ずっとそう言っていたじゃないか」


 ……本当のことだったんだ。


 だって、ベル先生が言うとどこまで本気なのかわかんないというか、冗談かただのお世辞にしか聞こえないんだもん。


「やっと信じてもらえて嬉しいよ。で、君の可能性はわかってもらえたかな?」

「…………わかった。わかりましたよ」


 なんでだろう、妙に悔しいのは。認めるのがなんだか癪で、口を尖らせてしまう。


 そうかぁ、私って強い魔法使いなのか。

 正直、自覚はない。だって、魔法を使って戦うというイメージがわかないから。


 今日、初めて戦闘みたいなことをしたんだよ? よく考えると、いやよく考えなくても鬼畜じゃない? 平和にぬくぬく楽しく魔法を学んでいた子どもに対して、なんたる仕打ち。


「そうだ、これ。プレゼントだよ」


 やや拗ねていると、ベル先生が深い藍色の布を手渡してきた。

 受け取って広げてみると、見慣れた服に目を丸くしてしまう。


「……ローブ?」


 ベル先生や魔塔の人たちが何人か着ていたのと同じローブだ。

 これは、ちょっとうれしい、かも。


「そう。魔塔の魔法使いという証でもあるんだ。サイズは特注。小さくなってしまったらまた新しく贈るからね」

「あ、ありがと……」

「うん、どういたしまして」


 さっき下がったベル先生への好感度が少しだけ元に戻る。

 でも、この程度でさっきの不意打ちは許さないんだからね。信用はしていても信用ならないのがこの人だ。矛盾ではない。


 まぁ、さっき慌てず震えず対応出来たのは、これまでの人生において「戦闘」という経験がないわけではなかったからともいえる。

 かなり昔、剣を使っていたあの時は戦にも出ていたからね。


 前線で戦っていたなんて、自分のことながら信じられないな。今はもう絶対に無理だ。あんなに怖くて疲れること、二度としたくないもん。


 そんなことを考えながらいそいそとローブを羽織ると、よく似合ってる、と満足そうにベル先生が頷いていた。なんだか照れくさい。


「ところで、魔塔の仲間たちはどうだった? 変なヤツばかりだろう? あ、さっきの戦闘だけではわからなかったかな」

「いや、十分変な人たちだなって思ったよ」


 喜び勇んで子どもに攻撃を仕掛けてくる大人たちが、普通の人であるわけないからね。


 私の答えに明るく笑ったベル先生は、僕の研究室へ向かおう、と言って歩き始めた。


 研究室は最上階にあるらしい。まさか、奥の方に見える螺旋階段を上がって行くのだろうか。今の私の体力では途中で力尽きそう。

 ……という心配は杞憂で、私たちは魔法使いらしく浮遊魔法で最上階へと向かった。安心した。


 研究室の前に着くと、ベル先生はどうぞとドアを開けて中へ入れてくれた。その所作が文句のつけようがないほど紳士だ。

 いつものことながら、こういう部分で侯爵なんだなぁと思い出す。だって普段は気安いし、鬼畜だし、変人だから。


 室内に入ったベル先生は、自らお茶を淹れながら気になる魔法使いはいたかと聞いてきた。

 気になる、ということだけで言うならみんな気になるんだけど。とりあえず挑んできた人はみんな気になると答えた。


「なるほどね。じゃあ質問を変えるよ。気が合いそうな人や、逆に合わない人はいたかい?」

「え、そんな。ちゃんと話したこともないのに」


 まさか、会話するより拳を交えれば相手のことがわかる、みたいな脳筋思考で言っているわけじゃないよね?

 そう思って訝しげな顔を浮かべていると、私の前にあるローテーブルにお茶を運びながら、ベル先生は話を続けた。


「同じ魔法使いだとよくわかると思うんだけど。パッと見て、なんとなく気が合いそうな人、相容れない人というのがわかったりしなかった?」

「あ、それは確かに」

「それがいわゆる相性さ。信憑性は高いよ。魔力はその人そのものを表わすからね」


 フィーリング、っていうのかな。第一印象に近いかもしれない。


 けれど魔法使いは、その第一印象が外れることはほとんどないという。無意識に魔力を感じ取って、そこで相性を確認しているらしいのだ。ほえー。


 んー、そうだな。青い髪のジュンって子は、戦闘狂って感じですごく苦手なタイプのはずなのに、嫌な感じはしなかったかも。むしろ、意外と気が合うかもって思う。

 緑髪の紳士っぽい人も悪くない。無条件に頼ってしまいそうな何かを感じたかな。


 逆に穏やかに微笑んでいた優しそうな人と、すっごく真面目そうな眼鏡の人は合わない気がする。


 相性だから、いい人悪い人は関係ないんだよね。自分に合うかどうか、それだけだ。

 合わないからって嫌いになるわけではないけど、警戒はしちゃうかもね。相手も同じなのかな?


「直感的に合わないと感じたなら、おそらくそれが正解。信用できるかどうかも、魔法使いはだいたい感覚でわかるものなんだ」


 へー、それは便利そうだ。でも本当に信用するかは慎重になっちゃいそうだな。私は結構、疑り深いのだ。


「僕は君のことをほとんど知らない内から、屋敷に迎えただろう? いくら幼い子どもとはいえ、大切な家族に悪影響を与える相手かもしれないのに」


 ……それを言われると、何も言えなくなるじゃん。


「この魔塔で、遠く離れた場所にいる君の膨大な魔力を感じ取ってから、ずっと君とは合うという予感がしていたのさ。そしてそれは当たっていた」


 確かに、ベル先生は最初から好意的だった。それは、私が幼い子どもだったからってわけじゃなかったんだ。

 意外だったけど、納得もした。ベル先生のような変人が、幼い子ってだけで優しくする方が違和感あるし。


「どうかな? ルージュにとって、僕は合う相手かい?」


 答えたくないなー。悔しいから。


「……居心地は、好いよ」

「それは良かった。娘に嫌われるようなパパになっていなくて」


 いつもの胡散臭い笑みを浮かべるかと思っていたら、ベル先生は心底ほっとしたように肩の力を抜いた。


 ……もう。時々そういう姿を見せるからズルいよね。信用、しちゃうじゃん。


「さてルージュ。あともう一つだけ質問させてね」


 ほんの少し絆されて、緩んだ顔でお茶を飲んでいると、ベル先生がのんびりとした調子で話を戻した。


 きっと他の魔法使いのことや、魔塔の感想、もしくは今話していた相性についての話が続くのだと思っていた。完全に油断していた。


 ベル先生は、一度相手を油断させてから本命を探る手法を使うって、知っていたというのに。


「君は、何者なんだい?」


 急に声が硬くなった気がした。


 カップに口を付けた状態のまま、カップを傾けることもできずにそのまま動きを止めてしまう。


 なんとなく、ベル先生の目を見られなかった。この人は、どこまで私のことを見透かしているのだろうか。


 ほんと、油断ならない。私は紅茶を飲むことなく、ゆっくりとカップを戻した。


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