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27 物は言いようだよね


「ボクが最初にやる!」


 どこからともなく降ってきた青髪の魔法使いが、やる気満々な様子で宣言してきた。

 長い前髪で左目が隠れているけど、若そうに見えるね。二十代前半くらいかな。


 ……っていうか今、浮遊魔法使ってないよね? まさか、どこかから飛び降りたのだろうか。


「俺も立候補させてもらう。別に魔塔の主の座には興味ないが、ベルナールがそこまで言う子がどれほどのものか気になる」


 続けて緑髪の大柄な中年男性が小さく挙手をした。厳つい見た目とは裏腹に、どことなく礼儀正しさも感じる。


「俺もだ! 気に入らないとかはないが、実力は確認させてもらうぞ」

「私も参加しますねー」

「私も!」

「僕もー!」


 それらを皮切りに、次から次へと申し出てくる魔法使いたち。血気盛んすぎじゃない? こんな子ども相手に。


 え、こんなにたくさんの人と手合わせするの? 昔、剣術をしていた時はそういう訓練もあったけど……あれは本当にキツかった。

 魔法使いでもこんな脳筋訓練があるのだろうか。いやー、聞いたことないけどなぁ。


 でも、魔法使いの訓練する様子なんて見たことないから、常識だったりするのかもしれない。ああ、脳筋は嫌だ。疲れるのも嫌。


「面倒だね。まとめてかかってきたら?」


 急に騒がしくなった魔塔内部にて、飄々とそう言ってのけたのはベル先生である。


 だから! どうして! ベル先生が! 勝手に話を進めるの!


 そんなこと絶対に言わないけど、それはたぶん私が言うべきセリフでしょ!


 わーっ、気付けばたくさんの人に囲まれてるんだけど! みんな揃って獲物を見るような捕食者の目をしている……! ゾワッと悪寒が走った。


「ベルナール、本当にいいんだな? まだ子どもだけど、ボク本気で行くよ?」

「おや、ジュン。魔法使いの実力は、見た目だけではわからないってまだわからないのかい?」

「……りょーかい。じゃあ遠慮なく、全力でいかせてもらうからな!」


 ジュンと呼ばれた青髪の魔法使いがせっかく確認してくれたのに、ベル先生の一言であっさり納得してしまった。

 いや、子どもだから手加減してよ。怖いよ、そのぎらついた目。


 しかしそんな私の内心などお構いなしで話は進んでいく。

 魔塔の一階、ロビーの中央には挑もうとする人たちだけが残り、他の人は周囲に避けた。


 ベル先生がサッと手を振って結界の魔法をかけると、あっという間に簡易的な試合場の完成。手際が良すぎる、これだから魔法使いは。


「ルージュはただ、防御の魔法だけをかけてこの場に立っていればいいよ」

「え」


 永遠に戸惑っている私に対し、ベル先生がようやく小声でアドバイスをしてきた。いや、アドバイスと言っていいのか、これは。

 防御魔法を自分にかけて、ひたすらぼこぼこにされろと? それって負けはしないだろうけど勝てもしなくない?


 疑惑の眼差しで見つめていると、ベル先生はニヤリと不敵に笑った。


「みんなから袋叩きにされてさ、怖ぁい! って縮こまっていればいいさ」


 カッチーン。言い方に悪意がある。これは明らかな挑発だ。


 ベル先生は厄介なことに、私が意外と負けず嫌いなことを知っている。

 さすがに命の危険とかがあったら意地もあっさり消し飛ぶけど、私は難しい課題とかなら、なんとしてでもやってやる! という闘志を静かに燃え上がらせてしまうのだ。


「ルールは簡単。ルージュに『降参』と言わせるか、戦闘不能にしたら君たちの勝ち。君たちは勝てないと思えば離脱して、誰もいなくなったらルージュの勝ち。あとはそうだな、全員が戦闘不能になったらそれもまたルージュの勝ちでどう?」

「異議なーし!」


 あーもう。戦闘狂が多いなぁ。まだ私、やるなんて一言も言っていないのに。戦うのは私だよ?

 ベル先生は普段優しいけど、魔法に関しては本当に容赦ないんだから。


「準備はいいね? じゃあ、始め!」


 ぜんっぜん良くないけど、試合は始まってしまった。もーっ!


 ひとまず、誰がどんな魔法を仕掛けてくるかわからないので、ベル先生のアドバイス通りに防御魔法を最初にかけておく。色んな魔法も見てみたいし、これでひとまずは様子見だ。


 青髪のジュンが先制攻撃をしかけてきた。拳で。え、拳?


 ガインッと大きな音がして、防御の壁に阻まれていたけど……少しでも防御魔法が遅れていたら私は吹っ飛んでいたよ。こわ。


「うわ、なにこの守り! 強固すぎんだろ」


 そう言いながら後退したジュンだったけど、どことなく嬉しそうな顔をしている。わぁ、戦闘狂……。


 顔を引きつらせていると、右側から大量の水が押し寄せてきた。でも大丈夫。私の防御魔法は物理も魔法も通さない。


 というか、私が攻撃だと認識したものを通さないので、必要な物だけは通してくれる。空気とかね。魔法陣を研究してそう組み替えたのだ。


「今のもダメか? 全力でぶつけたんだがなぁ」

「物量ごり押しでもダメなの!? こりゃいい!」


 どうやら水魔法を使ってきたのは礼儀正しそうな緑髪の男性だったらしい。紳士っぽいのにえげつないな。


「閉じこもってばっかりかよ、嬢ちゃん! それじゃあ強いって証明にはならねーぞぉ!!」


 続けて、いかにも脳筋代表、みたいな金髪碧眼の男性が両手に火の玉を浮かせてこちらに向かってきた。

 魔法陣から察するに……爆発しそうだなー。ただの火の玉じゃないっぽい。なんとなくだけど。


 まだこの辺りの予想はベル先生には遥かに及ばない。知識の差はどうしてもねー。もちろん、防御魔法はビクともしなかった。


「だーっ! アンタの実力が知りたいんだよぉ! 魔力量がすごいのはわかったから出て来いよーっ!」


 金髪の男性が叫んでいる。まぁ、そうだよね。魔力量で負けない限り、私の防御魔法が破られることはないから。


 もう少しくらいは耐えられるけど……ここにいるのは魔塔の優秀な魔法使いたち。いつまで耐えられるかわかんないし、こっちも攻撃しよう。


 それに、魔法は見させてもらったからさっさと終わらせたい。このままじゃ楽しみにしていた魔塔の散策も、調べたいことも、全部できなくなっちゃう。


 防御魔法をそのままに、魔法を構築する。足元に魔法陣が重なって現れた。いわゆる二重魔法だ。

 まったく属性の異なる魔法だから、連続して違う魔法を使うより重ねがけの方が私は苦手。


「全員、止まっちゃえ」


 発動させるのは、時を止める魔法。


 とはいっても、全ての時を止めるわけじゃない。魔力も多く消費するし、効率も悪いからね。

 それに、意識は残しておかないと。私の勝ちを理解してもらえないのは困る。


 そもそも、全ての時を止める必要はないのだ。ほんの少し、彼ら一人一人の体の動きを止めればいい。


 広範囲でかけちゃえば楽は楽だけど、これもまた非効率。

 時魔法はやたらと魔力を消費するから、少しでも無駄にしないために一人一人個別に魔法をかけるのがいい。

 精密な魔力操作が必要になるけど、そういうのは得意だし。


 まぁ、派手にやっちゃっても魔力が尽きる気がしないんだけどね。本当に多いんだと思う。私の魔力量。


「う、動かない……!?」


 こちらに向かってきていた魔法使いたちが全員その場にごろごろと倒れ伏す。

 指一本動かせない状態なので、生きた石像が転がってるみたいな感じ?


 ただ首から上は動かせるから、器用な人は魔法を発動できるかもね。その瞬間、こっちもまた時止めの魔法をかけるけど。


「今のは、時魔法だったよな? まさか、動きだけを止めたのか!?」


 さすがは魔塔所属の優秀な魔法使いたち。私のしたことを正確に把握したみたい。


「これだけの魔力量を保持しながら、精密な操作もできるなんて反則だろ……」

「力任せの方が楽なのに」


 そんなに驚くことかな? でも確か、魔力量が多ければ多いほど制御が難しいって前にベル先生が言っていたっけ。


 私、元は微量の魔力しかなかったからね。勿体ない精神で少しずつ使うという癖がついているんだよ。貧乏性とも言う。


 何はともあれ、これで終わりかな? ベル先生の方に顔を向けて、首を傾げる。


「私の勝ち?」

「ああ、よくやったねルージュ。それ、解除してもらえるかな?」


 ベル先生の言葉に頷いて時魔法を解除すると、全員が脱力して大きく息を吐いていた。

 どうにかしようと抵抗していた人もいるっぽい。やるなぁ。それやるとすごく疲れるのに。


「どうかな? 娘の実力は」


 ……あっ。ちょっと待って?


 私ったら闘争心に火が点いて、何も考えずに反撃しちゃったけど……。


「文句なしだよ、ベルナール。はぁ、ボクはルージュを認めるよ」

「俺もだ!」

「私も!」


 あぁ、実力で負かせてしまった……。


 これじゃあ魔塔の主は渡さないって言っているみたいじゃないか。私は別に魔塔の主になりたいわけじゃないのに。


「だって。良かったね、ルージュ」

「……嵌められた気がする」

「失礼だなぁ、嵌めるだなんて。僕はルージュを乗せた(・・・)だけさ」


 タチ悪ぅい……。


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