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24 十歳。色々と成長できたかな


 エルファレス家にやってきて、五年が経過した。


 現在、私は十歳。まだループしていない。そのことに、ちょっと安堵している自分がいる。

 だって居心地がいいんだもん。今生だけって決めてるから、できるだけ長く過ごしたいのかもね。


 それに、これまでのどの人生よりもたくさんのことを勉強することができている。これは得難い経験だ。いっぱい吸収しないともったいない。


 その貧乏性な性格が功を奏したのか、私の魔法やマナーや教養はメキメキと身に付いている。先生たちからもずっと褒められっぱなしだ。えへん。

 マナーは特に苦手だったんだけどね。ある程度の筋肉や体力がついてからは失敗も減ってコツも掴めてきたのだ。


 やはり筋肉は裏切らない。今後も鍛えていこう。剣を振り回していた遠い昔の人生ほど真剣にやるつもりはないけどね。だってどうせリセットされるんだもん。

 どうせやるなら、魔法を上達させないと。魔力は引き継げることがわかったから、この先何度やり直しても財産となる方を選ぶのは当たり前だ。


「ルージュにはいつも驚かされるなぁ」

「えへへ。頑張った」


 今日はベル先生と魔法の訓練の日。あれから死ぬ気で頑張った私は、時魔法と同じように発動できる魔法をたくさん習得した。

 たった今、ベル先生の前で見せたのは記憶を読み取る魔法。これで十五個めである。


 冒険者ギルド長のバンさんから勇者の最後の話を聞かされて以来、ベル先生が使ったというこの魔法をずっと使えるようになりたいと思っていたんだよね。


 ちなみにこの魔法、人に対して使うこともできるらしい。ただ、かなり高度なのでできる人は少ないという。

 私も無理。場所に残る記憶を少し見る程度が限界だ。


 とても難しいことをしてるとベル先生は褒めるけど……その難しいことを簡単そうにやってのける人に言われてもあまり説得力はない。


「頑張ったルージュに、ご褒美があるんだ」


 ベル先生は私の頭を撫でながらそんなことを言う。

 もう十歳なんだから頭を撫でるのはやめてもらいたかったが、ご褒美の言葉を聞いて甘んじて受け入れた。私は現金なヤツなのである。


「次の授業からは、場所を魔塔に変えよう」

「!」

「僕もいい加減、ルージュの調べたいことが何か気になるからね」


 パチンと色気ダダ洩れのウインクをして見せたベル先生に対し、顔が引きつる。いくら顔が良くてもそんな軽く話せるものじゃないから。


 まぁ……そろそろ聞いてもいいかな、とは思っているけどね。悔しいのでもうしばらくは黙っていよう。


「その前に、僕がどれほどの偉業を成したのか、それを説明しようと思う」

「急だね」

「魔塔の主としての威厳を、ね。どうもルージュは僕のことをただの優しい素敵なパパだと思っている節があるから」


 否定はしないけど、自分で言うかな?

 付け加えるなら、どこか抜けているところがあって、変なところに興味を持つ風変わりな人だと思っているよ。


「少し前までは、魔法使いが使える魔法は一人一つの属性だけだと信じられていた。ルージュの場合は時魔法だね。それしか使えないと思われてきたんだよ」

「それは魔法の歴史で勉強したね」


 他の属性魔法も頑張れば使えるようになると証明されたのは、比較的最近だと聞いている。だから、一部の年配の魔法使いなんかは未だに一つの属性しか使えず、プライドの高さからこの新しい属性の魔法を使う者たちを妬み、否定し続けているのだとか。


 頭が固いと人生損なのにね、と肩をすくめるベル先生を見ていると、普段そういった人たちと接しているんだということがわかる。

 それなりに苦労してるんだなぁ。いつもニコニコしているから悩みなんてなさそうに見えるだけで。いや、そう見せてるのかもね。


「あらゆる魔法使いに魔法陣を見せてもらって記録し、魔力を込めてみる果てしない研究の末、面倒な努力さえすれば誰でもどんな魔法でも習得できることがわかった。これを証明して今の魔法使いの主流にしたのが、僕さ」

「は……?」

「僕さ!」

「いや、二度も言わなくていいよ」


 本当にすごい人だった。わかっていたけどね?


 でも、ベル先生ってまだそこそこ若いよね? そのやり方を発見したのって、下手したらまだ子どもだったのでは?


「ベル先生って、天才?」

「そう、僕は天才なんだよ。へへ、見直したかな?」


 こういう時、子どもっぽい顔を見せるんだよなぁ。はいはい、見直しましたよ。


「融通の利かない、素直になれないくそじじ……大先輩魔法使いたちを魔塔から追い出したのも僕だ」

「うわ、それってさぁ」

「ものすごく恨まれてるよ! 今でも顔を見せる度に殺されそうな勢いさ! 名誉顧問の称号をあげたのにまだ文句があるみたいなんだよね。大人しく隠居してりゃいいのに、出張ってくるし」


 肩書だけ与えて追い出したってことか。しかも、実力では絶対にベル先生には敵わない、と。


 そりゃあ、恨みもするよ。こんな態度だし。どんな人かはわからないけど、ほんのすこーしだけ大先輩魔法使いたちに同情した。


「あ、年寄り全員を追い出したわけじゃないよ? 新しいことにも貪欲に興味を示して習得しようとするじーさんばーさんも数人いるし。そういう人たちは今も魔塔で研究と訓練の日々を送っているよ。楽しい余生を過ごしてもらえて僕としても嬉しい限り」


 言葉を選ぶってことをしないよね。わかっていたけど、きっと本人の前でも容赦なく言うんだろうな。

 ヴィヴァンハウスに来た時はちゃんとしていたし、取り繕うということができないわけじゃなかろうに。


「というわけで、昔は規律も厳しくこわーい場所だったけど、今は向上心に溢れたヤツばかりが集まる場所になっているから、安心して見学できるよ」


 トップが変な人だもんね。似たような人が集まるか、染まってしまうのかもしれない。


 でも、まぁ。


「楽しみ」

「! そうだろう? ルージュならそう言ってくれると思っていたよ」


 私の反応にとても嬉しそうに破顔したベル先生は、魔塔のみんなにも教えておかなきゃ、とルンルンし始めた。

 そんなに楽しみにされると、こっちは少し緊張してしまうかも。楽しみを緊張が上回らないといいけど。


「魔塔に行ったら、ちゃんとプレゼントも用意してあるから」

「プレゼント?」

「そう。受け取ってもらえたら嬉しいな。喜んでもらえたらもっと嬉しい。ありがとうパパ! なんて言われた日には……」


 なんだか妄想が暴走し始めている。そんなにパパって呼んでもらいたいのだろうか。もうずっとベル先生呼びだから、今さら変えるのはハードルが高いんだけど。

 なにより、あまりパパというイメージがないし……この生活を余計に手放したくなくなっちゃう。


 情はあまり抱かない方がいい。ループする時に辛いから。

 何度も同じ人たちと関わるのが決まっているならいいけど、エルファレス家は今回だけだもん。


 それでも、ループする時は寂しいだろうなぁ。今のうちから覚悟を決めておかなきゃ。


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