表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/107

20 魔塔へ行くためのハードル高し


「ずるい! ずるいずるいずるーいっ! 俺だってルージュとデートしたいのに! 抜け駆けだーっ!!」


 後日、リビオにオリドとのお出かけがバレた。

 こうなるだろうことがわかっていたから、使用人の皆さんにも内緒にしてもらっていたんだけどなぁ。


 ちなみに、バレた原因はベル先生である。朝食の席でうっかり喋ってしまったのだ。

 その瞬間の私とオリドは、同じくらい鋭い視線をベル先生に向けていたと思う。迂闊すぎる……!


「俺ともデートしようよー! オリドだけずるいよー! 初デートは俺がよかったのに!」


 現在、リビオは床に寝そべって手足をジタバタさせながら絶賛イヤイヤ中である。本当に貴族のご子息か。


「さっさと誘わないのが悪い」

「!」


 そんなリビオに対し、オリドは彼を見ることなくポツリと告げた。

 ピタリと動きを止めたリビオ。お、怒ったかな?


「それは! そう!」


 納得した。素直だなぁ。


 リビオはムクリと起き上がるとスタスタ真っ直ぐこちらに向かってくる。次に言うであろう言葉が手に取るようにわかった。


「ルージュ! 今度は俺とデートしよ!」

「別にいいけど、どこに行くの?」

「行き先は……えーっと。うーん……?」


 了承の返事を聞いて思いっきり喜んだリビオだったけど、私の質問返しにはたと我に返る。


 とりあえず一緒に出掛けたいという気持ちだけでの発言だったのだろう。リビオは腕を組んでうんうん唸った。そしてすぐに助けを求めた。


「父さん!」

「まったく、リビオは後先考えないタイプだね。良いところでもあるけれど、女の子を誘うなら相手が喜びそうな場所、プランをよく考えてから誘うべきだね」

「うあー! そっかぁ! ルージュ、今のなし! 俺、色々考えてくるからその時にまた申し込む!」

「いいけど……」


 ニコニコと穏やかに微笑みながら答えるベル先生。素直に聞き入れて、またしてもド正直に告げてくるリビオ。


 再び了承すると、先ほどよりも大きな声で「よっしゃー!!」と叫んだ。今は朝食中で、ここは貴族家だということを忘れそうになるね。


「で、行きたいところとかある?」


 直接聞いてきたね? 考えるんじゃなかったのか。まぁ、それでこそリビオだ。

 中には勝手にこっちが喜ぶだろうと思い込んでよくわからない場所に連れて行く人もいるから。それより断然、聞いてくれた方が私はありがたい。


 とはいえ、私にも行きたいところは特にないんだけどね。

 これまで繰り返してきた人生で、この町も周辺もほとんど行ったことがある場所になるから。


 ……一か所だけあるにはあるけど、そこはリビオと一緒に行く場所ではない。


「あ、今ちょっと思いついたって顔したね?」

「なんでわかるの」

「大好きな女の子のことならわかるよ!」


 何その特殊能力。こわ……。


「確かにあるけど、そこはリビオに頼む場所じゃないというか、なんというか」

「いいから言ってみてよ! ね? ね?」


 そんなに目をキラキラさせて見てこないでほしい。たぶん、絶対に無理な場所なんだから。


 でも、言うまでしつこく聞いてくるだろうなぁ。それはそれで面倒だ。

 私は小さくため息を吐くと、一度だけチラッとベル先生を見てから答えた。


「……魔塔」


 やはりと言うべきか、リビオはあー、と残念そうな顔を浮かべている。さすがに連れて行けないとわかっているのだろう。


 そもそも、魔塔は選ばれし者しか立ち入ることができない。たとえ魔力を持っていたとしても、魔法が使えたとしても、魔塔の主に認められなければ入れないのだ。

 その基準は知らないけど、この国のどんな機関より厳しい難関だと聞いたことがある。


 ま、その認めてもらうべき魔塔の主っていうのがベル先生なんだけどね。


 次期魔塔主の候補として私を連れてきたくせに、ベル先生は私を魔塔へ連れて行こうとしない。それはきっと、私の魔法レベルがまだまだ足りていないということなんだろう。

 それは構わないし、なんなら魔塔の主になる予定もないんだけど……単純に、好奇心として魔塔には早く行ってみたいのだ。


 さて、話を遠回しに振られたベル先生は、相変わらずニコニコしたままである。私が魔塔と答えた時は少しだけ目を丸くしていたけど。


「なかなか有望だね。魔塔に行きたいだなんて、僕の目に狂いはなかったな。後継者として頼もしい」


 そういうつもりで言ったんじゃないんだけどね。言わないけど。


「でも、すぐには無理だね。少なくとも、あと十個くらいはサクッと使える魔法を増やしてもらわないと」

「うっ」


 それはつまり、あの複雑な魔法陣をあと最低十個は完璧に覚えないといけないということだ。

 慣れればわざわざ意識しなくとも魔法陣を練ることができるらしいんだけど、私はまだその領域には達していない。


 最初に無意識に使った時魔法だけは、何も考えずとも使えるんだけど。つまり、それが他の魔法でもできるようになれってことか。


 そのためには、まず使いやすい魔法を選び、魔法陣をひたすら書きとって覚え、発動させるというのを繰り返すのみ。

 この単純作業が本当にしんどいんだよね。魔力だけはあるから、魔法を使うたびに疲れるってことがないのが救いだ。


 ちなみに、今の私は見本を見ながらであれば時魔法を除いて五つの魔法を使うことができる。

 水を出す魔法、火を出す魔法、風を出す魔法の基本を三つと、浮遊魔法に鑑定魔法の特殊なのを二つだ。


 ベル先生から使い勝手がいいとおススメされたものなんだよね。確かに便利そうで、私も否やはなかった。


 ただ、見本を見ずに使える魔法はまだ水を出す魔法だけ。それも結構な時間がかかる。

 だって、魔法陣を思い出すのにどうしてもね……。


「道のりは遠いね……」

「ははは! それはそうさ! これができるようになるのに普通は二十年以上かかるからねー! ルージュならもっと早くできると思うよ」


 買い被りすぎだと思います。


 なのに、リビオは純粋にすげーと声を上げているし、オリドも驚いたような顔をしている。だから買い被りすぎだからね? わかってる?


 しかし、そうなると魔塔に行ける日は永遠に来ないかもしれないなぁ。二十年以上も生きてられないから。ループしてしまうという意味で。


 いや、何度もループして挑戦していればいずれは行けるかも? どうせならしばらくの間はそれを目標に生きてみるのもいいかもしれない。


「やっぱり魔塔って、魔法使いにとっては憧れの場所なのか? 俺も見てみたいとは思うけど、単純にどんなところなのかなってだけだからさ」


 いや、リビオとほぼ同じ程度の理由だよ。

 と、素直に言うわけにもいかず。だって、ベル先生がガッカリしそうだし……。それに理由は他にもある。


「調べてみたいことがあって……魔塔なら何かわかるかなって」


 このループの呪いについてだ。


 時魔法を使うようになって、このループが魔法ではないってことがよりよくわかった。

 だって時魔法って、ただでさえ他の魔法よりもたくさんの魔力を使うんだもん。ほんの少し時間を戻すだけでも、水を出す魔法十回分くらいの魔力を消費するのだ。体感でだけどね。


 それを十年以上も遡り、さらに世界全体に魔法かけるなんて絶対に無理。百人単位の魔力が必要になるし、続かない。なぜなら自分の年齢も戻ってしまうから。


 だからこんな超常現象は呪いでしかあり得ないのだ。

 そう考えると、一体どれほどの力が毎回働いているのかって恐ろしくなるよね。だからこそ、知りたいというのもある。


 だって未知のものって怖いじゃない。少しでも解明したいし、あわよくば呪いを解いてほしい。呪いを受けている張本人に。私じゃない。そこ重要。


「それ、僕に聞くのではだめなの?」


 こてんと首を傾げてベル先生がそんなことを言う。

 あー……まぁ、考えなかったわけじゃないけど。


 突然、死に戻りの呪いって何ですかとは聞けないじゃないか。それを聞くにあたっての言い訳もまだ考えていない。時魔法にからめてうまいこと話題をずらしつつ、いずれ聞けたらいいなーとは思うけど。


「まだ、内緒」

「内緒かー」


 なら仕方ないね、と朗らかに笑うベル先生に今だけは救われる。深堀りして聞かれなくて良かったよ。


 だからリビオ、聞きたそうな目を向けるのはやめなさい。内緒といったら内緒なの!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ