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11 この頃から本気だったんだね


 ハグ祭りが終わった。永遠に続くかと思った。

 でも当然、ベル先生やママには仕事がある。仕事の出来そうな執事さんとメイドさんがそれぞれ笑顔で二人を引きずっていった。

 とても嫌そうに連れられて行く義両親。頑張れ。


 オリドはこの後、家庭教師と勉強の時間だという。両親と違って自ら部屋に向かった。優等生だ。


「俺はこれから訓練してくる!」

「訓練? 剣の?」

「正解ーっ!」


 最後に残ったのはリビオだった。勉強はいいのかな? とも思ったけれど、双子はそれぞれ得意分野を磨く時間を多めに取っているんだって。


 オリドにも体力育成の時間はあるし、リビオにも勉強の時間はある。ただ得意なものをより伸ばすために時間を使うのがエルファレス家の教育方針なのだそうだ。


 私はというと、まだ来たばかりなのでなんの予定もない。

 いずれはマナーの勉強や魔法の練習をスケジュールに組むらしいが、しばらくは自由に歩き回って屋敷のことを知ったり、のびのび過ごしてほしいと言われている。

 贅沢タイムだ。ありがたく堪能しようと思う。


 というわけで暇になった私は、見学していても邪魔になりにくそうなリビオについて行くことにした。

 ずっと見ているつもりはないよ。ただ、どんな訓練をしているのか少し見たかっただけ。


 どうやって、あの強く成長したリビオになるのか興味があるからね。英才教育を見させていただくつもりだ。


「俺はさ、いつか冒険に出るんだ。そのためには強くならないと」


 ウォーミングアップをしながらリビオが言ったのは、そんな言葉だった。

 いつか冒険者になることを私は知っていたし、一体どんな経緯でなるんだろうと気になってはいたけど……まさか、子どもの頃からの夢だったとは。


「……冒険者になりたいの?」

「んー、冒険者になるのが目標ってわけじゃないんだけど……」


 ん? 冒険者になるのが目的ではない?

 いや、考えてみればそうか。リビオは生活のために稼ぐ必要なんかないんだもん。武者修行とか?


 ……あるいは。


「俺には魔力がないから……父さんみたいに魔法使いにはなれないだろ? その分、剣の腕を磨いて誰にも負けない剣士になる」


 黙ってリビオの話を聞いていたら、懐かしいことを思い出した。


 かつて、私も同じように考えたことがあったんだよね。自分には取り柄も力もないから、冒険者として生計を立てようと思うなら剣の腕を磨くしかないって。


 今思えば、わざわざ大変な思いをして冒険者になるより、雇われ店員をしていた方がずっと平和に稼げるのがわかる。


 冒険者はいつ死ぬかわからない危険な仕事だ。

 最低限、身を守れる強さがないとまずなれないし、能力がないと稼げないし、よほど腕に自信がないと碌な暮らしができない。

 その日、生きるのに必要な額をチマチマ稼ぐのが関の山。


 なのに、どうして私は目指していたんだっけなぁ。ずーっと昔のことだから忘れちゃった。


 ただ諦めた理由はわかる。自分では絶対に敵わない相手と遭遇したからだ。

 この生き物には勝てない、本能でそうわからされた。


 それがあったからこそ、私は剣を再び握ろうとは思わなくなった。それどころか、冒険に出かけたいとも思わなくなったんだよね。


 要は、心がぽっきり折れたのだ。でもそれで良かったと思う。私は弱いからすぐにやられてしまう。


 死んでも五歳に戻るだけとはいえ、苦しい思いなんかしたくないもん。痛いのは嫌。怖いのも嫌。


 はぁ。私を巻き込んで死に戻っている人は、嫌にならないんだろうか。こんなに何度も何度も……いや、いいわけないよね。


 私の知らないところで苦しんでいるのかも。今も必死になって、呪いを解く方法を探し続けているのかもしれない。


 どこの誰だかわかんないし、私にとっては迷惑なヤツでしかないけど……苦しみはちょっとわかる。

 早く、解呪方法を見付けられるといいね。そう願わずにはいられない。……私のためにも。


「どうしてそこまで強くなりたいの? 何か……目標があるの?」


 ここまで聞かされれば、リビオの目的はなんとなく察せる。

 思えば、どの人生でも彼が冒険者をやってる理由をちゃんと聞いたことがなかったな。

 そして、薄々勘付いてはいたと思う。その話題を避けていた部分もあったかも。


 リビオは私の質問にピタリと動きを止めると、ニッと歯を見せて爽やかに笑った。


「それはもちろん、魔王を倒すため!」


 ……ああ。やっぱりそうだったか。


 このくらいの年頃なら、勇者に憧れるよね。大抵はそのうち諦めて別の道へ行くか、惰性で冒険者を続けたりするんだけど。


 でも、リビオは諦めなかった。常に強くなろうと努力を続けていたし、いつか町を出て旅に出ると言い続けていた。


 そうか。魔王討伐の旅に行こうとしていたんだね。


 無理だよ、とはさすがに言えなかった。こんな子どものキラキラ輝く目を前にして、そんな酷いことは言えない。

 成長したリビオを知っているから余計に。


 私が出会った、アレ(・・)には絶対に敵わない。


 いや、リビオは強かったよ? とっても。他の追随を許さない程度には強かった。

 それでも無理だって思う。恐ろしかった記憶が、私にそう思わせているのかもしれないけどさ。


 まぁどのみち、私の巻き込まれループがどうにかならない限り、リビオは魔王討伐の旅に出かけることもできない。

 その前にいつも戻っちゃうからね。


「無理だって思ってるだろー? けど、イケると思うんだよね。別に絶対に俺の手で倒す! と思っているわけでもないし」

「? どういうこと?」

「何も少人数のパーティーで挑まなくてもいいじゃんってこと。みんなで力を合わせてさ、軍にも要請したりして? 対魔王や幹部の時だけ、被害が大きくなるから少数精鋭で挑むんだ」


 結構、ちゃんと考えてる……! も、もしかして、いつもあの提案を出していたのはリビオだったの!?


 私が十八歳前まで生きられた時は毎回、軍が魔王領に向かうような動きを見せていた。

 リビオが私に求婚するのはいつも旅に出る直前。しばらくの別れの挨拶とともに言われていたんだよね。


 だから、リビオは軍とともに魔王領へ向かう冒険者の一人として旅に出ようとしているのかと思っていたんだけど……発案の中心にいた可能性がある。

 エルファレス家の次男だし、背後にベル先生やオリドがいたとしたら? ……そうとしか思えなくなってきた!


 本気だ。これからリビオは本気で、魔王討伐を目指し続ける人生を送る。


 かつて勇者が敗れて以降、誰一人として成せなかったことに挑戦しようとしているんだ。


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