105 ちょっと意識が飛んじゃったみたい
く~~~っ! かなりギリギリだ。二秒先の未来でもよかったかも。
でも、躱せてる。ちゃんと魔王の攻撃を避けられている。全部ギリギリだけど!
いや、ある意味ギリギリで避けていたほうがベル先生の攻撃も至近距離から入りやすいからいいといえばいい。
ただ、ずっと綱渡り状態で一瞬たりとも気が抜けないって感じだ。
ぐぬぬ、弱音なんか吐かない! ちょっとしたミスで死に直結しそうだけど、全部避けられているってことはちゃんと動けているってこと。
うん、このままでいい。無理に見える未来の秒数を増やしたらそれだけコントロールも難しくなるからね。
というのも、予知の魔法は気をつけないと余計な情報までどんどん頭の中に入ってきてしまうのだ。
今は目の前で戦う魔王の動きだけを予知できればいいのに、コントロールを間違えると瓦礫が落ちる様子とか天気の変化とか、今は関係のない情報まで見えてきてしまうんだよね。
それだけならまだマシで、この場にいない人物の一秒後とかが急に頭の中に視えてしまうこともある。
だから結構、繊細な魔法なのだ。秒数が増えればその分、無駄な情報も入ってきやすいってこと!
うわ、っと。今のは危なかった! 余計なことを考えているからだ。しっかりしろ、ルージュ!
「一度、大きく距離を取ろう。僕も一緒に空へ上がるから」
「わかった! タイミングを合わせるね」
いい加減、私が限界っぽいことを察してくれたのだろう、ベル先生がそんな提案をしてくれる。
上空か。地下にいたはずだけど、気づけば空が見えるほど城が崩壊しているもんね。
老朽化していたとはいえ、あんなにも立派な城がこうも無残に崩れるとは……。この戦いの激しさがわかるというものだ。
くっ、足を引っ張ってると感じる。私がいなかったら、ベル先生はもっと魔王に攻撃を当てられていたかもしれない。
……とは思うけど、別に後ろ向きな考えをしてるわけじゃない。
私がいなかったら、ベル先生の魔力も体力も精神力ももっとゴリゴリ削られていただろうからね。そこは自信もっていい。
そもそも、私たちの目的は魔王を倒すことじゃない。
仲間がくるまでこちらに意識を引きつけておくことなんだから。ついでに少しでもダメージを与えられたらなって思うだけで。
だからこれでいいのだ。ベル先生の体力を温存させて、安全に時間稼ぎをする。
だってベル先生にはノアールと戦って、私がとどめを刺せる状態まで弱らせるという仕事が残っているんだから。
「っ、よし。距離があいっ……」
上空へ避難し、少し息がつけたと思った時。
バリンという大きな音とともに腹部に衝撃が走り、視界が一瞬真っ暗になった。
「ルージュ!!」
油断したつもりはない。いや、やっと少しだけ息がつけるって思ったのはたしかだから、そこをつかれたのかもしれない。
瞬きを繰り返し、真っ暗な視界が少しずつ戻ってくる。
今度は目の前がチカチカして、やっぱり周囲の様子はよくわからなかった。
攻撃された。
私を狙っていた。
それだけはわかった。
ベル先生の結界はたぶん粉々に砕けている。あれほどの強固な結界がこんなにも簡単に……!
落下していく。
体勢を整える余裕もない。
嘘でしょ。私、ここで死ぬの? あれだけノアールに私が殺すまで死ぬなって言っておいて、私のせいでループしてしまうのだろうか。
悔しい。悔しい。悔しい!!
意識が、遠のいて……——
◇
『オーリー、お人好しすぎない?』
『また君か、ローズ。俺のことをそんな名前で呼ぶな』
『いいじゃない! 呼びやすいんだもの。オーリーはお人好しだから許してくれるでしょ?』
『ったく、調子の良いヤツ……』
……誰? なにこれ?
顔はよく見えない。けど、男性と女性なのは話し方でなんとなくわかった。
二人とも長い髪をしていて、男性は金髪、女性は淡いピンクに輝く髪をしている。
なんというか、神々しい。間違いなく初めて見る二人だ。
『おーい、ローズ! こんなとこにいたのか!』
『まったく。僕たちずいぶん探したんだからね。あれ、君は……?』
遠くからさらに二人の男性が駆け寄ってきた。
くすんだ金髪で、シルエットがなんとなく似ている二人だ。
でも彼らはオーリーという人物のことを知らないみたい。不思議そうに首を傾げている。
『なんだ、もう見つかっちゃったの。あ、彼はオーリー。二人も名前は知ってるよね?』
『えっ、オーリーなんて知らないぞ?』
『僕も初めて聞いた』
『……オーリーって名前じゃないからな』
むすっとしながら答えるオーリーを見て、後から来た二人は不審な目をローズに向けた。
ローズはてへへと笑いながら明るく告げる。
『ごめん、ごめん。オーリーは私がつけた彼の愛称だったわ』
『なんだよ、聞いたことがないと思った!』
『それで、君の本当の名前はなんていうの?』
改めて聞かれ、オーリーは小さくため息を吐いてから口を開く。
『俺の名前は——』
◇
「魔王ギオラビオル! お前は俺たちが倒す!!」
大きな叫び声でハッと目を覚ます。
あれ、私……どうしたんだっけ。
「ルージュ! 目が覚めたか!」
「ベル、先生……? え、あっ! 私、気を失ってた!?」
「ああ、よかった。ごめん、ルージュ。僕は自分の結界を過信しすぎていた」
どうやら私は上空で魔王の攻撃を正面からくらったみたい。
衝撃で結界は割れ、頭から真っ逆さま。そこで私の意識はなくなったっぽい。
その後は魔王が私に追撃しようとしたところをベル先生が食い止めてくれたらしい。けど、落ちていく私にまで手を回せなかったとか。
魔王と一対一で戦いながら他に気なんて回せないよね。当然だ。
でも私はほぼ無傷。つまり、助けられたってことだ。
「俺の名はリビオ・エルファレス! 魔王っ!! よくも大事なルージュを攻撃したな!? 絶対に! 許さないっ!!」
リビオ……? わ、リビオだ! 魔王に向かって叫んでいたのはリビオだったのか。
気づけばたくさんの援軍が集まってる。転移してきた冒険者たちだ。
ああ、しっかり頭を回転させなきゃ。まだ戦いの最中なんだから。
変な夢を見ていたからか妙にぼーっとして……あれ。どんな夢だったっけ? 忘れちゃったな。変な夢だったことは覚えてるんだけど。
いやいや、今はそんなことどうでもいい。リビオ、すごく怒ってるんだけど!?
「リビオがルージュを受け止めてくれたんだよ」
「えっ!?」
「魔法も使えないのに上空から落下するルージュを抱きとめたんだよ。すごいよね。魔道具の装備や仲間から強化魔法をかけてもらっているとはいえ、身一つで受け止めるのは難しいのに」
「本当だよ! 下手したらリビオが大怪我するところだったじゃん!」
私は小柄なほうだけど、小さな子どもでもないのに。小さな子どもだったとしても、かなりの衝撃があったはずだ。
「さすがは僕の自慢の息子だ」
戦いの要ともいえる存在のリビオが、私のせいで危なかったかもしれないのに……本当、どこまでいってもこの家族は私を第一に考えようとするんだから困ったものだよ。
「……うん。自慢の兄だよ。ちゃんとお礼を言わなきゃ」
「そうだね。ただしばらくはゆっくり時間が取れなさそうだ」
「魔王が空気なんか読むわけないもんね」
リビオを含む冒険者たちが魔王に攻撃をし続けてくれている。
たくさんの援軍が来たけれど、まともに戦えているのは予想通り数人だけだ。
半数はどうにか後方支援ができているみたいだけど……あの威圧に耐えられる人っていうのは本当に少ない。もう半数は震えて立っていることしかできずにいる。
そもそも、魔王はまだ覚醒前のはず。それなのにかつては勇者を倒し、今もこれだけ苦戦を強いられているっていうのが恐ろしいよ。
完全復活を、なんとしても阻止しなきゃ。
もう二度と、ループなんてしない。魔王復活のための時間を与えるわけにはいかないんだから!




