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青の龍

作者: NATU

とあるところに王国があった。王国の人々は、龍の加護を受けて生きていた。

水と豊穣の国と呼ばれるこの王国は小さな島国で戦争を仕掛けられることもなく大きな災害もなかった。国民はよく働き、よく笑う、平和な国だった。

ただ、この国に生を受けた者には絶対的な2つの掟があった。1つは家の扉に金色の照り輝く矢が刺さった場合その家の中で一番若いものを王家に差し出さなければならないというもの。もう一つはある舞を覚えなければならないというもの。

この国の龍は比較的温厚だ。青い光輝く透明度の高い鱗に、黄金色の穏やかな光を宿した瞳。たてがみは黒く、角は漆を塗ったかのような艶のある黒。美しく優雅な佇まいで日頃は王城にある龍専用の広間にいる。昼は人々と対話したり、空を飛んでみたりして日々を楽しんでいる。水を操る力があるため、敵が攻めてきた時には敵の船を送り返したり、沈めたりして国防にも協力している。

国民はそんな龍を愛しているし、感謝もしている。だから龍の元に我が子を差し出すことも文句を言わないし、おとなしく差し出す。舞も義務として学舎で学ばせる。

ただ、感謝と愛情だけで子を差し出すのではなかった。国民の中には一つの噂があった。「龍に捧げられた子は、龍のつがいとして一生幸せに暮らす」というものだ。実際には眉唾の話だが。

そんな中ある1つの家に金の矢が刺さった。その家は王都の郊外の牧場付近にある家だった。そこに住むのは酪農家の父親と植物学者の母親、20歳になったばかりの兄、12歳の少女がいた。貧しくもなく裕福でもない素朴な暮らしをしていた。家族の中で一番若いのは少女、名前をツバキといった。ストレートの黒髪に、ルビーのような赤い瞳が美しい。白い肌は健康的な赤みを帯びて、笑うと少しすこし犬歯がのぞくような愛らしい子だ。

ツバキの両親は、別れを惜しみながらも迎えに来た兵士にツバキを引き渡した。ツバキもおとなしく連れていかれた。


「兵士さん、わたしはこれからどうなるの?」


少女特有の少し高めの声で馬車の窓から兵士に問いかけた。


「ツバキ様は、これから龍様と会うんだよ」


兵士は優しく微笑みながら馬上から答えた。


「龍さんは怖いの?」


こてりと首を傾げツバキが尋ねる。


「優しい龍様だよ」


「仲良くなれるかなぁ」


「すぐに仲良くなれるさ」


「えらい身なりのいい馬車じゃないか。こりゃ中身にも期待ができるぜ」


のんびりと話をしながら王城に向かっていた一行は、盗賊の襲撃にあった。護衛は8人、相手は10人。下卑た笑みを浮かべながら、盗賊は兵士を殴り倒し始めた。ツバキは馬車の中で恐怖で縮こまっていた。しばらくすると、ずんっという音と共に戦闘音が消えた。恐る恐るツバキが窓の外を見ると、窓一面が青い鱗で埋まっていた。


「ひゃっ」


ツバキは小さく悲鳴を上げながら、馬車の中で尻餅をついた。すると、外の鱗がズルズルと動き出し黄金色の目が馬車の中をのぞいてきた。瞳孔が縦に開いた爬虫類の瞳だ。


「龍様、そのように覗かれるのはツバキ様が怯えてしまいます!」


外から咎めるような兵士の声が聞こえるが、怯え切ったツバキは意識を手放し倒れた。





「………き……ツバキ……ツバキ!」


何度も名前を呼ぶ声でツバキは目を覚ました。ハッとして起き上がり、何かで頭をぶつけたが気にせず、辺りをキョロキョロと見回しす。馬車の中ではないようだった。ふと先ほどぶつけた何かを見てみると人だった。痛みに悶絶し、頭を抱えている人がいた。知らない人だがなんだか温かい雰囲気のする人だ。


「あっ、ごめんね、大丈夫?」


ツバキは自分が頭をぶつけた相手だとやっと認識し、オロオロし始めた。するとぶつけた相手はゆっくりと顔を上げた。烏の濡れ羽色の長い髪をひとまとめにし、同じ色の長いまつ毛が縁取る瞳は黄金色でやや吊り目がち。鼻筋は通り、唇は薄く、配置は完璧に近い。ただ、先ほどツバキに頭突きされた場所が赤くなっていなければ完璧だ。


「いや、このぐらいは大丈夫。さっきは怖がらせてごめんね?」


心配そうに、それでいて申し訳なさそうに眉をひそめツバキを見つめている。ツバキは目の前の青年を見つめると、龍の目と同じ目だと気がついた。


「もしかして、龍さん?」


自信なさげにツバキが呟く。


「っ、よくわかったね」


青年は、目を少し見開き驚いた様子だったが、すぐに破顔し優しくツバキの頭を撫でた。ツバキもおとなしく撫でられていた。


「龍さんなんでわたしを選んだの?食べちゃう?」


「食べたりなんてしないよ。僕はね、ある魂が転生した人の子に舞を踊ってもらわないとこの国との契約が切れてしまうんだ」


「たましい?」


ツバキはわからないようで、首を傾げている。龍は、微笑ましそうに眺めている。


「まあ、大きくなったらわかるよ。舞は踊れるかい?」


「踊れるよ!」


今度は分かったようで元気に答えた。


「じゃあ、お城の人からちゃんとしたやつを教えてもらおうね」


「うん!」


ツバキは踊るのが好きだった。練習がたくさんできるのは嬉しいようだ。そして龍の方を向き、にぱっと笑った。


「龍さん、頑張るからいつか見てね!約束だよ」


「約束だね」


龍は差し出された小さな手の小指に指を絡めて、ゆびきりげんまんをした。




ーーーーー5年後ーーーーーー


「翡翠、見てこんなに踊れるようになったんだよ!」


少女だったツバキは少女のような幼さを残しながらも、大人の女性の魅力を出す年頃になっていた。龍とは呼ぶのが嫌だったらしく、龍のことをヒスイと呼んでいた。


「これだけ踊れたら上出来だね。よく頑張ったね。何かご褒美が欲しい?」


「なんでもいいの?」


「もちろん」


「じゃあ、ヒスイのお嫁さんになりたい!」


ヒスイは飲んでいた緑茶を吹き出した。気管にも入っていたようでむせている。ツバキは慌てて駆け寄り、背中を撫でる。


「大丈夫⁈」


この2年間、アピールしてくるツバキを女性として意識しないようにしていたヒスイは、ツバキの舞用の薄い衣から見える女性らしい丸みを帯びてきた体に目が行きかけるが理性で耐える。


「いや、うん、え?ごふっ、げふっげふっ、僕は龍だよ?人の姿をとれるけど、人外だよ?」


「私はヒスイがいい。人の姿も、龍の姿も好きなの!」


ヒスイは一時の気の迷いだろうと思うが、美しいツバキから言われると動悸がおさまらない。手の甲で赤くなっているであろう頬を冷やし、ため息をつく。



しばらくしてツバキに口説かれ続け折れたヒスイはツバキと結婚することとなる。眉唾を本物にしたツバキは龍の乙女と言われるようになる。そして2人はツバキの寿命が来るまで幸せに暮らした。その後の話は別の機会にお話ししよう。

私の作品を読んでくださってありがとうございます!この作品をいいなと感じていただけたなら高評価をしていただけると嬉しいです!もし人気があったらまた続きを書きます。

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