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くそヒロインを目指しましたがなりきれませんでした。

作者: 鏡花

私はルナ・ヘーレ。ぴちぴちの13歳である。本日、親に金で売られて、馬車に乗せられた。行く先はよく知らないお貴族様のおうち。どうせ若い女を虐待したいクソ野郎なんだろう。


「こちらです」


門から敷地に入る。今まで住んでいた家に比べてあまりの大きさの違いに驚かされる。ここ家なのか!?

家に入ると柔和な男性が立っていた。


「いらっしゃい。アルテス伯爵家へようこそ。僕はこの家の主人のクロム・アルテスです」


「ルナです。よろしく、お願いします」


思っていたのとだいぶ違う男性にちょっと面食らいながら挨拶をした。


「さて、早速、君を引き取った理由なんだけどね、王太子とその周辺にいる奴らを引きずり落としてほしいんだ」


ガチで早速だし、何を言ってるんだこの人と正直思うが、一応詳細を聞こう。


「……?えっと、詳しくお願いします」


「今の王太子のレン王子がクズでね、顔だけはいいんだけど、勉強はしない、婚約者はないがしろにして女を口説く、DVする、とまあ、ダメな男の要素をコンプリートしたようなガキなんだ。で、その周りも止めるどころか、いろんな人を愛すのも王の仕事だって言うもんで、義務で婚約した女性たちが非常に苦労していてね。だから、君には彼らをたぶらかして婚約破棄をさせて廃嫡に追い込んでほしいんだ。そして、そのために必要な教育と、必要があれば少し手術をさせてもらう。君に拒否権はないけど、意見と質問は聞くよ」


とってもマシンガンで草。まあ、大体わかったけどさ。


「見返りは?」


「その条件さえ呑んで、ちゃんと満たしてくれれば服でもアクセサリーでも好きに買っていいよ。常識の範囲内ならね。王太子を落とすためにも必要だし」


「ごはんは?」


「教育が長引くようであれば別のこともあるけど、基本的に一緒に摂ってもらう。嫌だったら別にしてもらうけど。それと、部屋も余ってるところがあるからそこが君だけの部屋だよ。あとで案内させる」


「食事は一緒でいいです。あなたの相手をする必要は?」


「基本的にはない。けど、王太子を落とすのに必要だと判断された場合においては私が相手をする可能性はあると思っておいて」


「この家にほかにこどもはいます?」


「跡取りの16歳の息子のキールひとりのみ。第一王子と同級生だね」


「第一が王太子じゃないんだ」


「側妃の子でね。王太子は正妃の息子の第二王子なんだ。ただ、第一王子のほうが明白に適正があるからそちらをつけたいという貴族も多いんだ」


「でも、よく考えたら、私が王太子を落としたらあなた罰せられるんじゃない?」


「第一王子が王太子になることと、君を切り捨てることで減刑してもらうから大丈夫だよ。そういえば終わった後の話を忘れていたね、すまない。君には国外追放されて、知り合いの家に嫁入りしてもらおうと思っている。もちろん、平民として自由に生きたければそれで構わない」


「なるほど。もう質問はないです。ありがとうございます。そのままあの家にいるよりはマシで刺激のありそうな話でよかった」


「それはよかった。サリー、案内を」


「はい、ご主人様」


超速条件確認を終えると、ご主人、お父様と呼んだほうがいいか、がメイドを呼んだので、私は彼女に着いていった。


まずは汚れを落としましょう、ということで都市伝説のように思ってた家風呂に叩き込まれて洗われる。温かいお湯をふんだんに使える贅沢を噛み締めながらしばらく浸かった。


風呂を出ると服を着せられ、部屋に案内された。なかなかに部屋は広いし、可愛いし、ベッドはふかふかだし、ひとまず今日のところはこの環境を満喫して眠ることにした。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


しかし、それからの生活はわりと大変だった。


まず、今まで一切学校というものに行ったことがなかったので、初歩の初歩から叩き込まれた。それが終わると今度は姿勢などのマナー講習、元娼婦の女の人からのテクニック伝授、身を守るための剣術・護身術など、貴族って大変なんだな、と痛感させられた。


私は体を動かすことはそこそこ得意だったから剣術・護身術はわりとスムーズに身につけられたのだけど、とにかく勉強が苦手で発狂しそうになりながら、いや、この環境を手放したら地獄に逆戻りだと思い直して努力する日々だった。



今日は高校の合格発表日。ここで落ちてしまっていたら全ては水の泡だ。隣では学園に通うお義兄さまが見守ってくれている。お義兄さまは引き取られた理由を聞いた上であろうが、とても優しくしてもらっている。


どきどきしながら番号を探した。563、563、563、あ、あった!


「受かってた!」


「おめでとう」


その夜はちょっと豪勢なごはんが出た。



翌日からは入学に必要なものを揃えたり、周辺知識の強化をしている。


そういえば、元々はロリ巨乳系を目指していたようだが、どちらかと言うとキレイ系に育ってしまったので、貧乳だが、手術うんぬんもなくなった。バランスが崩れなかったので運動がしやすくて便利だ。


髪も肩くらいのミディアムである。最初お義父さまに止められたが、ロングの格式高い姿の女性との差別化ができるから、と主張したら許してもらえた。なにより、元娼婦の先生からの賛成意見が後押しをしてくれたのだと思うけど。

これだけあればヘアセットもぎりぎりできるし、涼しいし、きれいに保ちやすい。長いと毛先からすぐ傷み始めるからね。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


入学式の数日前に寮に入居した。協調性を学ぶとかで基本的には誰かと同室になるそうだ。


私のルームメイトはアリア・プラシール。子爵令嬢で、小さくてその割に出てるとこ出てて、あー、こういう感じになるのを期待されてたのかー、と思った。


話を聞いたら既に両想いの幼馴染婚約者がいるようで、私の作戦の邪魔にはならなそうで安心したけど。


「今日からよろしくね」


「よろしくお願いします」


ちなみに、彼女とはクラスも一緒なのでとりあえず仲良くなることにした。

雰囲気も貴族っぽさが強くなくて付き合いやすそうだし。本格的に落とすフェーズに入ったら巻き込まないように切るけどね。


入学式も無駄に豪勢だった。

あと、生徒会長やってる王子に対する声援がすごかった。

貴族なのにこんなにきゃーきゃー言うのはマナー違反ではないのかな?それとも、パーティーとか公的な場だと言えないから今言っているのか。


話す王子のそばに控えている中には副会長を務めている王子の婚約者のミラ・イディアールもいた。会長以外話さないから声も喋り方もわからない。しかし、シンプルだけれどお金がかかっていることがわかるドレスとアクセサリーを身につけていて、これが純正の貴族のお嬢様か、と少し圧倒された。正直すごくかっこいい。

あと、書記のお義兄さまの顔がいい。


入学式が終わると名目上は自由時間となる。ただ、午後に部活のオリエンテーションがあるから大半は食堂で昼食を取る。


ルームメイトのアリアと食堂へ行き、席に着く。


「なに食べようかな」


彼女が悩んでいるのを横目に私はさっさとボロネーゼを注文した。どうせ、3年間ここで食べるのだ。片っ端から頼んでいって気に入ったのが見つかったらそれらをローテーションすればいい。


「もう決めました?」


「うん。気になるものはまた明日以降頼めばいいかな、と思ってさ」


「そっか、それもそうですよね!じゃあ、オムライスにしよう」


アリアの婚約者とののろけとかを聞いていたら食べ物が届く。


「「いただきます」」


流石に貴族学校の昼食。生麺だし、茹で置きではなく、新しく茹でたアルデンテのパスタでおいしい。

世間話に花を咲かせていると歓声が聞こえた。どうやら生徒会が入ってきたらしい。しかも、どうやらこちらに向かってきている。お義兄さまの戦略かな?と思いながら到着を待つ。


「やあ、君がキールの妹のルナかな?」


「はい!ルナ・アルテスと申します。よろしくお願いします」


笑顔のついでに必殺上目遣いも浴びせておく。目の大きさには自信があるんだわ。


「……っ、俺は生徒会長を務めているレンだ。よろしく」


おい、王子。意外とちょろいな、お前。


「私はハルと申します。会計を務めております。よろしくお願いいたします」


「庶務のヴィンクだよー。よろしく!」


「風紀委員長のグリフだ。以後よろしく頼む」


なるほど、これが王子と取り巻き集団か。とりま全員顔はいい。


「よろしくお願いします!」


「じゃあ、挨拶が終わったなら移動しますよ。席が余ってないんですからここにいても邪魔です。ごめん、ルナ、邪魔して」


「大丈夫です。気にしなくていいですよ」


速攻回収してくれたお義兄さまありがとうございます。


生徒会が撤退するとアリアが大きく息を吐き出す。


「はぁー、こんな近くで生徒会の方々と話すことがないから疲れた」


「わかる。でも、嫌われたら厄介だから」


「猫かぶってたもんね」


「まあ、ああいうのがたぶん貴族に引き取られた女の子の理想ムーブでしょ」


「あ、引き取られたの?」


「言ってなかったか。そうそう。アルテス家って子どもがお義兄さまだけだから親戚の家からね」


「なるほどね。たしかに色は似てるけど、顔あんまり似てないもん。家族でも似てないことって全然あるけど、納得」


「でも、言いふらさないでよ?」


「大丈夫。言いふらして楽しむような下劣な趣味持ってる子とは友達にならないから」


「私は結構性格悪いけどね」


「自覚してる人は意外と優しいもんだよ。自覚なかったり、毒舌、とかいう言葉でごまかしてる人のほうが性格ねじ曲がってることが多いもん」


「それは、私が言うのもあれだけど、わかる」


「でしょ笑。ところで、ルナは部活はどこに入る予定?」


「テニスかな?適度に運動できる部活に入りたくて」


王子もチャラ男もいるし。


「運動得意なの?」


「こう見えて、得意なんだよ?なんならお義兄さまより走るの速いくらいだから」


the文系のお義兄さまが遅いっていうのが本当は正しいのだが。


「それはびっくり」


「アリアは?」


「私はヴィーくんがいるテニス部でマネージャーをやるか、料理部に入るか悩んでるんだよね」


「今日のオリエンテーションと仮入部で決める感じか。テニス部はどうせ行く予定だからいいとして、料理部もなんなら付き合うよ」


「いいの?」


「うん。だって、数日くらいずれたところでどうってことないし。ところで、生徒会がいなくなったあたりからアリアも敬語が消失してたの気づいてる?」


「あ……」


「気をつけて。婚約者もいるし、大丈夫とは思うけど、蹴落とし合いもあるらしいから」


「ありがとう」



オリテはもう、とにかく部活内一番のイケメンを押し出して入れようとする運動部と真剣に活動内容を語っている文化部の対比も面白かった。


「どうだった?」


「テニス部は活動内容がよくわからなかった……」


「イケメン並べておけばいいだろうって感じだったからね。だったら今日のところはテニスに行ってみる」


「そうしようかな」


「了解。じゃ、猫かぶるから笑わないでね」


テニス用の格好に着替えてテニスコートへ行く。


「今日の仮入部は20名か、意外と少ないな。それと、この中でマネージャー志望の人は左に移動してください」


女性は私とひとりを除いて全員左に移動した。女性はロングの袖にロングスカートだから動きやすくはないし、競技者は少ないだろうとは思っていた。私はお義父さまに頼んで運動用の通気の良いドレスを作ってもらったからいくらかましだけど。


でも、マネージャーなんかやってなにが楽しいんだろ?ひたすら物を運んだり、渡したり、地味な作業ばかりやらされるのに日焼けリスクがあるから最悪じゃない?だったら料理部とか入った方が楽しそうだと思うんだけどな。マネージャーやるタイプの子とは気が合わない人生生きてきたから全くわからない。


「OK。マネージャー志望は向こうで、選手志望はこっちで練習だ」


今日のところは先輩が打つ球を打ち返す練習をしている。仮入部員はローテーションで回り、いろんな人の指導を受けるシステムだ。ということでもちろん王子やチャラ男に教えてもらうこともあるのでその時にはあざとめにお礼を伝えておいた。


しっかし、男子下手だな。逆に言えば、この格好だとしても運動しようとしている時点で私たちの方が上手くて当然と言えば当然なんだけど、優雅なスポーツゆえにダサさが際立ってて草。



活動が終わると着替え、アリアと合流する。


「どうだった?」


「私が、私がって感じの主張が強い人が多くて……苦手かも」


たしかに、サポートするというより特定のイケメンにだけすり寄って気が効く私、みたいなのを演出してるタイプの子が多いっぽかったもんな。アリアはシンプルに料理部で作ったお菓子を差し入れする方が向いてそうだと私も思う。


「だったら、明日の料理部はいいといいね」


「うん」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


この学校は入学式翌日から早速授業があるようだった。とはいえ、初日なので先生の紹介も多くてあまり大変はなかったけど。


「終わったー。よし、料理部行こっか」


「うん!」



料理部はただの見たイメージでしかないけれど、おっとりした人が多そうだった。


「今日はクッキーを作ります。部員は各テーブルに分かれてサポートをしてくださいね」


配られたレシピに従って分量を量るとまずバターを練る。まだあまり溶けていないバターは硬くて、どおりでお菓子作りが好きなのは女性でも職業にするのは男性の方が多いわけだ、と妙に納得する。


「ルナさん、力がありますのね」


料理部の先輩に少し驚いたように言われた。


「はい。実は腕力には少々自信がございまして」


「そういうかたは運動系の部活動に入られる方が多いのに珍しい」


「私は友人の付き添いとして来ましたので。入る部活動は決めております」


「そうなんですのね。それは少し残念ですわ」


「必要があればお手伝いいたします」


「それは、ありがとうございます」


粉類を振るって、混ぜて、その間に予熱して、型を抜いて、焼く、と。いや、簡単な方なんだろうけど結構めんどくさい。私は絶対に向いてないわ。


焼きあがるまでは雑談タイムになる。せっかくなので王子たちの情報を得る。


「この学校の生徒会の方々って、どんな方なんですか?」


「あら、気になるんですの?まあ、かっこいいですもんね。でも、あんまり近づくことはおすすめしませんわ」


「婚約者さまがいらっしゃいますもんね」


「それもそうなのですけど、ここだけの話、実は、女性に対してあまり紳士的でないという噂もあるんですわ。なので、そういう意味でも近付かれないほうがよろしいかと思われますわ」


「そうなのですね。では、どのような方が好みかご存知ですか?」


「おそらく、ミラ様のようには完璧でない方を好んでいらっしゃると思いますわ。息苦しいなどと話されているのを聞いた、という方が複数名いらっしゃるので」


まあ、やっぱりそんなところか。あまりに想像通りでちょっと拍子抜けしたわ。


「近づくのは気をつけて、と言いたいところなのですけど、キール様の妹さまですものね、巻き込まれることのないよう祈っておりますわ」


「ありがとうございます」


うん、とりあえず、この先輩はいい人だし、この部活ならアリアも馴染めるんじゃないかな。


「あ、そろそろ焼き上がりますから、紅茶を淹れましょう」


そのあとも世間話をしながらおいしい紅茶とクッキーに舌鼓を打った。こういう気取ってない気軽なティーパーティーも楽しいな。


「「ありがとうございました!」」


先輩方にお礼を言い、調理室を出る。


「どうだった?」


「楽しかった!私入りたい!」


「よかった。そうでなかったら一から見学に付き合う羽目になってた」


「ひどい言い方するじゃん!」


「ごめんごめん」


話しながら、つい仲良くしちゃってるけど、今後のことを考えたら仲良くなるべきじゃないんだよなー、と思った。


翌日からはそれぞれの部活動へ行く。

私はとりあえず王子とチャラ男と先輩・後輩関係を築くことにする。


例えば、王子は

「レン先輩、うまく打ち返せないんですが、どこがダメだと思います?」

と言って、お手本をさせてから、わからないです、って言うと後ろから手を握ってやってくれる。

その時にふわっと香るようにフルーツ系の香水を首の後ろに振ってある。ローズ系を使っている人は多いけど、さわやか系はあんまりいないから。離れる時にちょっと名残惜しそうだからある程度の効果はありそう。


ただ、チャラ男がチャラ男のくせにガードが固い。教えてもらおうとすると触らずにできる範囲で教えて、それ以上は女の先輩を連れてくる。まあ、気軽に女性連れてこれる時点でノリはゆるいんだけど。



そんな感じで部内の先輩と距離を縮めようとしていた夜、怪訝な顔をしたアリアに話したいことがあると言われた。


「あのね、実はヴィーくんにしつこくアプローチしてくる人がいるらしくて」


「大変じゃん!どんな人なの?」


「それが……ルナだって言うの。だから、なんで、そんなことになってるのか聞きたくて。もしかして、私のこと嫌いだった?」


アリアが目に大量の涙を溜めてこっちを見ている。


「え?!いや、とりあえず、アリアのことは友達として本当に好きっていうのは言っとく。……えっ、と、もしかしてなんか行き違いがありそうな気がしなくもないから、ヴィーくんとかいう人のフルネーム教えてもらってもいい」


「言ってなかった?ヴィンクって言うんだけど……」


「あ、ごめん……それ、まじで私だわ」


なるほど、どおりで一切私に靡かないわけだわ。いや、アリアの話とあのチャラ男が頭の中で結びつかなかった。


「なんで?!」


「ちょっと、えっと、絶対に外に漏らせない諸事情があるんだよね」


あー、でも、なんならバラしといたほうが楽なのか?今後もずっとルームメイトなんだし。


「そうだね……、そのヴィンク様とやらにも詳しくは話さない、他の人に一切言わないんだったら説明するよ」


「内容によってはヴィーくんには言うかもしれないけど、他には一切漏らさない、約束する」


「OK。私が引き取られた子っていうのは話したよね」


「うん」


「その条件がね、皇太子とその周辺人物を廃嫡に追い込むことなんだ」


「へ?!」


「意味わからないかもしれないけど、そうなんだ。理由は人間性に問題があるから。この間料理部に行った時に先輩が王子に悪い噂があるって言ってたでしょ?」


「あ、言ってた」


「あれね、本当なんだよ。女をたぶらかしては暴力を振るったりしてる。だから、見目麗しい少女を引き取って彼らを逆にたぶらかして、廃嫡に追い込めるようにするっていう作戦が水面下で進行してて、それに選ばれたのが私なの。でも、取り巻き全員が悪だと思ってたし、なんなら一番チャラいヴィンク様が関係ないなんて思ってなかったから。知らなかったとはいえ、ごめん。でも、彼は顔がいい女に誘われてもしっかり断れるいい男だと思う。保証する」


「……そんな事情があったんだ。ごめん、処理しきれてないけど、もうヴィーくんを狙うことはない、という認識でいい?」


「もちろん。善良な人をターゲットにする必要ないもん。お幸せに」


「よかった……。これでルナと仲悪くなったらどうしようかって……。ヴィーくんにはルナが私にふさわしい人間か勝手に試してたらしいって伝えとく」


「ごめんね。ありがとう。そうしてくれると嬉しい」


「でも、じゃあ、私にできる範囲のネットワークで王子らへんの情報を調べとくね。ヴィーくんからもある程度聞けそうだし」


「怪しまれない程度に、ていうか、だから、私はめちゃ嫌われる行動をしてるからやばいと思ったらちゃんと切り捨ててよ?」


「わかった」


さてと、チャラ男は攻略しなくていいらしいから、宰相の息子にも手をかけ始めるか。まあ、真面目野郎だから図書館に通い詰めればいるだろ。


アリアにも話して、ごはんは短めに済ませ、図書館に通う日々が続いた。


意外と来ねーな、と思った5日目、来た。

偶然を装って話しかけ、おすすめの本を聞く。

てっきり硬い本を薦められるかと思いきや、薦められたのは冒険小説だった。一時期流行っていたが、そういえば読んだことがなかったので、そのまま借りた。


そのことをアリアに報告すると、読んだら自分にも感想を共有してほしいと言われた。そうして日々頑張って読み、アリアと感想を共有することで宰相Jrに伝える感想をよりよいものにできた。やっぱ、持つべきものは友達だわ。


おすすめの本教えてもらい、読んで感想を伝え、また次の本を教えてもらう、というのを何度か繰り返したところで距離を詰めにかかることにした。


今までは正面から話しかけていたのを座っている彼の後ろから抱きつくようにして話しかける。見た目からはわからない胸もあてると大抵顔を真っ赤にして動揺する。

だから、ついでに、恥ずかしいんですかー?とからかっておく。こういうタイプはプライドが高い分、ムキになって、さらに自覚が強まるから。


正直そんな気はしていたけど、一番簡単に落とせそうだ。好意を見せてくるのに思い通りにならない歯痒さにせいぜい苦しんでもらおう。


一方、王子のほうはちまちまと好感度を稼いでいる段階だ。ただ、もうすぐ一学期の期末テストだから、勉強教えてください、ってお願いしてみようかな?アリアにも頼んでチャラ男にも話を通してもらえればよりスムーズに開催できそう。まあ、馬鹿らしいけど、さすがに一年の頭の範囲くらいはそこそこできるでしょ。



そして、部活停止期間に勉強会は開催された。副会長のミラさんもついて来てしまったが。


心の中でミラさんに謝りながら、彼女が見えないかのように王子に多めに質問をする。宰相Jrは教えたそうにこっちを見ているが、気づいていないふりをしておく。


ただ、さすが馬鹿王子、一年生の範囲も怪しいようで、だいぶミラさんからの指摘が入っていた。そのたびに、そうだったんですね、難しいですね、と難しかったから間違えても仕方ないという助け舟を出しておく。これはミラさんとの仲を悪くし、私との仲を縮めるいい機会にできた気がした。


それに、テスト結果はよかったので、次会った時に全力でお礼を言っておいた。正しくはミラさんのおかげなんだけれども。


夏休みはお義兄さまに生徒会の旅行先に一緒に連れて行ってもらった。完全に使用人によって焼かれたバーベキューは醍醐味が盛大に失われていたけど、おいしかった。

そして、お風呂に入った後は髪の毛をゆるくまとめ、シンプルなドレス+動物模様の羽織りもので可愛さをアピールしておく。ここであからさまな透け感は下品な感じになってしまうのでやめておいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


夏休みが明けたら、宰相Jrはそこそこ攻略できたので、一旦距離を置いて考えてもらう期間にして、騎士団長Jrの攻略をしようと思う。こいつには剣術を教えてもらいに行こうと思う。毎年1回全校大会があるし、純粋に強くなりたいからね。


「グリフ先輩、よろしくお願いします!」


脳筋野郎だからやりすぎな部分もありつつも、訓練自体はいい感じに進んで技術も上がって来た。これなら大会でもなかなかいいところに行けそうだ。


で、勝った時には抱きつき攻撃だな。香りも触感も伝わるから、結局、ハグって強いんだわ。


それを実践したところ、そんなことを乙女がしてはダメ、と言いながらまんざらではない顔をしていたので、容赦なくやっておいた。


ちなみに、大会の結果は準々決勝敗退である。一年生にしてはいい成績なのではないだろうか。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


剣術大会が終わるとすぐに文化祭がある。この学園は料理できる人が少ないこともあり、たいていのクラスが劇をやるそうだ。基本的に演目は上から取っていくから一年生はいいものが必ずしもやれるわけではないようだけど。


うちのクラスも例に漏れず、劇をやる。配役はいいお家の子たちが中心的なきらきらした役をやるので、だったらと継母役を志望してみたら通った。正直そっちの方が楽しそうだったしラッキー。アリアにも手伝ってもらって完璧に頭に叩き込み、挑んだ。


衣装も相まって最高に嫌でちょっとかっこいい、という感想を聞いた時はちょっと嬉しかった。


上演は1日2回、その間は暇なのでせっせと攻略対象どもの教室に通う。それぞれのかっこよかったところについて感想を言わなきゃいけないからね。ただ、この女王スタイルはめちゃくちゃ目立つのがどうにもならなくてもう開き直って宣伝するくらいの勢いで歩き回ることにした。


そして、文化祭最終日。最終日は終わった後に後夜祭という名のダンスパーティーがある。

基本的には婚約者、いなければ異性の親族にエスコートしてもらう決まりである。

私はお義兄さまにエスコートしてもらう。彼の婚約者は既に卒業していて、この学校にはいないからだ。アリアも婚約者と一緒に参加するので、一緒に行くことにした。


私は単に私が好きな薄紫のドレスで、アリアはピンクのドレスに婚約者様の目の色と同じサファイアらしきアクセサリーを身につけている。やっぱり、この子みたいなのが理想系だったんだろうな、と思ってしまった笑。


会場に入ると豪華絢爛な飾り付けに、おいしそうな料理が並んでいる。

うわー、食べたい……!


「乾杯の音頭があってからだからな?」


お義兄さまに釘を刺された。


「わかってますよ」


「ほんとに?今すぐにでも食べたいって顔をしていたけど」


「それは、食べたいです」


「ほら。だから、念のため」


「さすがに動物じゃないんですから、そんなことしませんて」


「わかった」


飲み物を取り、スタートを待つ。みんなそれぞれに着飾っていて華やかで見ているだけでも結構楽しい。


「生徒会として一応行かなきゃダメみたいだから前に行ってくる。強いから大丈夫だとは思うけど気をつけて」


「わかりました」


「ごめん、俺も行ってくるね。アリアのことお願いしてもいいかな?」


どうやら、アリアがちゃんとヴィンクさんに言っておいてくれたのか、疑惑は無事解けてるようで安心した。


「はい。任せてください」


王子様の乾杯のコールがあり、会がスタートした。


「ただいま。食べ物を取りに行こうか」


「うん!」


みっともなくならないように盛り方に配慮しながら欲しいものをたっぷり取ってきた。


「あ、このお肉おいしい」


「ほんと?私も後で取ってこようかな」


アリアと時々お義兄様とヴィンクさんで雑談をしていると王子がミラさんと一緒に歩いてきた。今日のミラさんのドレスは濃い青色のドレスでエキゾチックでめちゃくちゃ素敵だった。


「やあ、ルナ。それにキールとヴィンクはさっきぶりだね。えっと、君は誰だっけ?」


「俺の最愛の婚約者、アリアだよ」


アリアが話そうしているのを遮るようにヴィンクさんが紹介した。本当にこいつちゃんとアリアのこと好きなんだな、と実感する。


「アリアさんか、よろしく」


「よろしくお願いいたします」


「ところで、ルナ、会は楽しんでいるかい?」


「はい、レンさん!おいしいものが多いですし、楽しいです!」


「それはよかった。それとあとでよかったら一緒に踊ってくれるかな?」


「もちろん!よろこんで務めさせてもらいます」


「約束だよ。では、みんなゆっくり楽しんで行ってくれ」


ミラさんを連れてるのに一切無視して私に話しかけてくるのは作戦成功なのだけど、少し心が痛む。


他の攻略対象2人も代わりばんこに現れて私に話しかけ、ダンスの約束をして消えていった。


「うまくいってるようだね」


「うん、まあ、婚約者さんに対しては心が痛まなくはないけどね」


「婚約破棄できないのが彼女らにとっては最悪なんだから仕方ないよ」


「そうだよね」



「あのー、ちょっといい?」


「なに?」


「ちょーっとばかりルナちゃんのキャラが掴めてないんだけど、どゆこと?」


あー、そうだよな。近くで見てたらそう思うのも無理もない。


「単にお偉方用の猫をかぶっているだけなので、この若干テンションが低いほうが本当の私だと思ってください」


「あ、りょーかい。でも、俺はお偉方には入らないってこと?」


理解が早いな、おい。


「いえ、アリアの婚約者なので、取り繕ったところで時間の問題だと思っただけで、むしろ、人間的にはこの話し方の相手のほうが尊敬しているので安心してください」


「それって、慇懃無礼というやつなのでは」


「限りなく正しいですね!でも、向こうもそれで気持ちよくやれているからいいのでは?」


「まあ、そっか!とりあえず、アリアの親友に嫌われてなかったってだけでおっけーだし」


「そうですよ。さてと、食べ終わったので腹ごなしがてら、ダンスに付き合ってください、お義兄さま」


「あのね、僕は君みたいにパワフルじゃないの、もうちょっとだけ休ませて」


「じゃあ、バルコニーで気分転換はどうです?」


「それなら付き合うよ」


「あ、そうそう、キールくんもキャラがちょっと緩くなってて家族に対してはそんな感じなんだな、って思った。なんか、方向性は違うけど外面は良くしてて、内面は辛辣気味な感じがちょっと似てる気がする」


「それは光栄です。ありがとうございます!」


異性として好みかは置いておいてお義兄さまのことは好きだしね。



バルコニーに出ると学園が一望できる。と言っても所詮学校だから校舎とグラウンド、強いて言えば道の横に植えられた木や花くらいしか見えないけど。


「気持ちのいい夜ですね」


「そうだね。気温も湿度もちょうどいいし」


「あー、このまま飛び降りて走り回りたい」


「やめときなさい」


「ダンスはそれなりに特訓したけどあまり得意じゃないんですもん。王子の足踏んだらどうしよう」


「わざとじゃなきゃ許されるよ。ダンスって運動神経がそこまで関係ないんだってルナを見て初めて知った」


「うまく走ったり戦えても、動きにくい格好で決められたスペースでテンポに合わせて踊るのは別な能力が必要なんですよ」


「そっか」


ダンスホールに戻るとアリアとヴィンクさんが既に踊っていた。私たちも参加していく。


さすがにお義兄さまは休みの時に練習に付き合ってくれただけあって、足を踏むことなく踊り終われた。


壁側に戻り、アリアたちと合流するとすぐに王子が現れた。


「次は俺と踊ってくれるかな?」


「はい!」


王子は王族教育とかでみっちり鍛えられているのか、エスコートがうまい。やるな、こいつ。


「なあ、ルナ」


「なんですか?」


「ルナ、って、俺のこと好きなんだよな?」


「はい!」


「それで、よかったら、恋人にならないか?」


きたー!もしかしたら好みの女全てに言ってるのかもしれないけど、とりあえず第一関門クリア!


「え、でも、ミラさんは?」


「あー、あいつの家権力あるし、側室としてだと、だめ、かな?」


ダメに決まっとるわ、この唐変木。国を守るために政略結婚は必要なんだ、でも、愛してるのは君なんだ、とか言ってくるのでも微妙なのに。

そもそも、てめー絶対ミラさんに話通してないでしょ。通してたらこっちが面倒なことになるけどさ。


「ごめんなさい。私を一番にしてくれる人とお付き合いはしたいので」


「わかった、なんとかする!お前を引き取ってくれる家を探すから!」


「だったら、喜んで!」


よし、これで1人目完了。


るんるんの王子に少し振り回されながら踊り終わると、宰相Jrが現れた。


「次は私が」


ほぼ同じやりとりを再放送。


さらに騎士団長Jrも同じだった。

ただ、こいつの場合は地位は高くないから、破棄しさえすれば地位的には全然結婚できるし、気持ち話は早かったが。


ところで、お前ら思考回路同じすぎか?


そして、卒業式の日、王子は衆人環視の中、ミラさんへ婚約破棄を突きつけた。


「お前のように常に俺のことを見下して、口うるさくいう反抗的で傲慢な婚約者などいらん!俺はルナを妃とする!既に彼女を引き取ってくれるという貴族は見つけたからな!」


誇らしげに宣言するバカ王子。


「私もです。いつも何を考えているかわからない不気味な婚約者など私にはいりません。ルナこそが私の最愛の女性です。一番の座は王子に譲るからその次の立場は私がいただきます」


同じく宰相Jr。その不気味なところが宰相Jrが苦手とする計算とかを支える要素だったのだと思うけど、私から言うことじゃないからね。


「俺も、破棄させてもらう。剣の道を極めようとする私の練習の邪魔ばかりをするわがままな女など私には不必要だ。ただ、ハル。どちらが上位かはまた後日決めさせてもらうぞ」


ちなみに、この人の婚約者は留年しないように勉強して、とか、練習のし過ぎは体に毒だよ、とかまともなこと言ってたらしい。


「レン様、それに、ハル様にグリフ様、皆さま正気ですの?」


ミラさんは怪訝そうな表情を浮かべている。そういや、こいつらの正式な名前ってそんなだったな。ミラさんありがとう。


「もちろん。俺のことを積極的に頼ってくれて、やることの邪魔をすることもないし、表情豊かで可愛いルナのほうがよっぽど俺にふさわしいだろ!」


「同じく。こんなに正面から向けられる好意が嬉しいとは思っていませんでした」


「剣術の話にもちゃんと付いてきてくれるしな」


「なるほど。でしたら、もう良いです。この書類にサインをしてください」


ミラさんは事前に用意していたらしい紙を出す。3人は内容をよく読みもせず、サインをした。

ちゃんと書類は読むのが騙されないための秘訣だろ。てか、もしかして、こいつら生徒会の仕事、ミラさんに押し付けたりしてたりするか?


「はい。これで晴れてあなたは自由の身ですわ。ルナさんと結婚するなりなんなり、好きになさいませ。ただ、ルナさん、少しよろしいかしら?」


「はい」


さあ、断罪される時間が参りました。

ミラさんの行く先に素直に着いていく。


「単刀直入にお聞きしたいのですが、あなた、あの王子たちが本当に好きなのですか?」


「はい」


「本当に?」


「はい」


「ここには私たち以外いませんし、本音を言っていただいても大丈夫ですわよ?」


「……いいえ、全く」


「やっぱりそうなんですのね」


ミラさんはあっけらかんとしていた。


「なぜ、そう思われたんですか?」


「単純な理由ですわ。アリアさんとヴィンク様の存在です」


あー、やっぱりそこか……。悪女が仲良くする相手にしては善良すぎるもんなー。


顔に出ていたのか、ミラさんは頷いて続けた。


「あなたも知っている通り、ヴィンク様は見た目に反して真面目な方です。そんな彼が大事な婚約者をなぜ玉の輿を狙っているような女と仲良くさせているのか、なんなら後夜祭では歓談までしていらしたわよね。そこに違和感を持ちました。王子たちとの会話は極力逃げているような方ですから。

ということは、彼にとって、あなたは会話をするに値する方ということになりますわ。すると、あなたがとんでもない泥棒女で一周回って清々しいから面白がって仲良くしているか、泥棒女が嘘の姿で本当に友人として仲良くしているかの2択になります。

でも、前者は婚約者がいないならばともかく、いる身では悪影響を受ける可能性、トラブルに巻き込まれる可能性という不安につきまとわれるはずですわ。よっぽど呑気な方でなければ。ということは後者の可能性のほうが高いと思いました。そこで、今カマをかけてみましたの」


「なるほど。まあ、仲良くしたいと言ってくれる子を無碍にできないのと、寮の部屋でまでキャラを維持できなかった結果です」


「よろしければ、なぜ、王子たちを口説こうと言うことになったのか、お聞きしても?」


ミラ様の目が好奇心できらきらしている。初めて彼女の年頃の少女らしいところを見た気がした。


「単に、第一王子を王座に就けようとしている家が王太子をなんとか失脚させるために顔のいい少女を引き取ろうと考えて、それが私だったんです」


「あ、なるほど、最初は平民出身だから玉の輿に憧れたのかと思っていたのですけど、違和感をおぼえてからどうしてなのか、ずっと気になっていましたの。まさかの何ヶ年計画だったとは思いませんでしたわ。でも、そうすると今後はどうされるご予定で?」


「国外追放されて、お義父さまのお知り合いの家に嫁入りする予定でした」


「学生生活に未練はありませんの?」


「まあ、ありますけど、問題を起こしてしまっているので」


「でしたら、そのまま在籍してください。せっかく苦労して入ったのでしょう?おとなには未来の皇后の私が今までの浮気の証拠と共にたぶらかされるような男が悪い、とお伝えしておきますわ」


「皇后?失礼ながら、婚約破棄されたのですよね?」


「はい。ですが、実は『私と婚約している男性』が王になるという条件なのです。私の実家と王族を繋ぐための結婚を拒否した時点で、あの方は王になる資格を失ったのですわ。第一王子様は未だ婚約者もいらっしゃらないようなので、同時に婚約書類をお送りいたしました」


「え、レンさん知らなかったんですか?」


「いつも勉強も不真面目ですし、おそらく聞いていなかったか、脳内で改竄していたのでしょうね」


「ありそうな話ですね……」


「では、お話ししたいことは終わりましたので、特にないのであれば戻りましょう」


ドアを開くとそこにはアリアとヴィンクさん、お義兄さまが立っていた。


「あの、失礼ながら、ミラ様。ルナはそんなことをする子ではなくて、事情が……」


格上の相手に対して意見するなんて罰せられる可能性もあるのに自分のために立ち向かってくれたことに感動した。大事にしてないつもりはないけど、今後いっそう大事にしよう。


「心配しないで大丈夫ですわ。あの場では聞きづらかったので移動しただけで、ルナさんに罰を与えるつもりはありません。それくらい見抜けなくて王妃にはなれませんから」


ミラさんは慈愛に満ちた目でアリアを見つめている。ああ、これが王と共に国を支える女性なのか、と、そもそもなる気はなかったけれど自分にはできないと感じた。


「あ、忘れておりました。ルナさん、よろしければ、卒業後は私の元で働きません?養子とはいえいい家柄出身で、腕も立つ女性が欲しいのです」


「そんなに良くしていただいても良いのですか?」


「青田買いです。あなたはスカウトする価値があると思ったからであって、ただの女性ならそんなことはしません」


「ありがとうございます!期待に応えられるよう頑張ります」


「はい。この学校でしっかり学べることは学び、人脈も作っていってください。もし、2年後つまらない人間に成り下がっていたらこのお話はなかったことにさせていただきますから」


本当にミラさんが話を通してくれていたようで、王子たちは元々の目論見どおり廃嫡されて一般人になったので、学園を去っていったが、私は申し訳程度の謹慎処分で済んだ。


最初はやっぱり風当たりが強かったが、昔の生活に比べたら大したことではなかったし、堂々と自分らしく過ごすうちに徐々に受け入れられるようになった。強いて言えば、私はその辺の男に熱をあげるより可愛い女性と話すほうが好きなため、女性にモテるようになってしまったのが誤算である。


今は、卒業すると本当に雇ってくれたミラ様の侍女兼護衛として働いている。彼氏はいない。私より強くてかっこいい男がいないから。


他の人はといえば、ミラ様は無事第一王子と結婚、子どもを2人もうけた。ただし、産んだ翌日にはベッドの上で仕事をしていた。どんだけ強靭なんだと思う。


お義兄さまは文官として宮廷で働いていて、アリアは卒業して数年するとヴィンクさんと結婚して幸せな日常を過ごしているようで、時々会うたびに相変わらずのろけてくるのでちょっとめんどくさいけど可愛い友人を持ったなー、と思う。

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