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ふんわりした雰囲気の女の子って、可愛いと思ったんだ

 都内某所の賃貸マンションのリビングにて。


 会社員の佐藤ヒロシは、今日も頭を抱えていた。


「あのさ……、もう無理して女の子を紹介してくれなくてもいいから」


 疲れ切った顔の先では、友人の山本アツシが真剣な表情を浮かべていた。


「無理なんてしてないよ! 今日だって、『ふんわりした雰囲気の女の子って、可愛いよな』っていう、ヒロシの曖昧な希望にぴったりな子がいたからつれてきたんだから!」


「いや、まあ、たしかに、そんなことを言った記憶はあるけど……」


「でしょ! 見てよ、このふんわり加減!」


「ふんわりっていうか……」


 ヒロシはアツシの隣に、ゆっくりと顔を向けた。


 オシャレな色合いの植木鉢。


 緑色の新鮮な葉。


 茎に実る、ふっかふかな羊。



 そこにいたのは、まぎれもなく――




「……どう見ても、プランタ・タルタリカ・バロメッツ、だよな?」


「めぇぇー」




 ――そう、スキタイの羊こと、バロメッツだった。



「すごい! わりとマイナーなモンスターなのに、正式名称がすぐ出てきたね!」


「うるさい! っていうか、お前は毎回毎回ファンタジー生物つれてきて、本当なんなの!? パーティーをクビになった召喚士かなんかなの!?」


「もう、ヒロシってば、ひどいなー。小さいとはいえ人材派遣会社の社長に向かって、クビになったなんて」


「召喚士ってとこは否定なしなのかよ!?」


「まあまあ、細かいことはおいといて……、どう? この子、可愛いでしょ?」


「たしかに、今までの中だと一番マスコット的な可愛さがあるけど、プランタ・タルタリカ・バロメッツだぞ!?」


「よかったね、タルたん! ヒロシが正式名称で褒めてくれたよ!」


「めぇ! めぇぇぇ!」


「本当に、言葉の一部を抜き取るのやめてくれない!? っていうか、今度は故郷を失った異星人みたいな名前なのかよ!?」


「うん。実際のところ、昨今は環境の変化が著しくて、生息できる場所が少なくなってきて困ってるんだって」


「めぇ……」 


「それは、気の毒だな……」


「だから、ちょっとのあいだでもいいから、宿を貸して欲しいんだって!」


「めぇ!」


「……なんかもう、恋人とかそういう建前すらなくなってるよね!?」


 盛大にツッコミを入れると、ヒロシは今日も大げさなため息を吐いた。


「ともかく、もう、恋人云々はおいといて……、植物なのか動物なのかよくわからない方は、お引き取りください。仕事も忙しいから、ちゃんと世話できるか不安だし……」


「めぇ! めぇぇぇぇ!」


「なになに。えーとね、『こう見えて、鉢を動かしてたりして移動とかできるから、そのへんのことはわりと大丈夫かも』だって」


「ずいぶん、ふんわりした言いぐさだな……」


「うん! なんたって、バロメッツだからね! ふんわり具合はバツグンだよ!」


「やかましい!」


「めぇ、めぇめぇ」


「ふんふん。『宿を貸してくれるなら、日々の労働の疲れを、特技で癒やしてあげられなくもないかも』って言ってるよ?」


「……このあいだみたいに、なんかの押し売りをするつもりじゃないだろうな? 布団のクリーニングとか」


「めぇぇえ!」


「違うって」


「じゃあ、なんなんだよ?」


 ヒロシが問いかけると、アツシとバロメッツは得意げな表情を浮かべた。



 そして――




「なんと、ヤギの鳴きまねができます!」


「めぇぇえぇ!」




 ――なんとも、微妙な特技を言い放った。



「……じゃあ、ちょっとやってみろ」


「うん、タルたん、お願い!」


「めぇぇぇぇぇぇ」


「えーと、ね、こっちが羊で……」


「めぇぇぇ」


「……こっちが、ヤギだって!」


「もう……、本当、帰ってくれ……」


 かくして、リビングにはヘナヘナとうなだれたヒロシの、力ない呟きが響いたのだった。

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