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草食系って、そういうことじゃないと思うんだ……

 都会の片隅に建つ、マンションのリビングにて。


 会社員の佐藤ヒロシは、またしても深いため息を吐いていた。


「……たしかに、先週、紹介された子とのお付き合いは断ったな」


 脱力した顔の先では、友人の山本アツシがにこやかな表情を浮かべている。


「うん。ほら、あの子肉食系だったから、ヒロシの好みとは違ったのかなって思って」


「まあ、あんまり積極的過ぎる子よりは、おとなしめな子のほうが好みだけど……」


「でしょ? だから、草食系の彼女を連れてきたんだよ」


「いや、草食系っていうか……」


 ヒロシはアツシの隣に視線を向けた。


 うれいを帯びたまつげの長い目。


 艶のある純白のたてがみ。


 光り輝く長い角。



 そこにいたのは、まぎれもなく――




「……どう見ても、ユニコーンだよね?」


「ヒヒン」




 ――そう、ユニコーンだった。



「うん! ほら、ヒロシって恋人いない歴=年齢でしょ! だから、ちょうどいいと思って!」


「誰が歴=年齢だ!? 別に付き合ってた子くらいいたわ!」


「え? そうだったの?」


 ヒロシが激昂すると、アツシはキョトンとした表情で首をかしげた。


「でも、彼女、『清らかな空気をまとった素敵な方とお見受けいたします』って言ってたよ」


「ヒヒン……」


「まあ、そりゃ、小学校のときだったから、あれだけど……、っていうか、なんでこりずにファンタジーな生物つれてきてるんだよ!?」


「えー、でも、ちゃんと女の子だし、上品な美しさがあると思わない?」


「美しさはあると思うけど、ユニコーンだぞ!?」


「よかったね、ゆに子! ヒロシが美しいって!」


「ヒヒィン!」


「だから、発言の一部を抜き取るな! あと、そんなベレー帽被ったマンガの神様が描いた作品にいそうな名前だったのかよ!?」


「うん! しかも、この子も可憐な見た目に反して、過酷な日々で身体が鍛えられてるから……、上がり三ハロンのタイムは、なんと、三十三秒台だよ!」


「驚異的な末脚だな!?」


「よかったね、ゆに子! 七冠馬間違いなしだって!」


「ヒヒン……」


「そこまで言ってね……いや、まあ、目指せるくらいのタイムかもしれないけど……、ともかく、ゆに子も照れんな!」


 全身全霊でツッコミを入れると、ヒロシはまたしても大げさなため息を吐いた。


「まあ、今日も言いたいことはまだたくさんあるけど……、どう考えてもユニコーンは恋人枠じゃないだろ……」


「ヒヒィン……、ブルルルッ……」


「ふむふむ。えーとね、ヒロシのことをすごく気に入ったから、恋人としてじゃなくても、側で役に立ちたいって」


「役に立ちたいって……、通勤のときに背中に乗せてくれるのか?」


「ブルルルルッ! ヒヒィン」


「うんうん。えーとね、さすがに現代社会で、ユニコーンに乗って疾走するのは現実的じゃないから……」


「ファンタジー生物に、現実的がどうこう言われたくねーよ!」


「もう、話は最後まできいてよ! その代わり、解毒能力のほうでヒロシの力になってくれるって」


「解毒、能力?」


「うん。ユニコーンには、水を浄化する力があるんだよ」


「へぇ、そうだったのか……、なら、浄水器的な働きをしてくれるのか?」


「ブルルッ」


「ううん、違うよ」


 アツシとユニコは、同時に首を横に振った。



 そして――




「勤めてる会社で取り扱ってる、『安心安全のお水がいつでも飲めるウォーターサーバー』を、格安でレンタルさせてくれるって」


「ヒヒィン!」




 ――わりと、乗ったらダメなタイプの話を切り出した。しかも、本人の解毒能力には、いっさい関係がない。


 ヒロシは頭を抱えながら、力なくうつむいた。



「……もう、帰ってくれ」


「ヒヒィン! ヒヒィーン!」


「えーと、『どうか、そうおっしゃらずに! 今ならなんと、月々千五百円(税込み)ですから!』 だって!」


「いいから、帰れよ!!」


 かくして、マンションのリビングには、ヒロシの悲痛な叫び声が響いたのだった。

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