俺の見間違いじゃなきゃ、彼女って……
都内某所にある、マンションのリビングにて。
会社員の佐藤ヒロシは深いため息をついた。
「あのさ、このあいだの飲みで、可愛い子紹介してって言ったよな?」
問いかけた先では、友人の山本アツシが爽やかな笑みを浮かべていた。
「うん。『猫っぽい目と、鳥っぽい口元の子』っていう、けっこう具体的な注文だったよね」
「ああ、そうだよ……」
「だから、彼女を連れてきたんじゃないか」
「たしかに、見方によっちゃあ条件を満たしてるのかもしれないけど……」
ヒロシはアツシの隣に、視線を移した。
獅子のような瞳。
猫耳のような純白の飾り羽根。
大型の猛禽類のようなクチバシ。
そこにいたのは、まぎれもなく――
「……どう見ても、グリフォンだよね?」
「ピィー!!」
――そう、グリフォンだった。
「うん。まあ、目は猫っぽいていうか、ライオンっぽいけど……、同じネコ科だし大目に見てよ」
「いや、気にしてるのはそこじゃなくてだな……」
「じゃあ、クチバシのほう? 水鳥っぽいの方が好みなら、河童になるけど……、河童だと猫要素はないしなぁ」
「そこでも、ねーよ!! なんで、女の子紹介してって言われて、当然のようにファンタジーな生物つれてきてるんだよ!?」
ヒロシが激昂すると、アツシはキョトンとした表情で首をかしげた。
「えー、でも、女の子だし、可愛いよね?」
「たしかに、可愛いかもしれないけど、グリフォンだぞ!?」
「あ、よかったね、ぐり子。ヒロシが可愛いって」
「ピィー!」
「発言の一部だけ抜き取るな! あと、そんなお菓子メーカーみたいな名前なのかよ!?」
「うん。一羽ばたき、三百メートルくらいの速度で飛ぶよ」
「どのくらいの速度か、いまいちわかんねーよ!」
「えーと、音速よりちょっと遅いくらい」
「だいぶ速いな!?」
「あ、また褒めてもらえたよ。よかったね、ぐり子!」
「ピィ!」
「褒めてねーよ!」
全身全霊でツッコミを入れ終えると、ヒロシは大げさなため息を吐いた。
「色々と言いたいことはあるけど……、どっちかって言うと、ペット枠だろ。いや、グリフォンをペットにするのも、どうかとは思うけど……」
「ピィ! ピィィ!」
「ふむふむ。えーとね、ヒロシ、『ぐり子的には大切にしてくれるなら、ペットでも構わないよ!』だって!」
「俺的には構うんだよ!」
「えー、でも、このマンションって、たしかペット可の物件だったよね?」
「そうだけど、世話の仕方とか分かんねーよ! 大体、グリフォンって何食うの!?」
「ピィー! ピィィィ!」
「馬肉とか、牛肉とかが主食だって。一日、五キロぐらいは食べるってさ」
「一日五キロって……、けっこう高額だぞ!?」
「ピィ!」
「ふんふん。『ちゃんと、狩猟免許を取って猟師として働いてるから大丈夫!』って言ってるよ」
「それはすごいな!?」
「ピィィィ!」
「うん、たくさん褒めてもらえてよかったね、ぐり子」
得意げな表情を浮かべるぐり子とアツシとは対照的に、ツッコミに疲れたヒロシはげんなりとした表情を浮かべた。
「ともかく……、お付き合いするのは難しいので、お引き取りください……」
「そっか……、この様子だと、本当にダメっぽいね……」
「ピィ……」
リビングには、ぐり子の悲しそうな鳴き声が響いたのだった。