表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/12

クリスタルの谷は果ての木の向こう側にあった。

クリスタルイーターたちに案内されて、細い沢伝いに歩いて行く。

沢にはちょろちょろと水が流れていた。

よく見ると水の底にきらきらとクリスタルの欠片がたくさん落ちている。

上流の谷間に生えているクリスタルがこうして欠片になって流されてくるらしい。


クリスタルイーターたちはそのクリスタルの欠片を拾っては口に放り込んでいる。ちょっとしたおやつ、ってところか。


しばらく行くと、突然目の前が開けて、水晶のたくさん生えた、泉のような場所に辿り着いた。

泉の周囲は切り立った崖に囲まれていて、沢はここで行き止まりになっている。

よく見ると崖そのものも水晶でできているようだ。

谷のそこかしこにも、まるで木のように、六角柱の水晶が束になって生えている。

水晶の根元からはきらきらと水が湧き出していて、その水が集まってさっきの沢になっているようだった。


その幻想的な景色の美しさに思わず目を奪われる。

ちょっと、リクオルにも見せてあげたかったなと思う。

リクオルって、顔に似合わず、あ、いや、顔にはよく似合ってるか・・・中身に似合わず、こういう綺麗なところ、大好きだから。


クリスタルイーターたちは手近な水晶の柱にとりつくと、一斉に根元をがりがりとかじりだした。一本、二本、あっという間に柱ごと倒される。


今のところ虫は出てこない。

このままなら無事に水晶を取って帰れるかな、と思ったときだった。


一匹のクリスタルイーターが水晶の欠片で小さく手を切った。その傷自体は大したことはなかったけど、ぽたりと赤い血がそこから滴り落ちた。

その瞬間。

谷を囲う藪から一斉に真っ黒い虫が飛び出してきた。


あれほど美しかった谷は、あっという間に黒い虫に埋め尽くされた。

黒い虫は想像していたものよりかなり大きかった。

小さな鳥といってもいいくらいの大きさがある。

それが一斉にぶんぶんと音を立てて近づいてくる。

口らしきところは細く長い針のようになっていた。


驚いたクリスタルイーターたちは、一斉に逃げ惑う。

その虫は、人間のわたしが見ても恐怖を感じるほどだった。

弓で応戦しようかと思ったけれど、いかんせん、相手の数が多い。一匹二匹落としたところで、すぐにその後ろからまだ無事なやつが顔を出す。


なんとか逃げるしかない。

突破口はないかと辺りを見回す。

行き止まりの谷間で出口はひとつしかない。

けど、そこは黒い虫が何重にも塞いでいる。


崖を登れないかと確かめるけれど、つるつるとした水晶でできた崖には手をかける場所もない。

下手に手をかければ尖ったところで手や足を切ってしまいそうだ。


逃げ惑うクリスタルイーターたちを見ていて気づいた。

どうやら虫が狙っているのは怪我をした一匹だけのようだ。

他のクリスタルイーターたちは、虫には見えていないようにまったく関心を払われていなかった。


わたしは怪我をしたクリスタルイーターをむんずと掴むと、自分の懐に押し込んだ。

虫たちが一斉にこっちを向く。

うげっ。これはなかなかグロテスクな状況だ。

無表情な虫の顔が、襲い掛かるタイミングを見計らっているように見える。


「あんたたちは逃げて。」


他のクリスタルイーターたちにそう告げる。


「落ち着いて。大丈夫。ゆっくりでいい。

 虫にはあなたたちは見えていない。」


焦って転んで怪我でもしたら、虫に襲われる。

わたしはなるべく安心させるようにゆっくり話す。


「ゆっくり、逃げて。

 怪我だけはしないように。」


クリスタルイーターたちも虫が自分たちを見ていないことに気づいたようだ。

少しだけ落ち着きを取り戻したクリスタルイーターがわたしを見上げて言った。


「人間さんは?どうするですか?」


「うーん・・・それは、今、考え中。」


必死に考えているけど、妙案は思いつかない。

やっぱこれは、谷の入り口を強行突破、しかないかな?

怪我したクリスタルイーターは懐に抱えておけば大丈夫だろう。

わたしは何か所かは虫に刺されるかもしれないけど、まあ、命には関わらないだろう。


「わたしを捨ててください。

 そうすれば、人間さんも無事に帰れます。」


懐のなかのクリスタルイーターがそう言うのが聞こえた。

小さなからだが恐怖でかたかたと震えている。

話す声も可哀そうなくらい震えていた。


「足には自信があります。

 わたしは走って逃げます。」


「大丈夫。足ならわたしもそこそこ自信ある。」


ここで言い争う暇はない。

次の返事は待たずに、わたしは思い切って走り出した。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ