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山ネズミたちの喜びの宴はそれはそれは豪華だった。
森の広場に設えられたテーブルには、きらきらした器がたくさん並べられて、珍しい木の実や果物、きのこなんかが山のように積み上げてあった。
「さあさあ、遠慮なさらずに、たくさん召し上がってください。」
森に入り慣れているわたしでも滅多にお目にかかれないような珍味揃いに、思わず喉がごくりと鳴る。
リクオルはもう先に夢中になってご馳走を頬張っていた。
「っこ、これは・・・あの、少しでいいんで、持って帰ってはいけませんか?」
森の宝石と呼ばれる貴重な木の実を見つけて、わたしは思わずそう尋ねていた。
小さいころから父さんに連れられて森に入っているけど、この実を見たのは一度しかない。それも、たったひとつだけ、おまけに少し端の欠けたものだった。
それが、どうだろう。
目の前にはつやつやとした立派な実が、大きな透明の器に山盛りに積み上げられている。
「どうぞどうぞ。全部、お客さまのために集めてきたんですから。」
にこにこと言われて、思わず泣きそうになった。
「う。有難う。どうも、有難う。」
さっそくリュックに押し込もうとしたんだけど、しまった。リュックごと小さくなってしまっていて、ひとつ押し込んだだけでリュックはいっぱいだ。
「う。しまった。」
「外に出られて元の大きさに戻られてから入れたらいいんじゃないでしょうか?」
「みんなで外まで持って行ってあげますよ。」
周りの山ネズミたちは笑いながらそう言ってくれた。
う。すみません。それから、どうも有難う。
あと、ネズミのご飯なんて思っててごめんなさい。
それはネズミのご飯なんてものじゃなかった。
食器なんかもきらきらしてすごく凝った作りをしている。
「わたしたちもご相伴に預かってもいいですか?」
リクオルとわたしがご馳走になるのをにこにこと見守っていた山ネズミたちは、しばらくしてからそう尋ねた。
「ああ、もちろん、です。
すいません、自分たちばっか食べてて。」
「いえいえ。喜んでもらえてわたしたちも嬉しかったです。」
そう言うと、山ネズミたちは、一斉に、いただきます、と唱和した。
小さな山ネズミたちはいっせいに手を出すと、いきなり、テーブルに並んだ透明の器を取って、がりがりとかじり始めた。
「え?そっち?」
「このきらきらがわたしたちのご飯です。」
「人間さんも食べてみますか?」
「人間さんにはちょっと固いかもしれません。」
「人間さんの歯はネズミほど丈夫じゃないから。」
ええ、ああ、はい、もちろん。
わたしは器より中に入ってるもののほうがいいですとも。
「だから人間さんのご飯、わたしたち集めてきたです。」
それはどうもお手数をおかけして。
「人間さんのご飯、わたしたちも食べられないことはないですけど。」
「わたしたちはこっちのきらきらが大好物です。」
わたしは山ネズミたちのかじっている器を手に取ってみた。
「これって、水晶?」
「森の奥にたくさん生えてるです。」
「わたしたち、大昔からこれがなにより大好物です。」
「これを食べるわたしたち、ほんとはネズミではなくて、クリスタルイーターと言います。」
「でも最近、あの辺には虫が多くなって取ってくるのが大変になりました。」
誰かがちょっとしょんぼりとそう言った途端、クリスタルイーターたちはいっせいにかじるのをやめて、しょんぼりとうつむいた。
「あの虫、どこから来たのか分かりません。」
「わたしたちのこと刺します。
血を吸います。
小さな仔ネズミ、血を吸われると命に関わります。」
「元気なネズミ、みんなしてクリスタル取りに行きます。
でも、虫がいて、あまりたくさん取れません。」
「それはさぞかしお困りでしょう・・・」
わたしもつられて悲しくなりかけたけど、ふ、といいものに思い当たった。
「あ。そうだ。
もしかしたら、これがお役に立てるかも。」
リュックから取り出したのは、昨日せっせと調合していた香水だった。