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ネズミサイズになったわたしたちは、一斉に山ネズミたちに取り囲まれた。
「これはいい。
どうぞわたしたちの家にいらしてください。」
「人間の食べられるご馳走もたくさんありますよ。」
うん。ネズミさんのご飯を出されるのは、ちょっと、かな。
わらわらと取り囲まれてそのまま流されるように木に向かう。
果ての木の根元には、ネズミサイズの扉があって、ぽっかりと扉が開いていた。
「え?あの、扉って・・・」
もしかして、フェアリーの扉?
「ここの扉は年中開けっ放しなんですよ。
わたしたちのお家はこの向こう側にあるんです。
わたしたちはみんなご初代から続く家族なんですよ。」
「そのご初代って、もしかして、精霊の落とし子・・・」
「そうなんです。」
だからこのネズミさんたちは人語を解するんだろうか?
みんなフェアリーの子孫だから。
「ご初代さまも、是非お会いして直接お礼を言いたいと申しておられました。」
「さあさあ是非是非こちらへ。」
そのご初代さまにはちょっと会ってみたい気もする。
まあ、せっかくここまで来たことだし、ちょっとご挨拶くらいして行くか。
山ネズミの大群に押し流されて扉を潜る。
その瞬間、なにか変わったことでもあるかと身構えたけれど、べつだん変わったこともなく、普通に家の扉を通るのと同じだった。
「あ。痛くも痒くもないんだ。」
「人間さんのお家は扉を通るたびに痛かったり痒かったりするんですか?」
「それは大変ですねえ。」
周囲に一斉に同情の目をむけられてしまう。
いや、あの、そんなことはないんですけどね?
扉の向こう側は思ったよりずっと広くて、お家、というより、森がそっくりそのまま続いていた。
たしかにここはネズミの国だ。
あの扉の向こう側はこんなふうになってたんだと思う。
アニマの木の芳香は漂っているけれど、この間ほど濃くはなくて、ほんのり感じる程度だ。
もしかしたら、扉を開けっぱなしにしているからかもしれない。
山ネズミたちはその森のなかに人間の家みたいな家を作って、人間のように暮らしていた。
「お客さま方はどうぞこちらへ。ご初代さまがお待ちです。」
案内されたのは少し奥まったところにある一軒の家だった。
中に入るとちょうどリクオルの小屋くらいのサイズで、入り口から中が全部見渡せるくらいの小さな小屋だった。
「ようこそ、おいでくださいました。」
わたしたちが入ると、ご初代さまは揺り椅子から立ち上がってこちらへと歩み寄ってきた。
その姿は周囲を取り巻く山ネズミとそっくりな、ネズミの姿だった。
「あの、ご初代、さま?」
ちょっとだけ、リクオルやミールムのような姿を想像していたわたしは、驚いて思わずそう尋ねてしまった。
ご初代さまは、ほっほっほ、とお年寄りのような笑い方をして、にこにこと頷いた。
「わたしを見つけてくれたのは、この郷の山ネズミでした。
精霊の落とし子は、見つけてくれたものによく似た形をとるのです。」
それはまた知らなかったな。
「オレはジェルバちゃんに見つけられたから、この姿なんだね。」
リクオルは自分の手足をしげしげと眺めている。
「このたびは、うちの仔がたいそうお世話になりました。
お礼の宴を開きますから、どうぞ、たくさん召し上がっていってください。」
途端にわたしは腰が引けた。
「え?
いえ、あの、そんなたいそうなことはしてませんし。
いや、このあたりでそろそろ退散しようか、と。」
「ええっ?
もう帰っちゃうの?」
リクオルはつまらなさそうな顔をするけど。
あんた、ネズミのご飯食べる勇気あるの?
「まあ、そうおっしゃらずに。
森の木の実や果物なら、人間さんも召し上がるでしょう?」
「た、確かに。」
ご初代さまには本音を見抜かれていて、思わず顔が熱くなった。
「今、みんなして木の実や果物を集めに行っているはずですから。
みな一晩中、あの仔のことを探していたんです。
こうして無事に帰ってきて、とても喜んでいるんですよ。」
「せっかくだからご馳走になろうよ?ジェルバちゃん。」
「う、うん・・・」
リクオルにも訴えかけられて、わたしはしぶしぶ頷いた。