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とにかくまずは、仔ネズミの家を探さなければならない。
「お家はどこにあるのかな?」
「分かんない。」
堂々とネズミは答える。
まあ、そうでしょうね。
「あなたのお名前は?」
「分かんない!」
なんか、さっきより元気になっているぞ?
しかしこれは、困ってしまってわんわんわわん・・・
「ジェルバちゃん、森でこんな山ネズミを見かけたことはないの?」
「うーん・・・ちょっとないなあ・・・」
仔ネズミは全身が薄茶色で耳としっぽの先だけがちょっと黒い。
この姿のネズミとは森で出会ったことはない。
もちろん、しゃべるネズミというのも初めてだ。
「もしかして、うんと遠くから来た、とか?」
「けど、こんなおちびさんがそんなに遠くから来られるかな?」
それもそうだ。
ネズミの年齢なんて見た目で分かるわけじゃないけど、このネズミさんはとても幼くて、まだ子ども、という感じがする。
「ここには誰ときたの?」
もしかして、連れて来た保護者とかいるかもしれない。
仔ネズミは、うーんと首を傾げてしばらく考えてから、にこっとして答えた。
「あのね、おっきな羽。
ばさっ、ばさっ、てきた、と思ったら、ぴゅーって飛んで、で、ひょい、って・・・」
なんだその擬音語の行列は?
言いたいことがさっぱり分からんぞ?
「あー、つまりそれはさ、鳥かなんかに捕まって、ここまで連れてこられた、ってことじゃない?」
流石同系列。
リクオルには仔ネズミの言ってることが通じるらしい。
「げ。それって、鳥にエサにされそうになって、で、運よく逃げられたってこと?」
「逃げたってより、鳥が落としたんじゃないかな。
まあ、運よくというのは間違いないけど。」
まったくだね。
「それじゃ結構な距離、運ばれてるんじゃない?」
「どうかな。
ねえ、その羽はどんなだった?」
「あのね、おっきな目。
あと、ほう、って言った。」
「フクロウかな?」
「フクロウかね?」
リクオルとわたしは同時に言っていた。
「てことは夜の間に捕まって、ここまで連れてこられたんだな。」
「フクロウなら森にもたくさんいるけどさ。」
わたしは小屋の後ろの森を見上げた。
「どのフクロウに連れてこられたかは分からないよね・・・」
「あのね、羽は、顔のここんとこに白い毛があった。」
仔ネズミは小さな手で自分の額の辺りを叩いた。
「あ。ハツシモ?」
仔ネズミから聞いた特徴に思い当たる節がある。
「はつしも?」
聞き返すリクオルに頷いてみせる。
「そういうあだ名のついたフクロウがいるのよ。
額のここんとこの毛が白くてさ。
ハツシモのナワバリなら心当たりあるよ。」
わたしはいつもの薬草採りの道具を背負うと、仔ネズミとリクオルを連れて森へと出発した。