1
風のなかに秋の気配の混じりだすころ、めでたく妖精堂は開店した。
最初、相棒の妖精リクオルが、お店のことを言い出したときには、こんなふうに現実になるとは到底思えなかったけど、こうして実際に開店してみると、嬉しさと怖さが半分半分くらいの、ドキドキする気持ちだった。
今までは誰かから依頼されてから、そのオーダーにあった香りを作っていた。
もちろん、これからも誰かが注文してくれるなら、そんな香水も作ろうと思う。
でもせっかくお店があるなら、商品を並べておきたい。
畑で作った数種類のハーブと森で集めた素材から抽出した香りの成分をブレンドして、様々な効能を持つ香りを作りだす。最後にリクオルの妖精魔法をかければ、妖精堂の香水の出来上がり。
わたしが調香師として目指すところは、師匠だったじっちゃんの作っていたあの香水だけど、それはまだ完成はしていない。
もちろん、あれはいつかきっと妖精堂の目玉商品になる、はず・・・だけど。
で。
あれこれと迷ったり試行錯誤した挙げ句、夜よく眠れるようになる香りと、朝スッキリ目覚める香り、それから食欲がないときにお腹のすく香りの三つを並べることにした。
なかでもお腹のすく香りの効果が絶大で、うっかりリクオルに嗅がせた日には、そうでなくてもよく食べるのに、普段の三倍以上を軽くたいらげてしまった。
しかし、リクオルみたいにいくら食べても太らないならともかく、普通はお腹がすくよりお腹がすかない香りのほうが需要はあるかも。
それは今後の課題だ。
できた香水はじっちゃんの遺してくれたビンにつめた。
シンプルなビンにリクオルの描いたラベルを貼り付ける。
一枚一枚手描きなので、同じものは二度とない。
うん。なかなか可愛い。
リクオルってば、ホント、こういうことは得意だ。
けど、残っているビンの数には限りがあった。
いずれどこからか調達しないといけなくなるのは間違いない。
しかし、村にはガラスビンを作る工房はない。
じっちゃんはいったいどこからビンを調達してたんだろう。
かくして、わくわくに胸膨らませていざ開店!!!
しかし、それから3日。
お店にはひとりもお客は来なかった・・・