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4. 魔物の絶叫

 サナは魔物に歩み寄って片膝をつき、うつむいたその頭に重ねた両手を向けた。目を凝らし、魔物を覆った何重もの妨害の層をイメージして、慎重に触れた。

 銀髪が光を持って逆立つ。その光景を初めて見たらしい騎士が数人、後ろでどよめいた。

「あれが、噂の『無効化』のルクか」

「すげぇ……」


 サナが触れたところから渦巻くどろどろとした衣のようなものが現れ、一枚剥がれ落ちた。

「いいぞ!」

 アーラがにやっと笑った、その瞬間。


 【(ほう)(ふく)、ヲ】


 空気が揺れるような声が魔物から漏れ出た。背筋に()(のぼ)るような冷酷な声。


 【報復ヲ、王国ニ報復ヲ】


「サナッ!」アーラが反射的に一歩踏み出したが、ゲルプがそれを左手で制した。

「大丈夫です!続けます!」

 サナは叫ぶとさらに集中した。額には汗が浮かんでいたが、その手は重ねたまま光を放ち続ける。また一枚、黒々とした衣が落ちた。声にさらに恨みがこもり、毒づき始めた。


 【王国ニ報復ヲ、報復ヲ、王族ニ報復ヲ――!】


 獣のような荒々しい絶叫を上げると魔物たちは突然顔を上げた。空っぽの影の中から鈍い(さび)色の眼孔(がんこう)がこちらを見据えているのをサナは確かに見た。異様な腐臭(ふしゅう)が鼻を刺す。次の瞬間、三体の魔物は煙になって消えてしまった。


「う……っ」

 サナは口元を押さえた。アーラが駆け寄ってきて肩を支えた。

「辛い役目をさせたね」

「いいえ、副団長……ありがとうございます」

 サナが気力で立ち上がると、シークが鼻面をその腕にすり寄せた。サナは微笑むとその(たてがみ)を撫でてやった。


 ゲルプは部下たちの方を振り返った。

「皆、聞いたか!」

 (なか)ば呆然としていた騎士たちが団長のいつも通りの声にはっとして背筋を伸ばした。

首謀者(しゅぼうしゃ)は王族に恨みを持っている人物だ!第一部隊は全力で洗い出しにかかれ!第二部隊は通常以上に城の警護に力を入れろ、第三部隊と第四部隊は街の修繕と人々の保護の応援に向かえ!」

「はっ!!」

騎士たちが一斉に敬礼し、列をなしてそれぞれの任務に走り出した。



 サナは二、三度深呼吸をした。間近で目にしたおぞましい姿と呪いの言葉が目や耳にこびりついていたが、まだ重大な事案は残っていた。

 魔物が消え、縛っていた縄だけが残った柱を見つめているゲルプとアーラの元に歩み寄る。


「父上」

「“ジェイ”のことか」

「はい」

「既に追跡部隊を組織し任務にあたらせている。無駄だろうがな」

 ゲルプは嘆息(たんそく)した。


 六年前、“ジェイ”を捕らえることができたのは彼が自ら城を訪れたからだ。なぜ急に無抵抗になり出頭したのか、その理由は分からないまま彼は最深部に閉じ込められた。


「奴を捕らえたのは俺が団長に就任して間もない頃だったが、裏社会を仕事場にしていた同期でさえ、牢に入れるとき初めてその顔を見たと言っていた。()()()()()()とも。要は、身を隠す天才だというわけだ。だが、分からんな……奴はどうやってあの牢獄を破って脱獄したんだ?いや、檻はまだしも、牢を封じていた術をどう解いたんだろうか」

「術……」


 サナははっとして青ざめた顔を父に向けた。

「私が牢獄の確認に向かった時……術はまだ残っていました」

「何!?」

「あの時、動転して……あの兵士!父上、報告を受けた兵士はどこですか」

「報告に来た兵士ならそこにいるが」

 サナは父が指さす方を見たが、そこにはかなり大柄な体格をした兵がいた。確実に別人だ。つまり、あの兵士は、


「共犯者だった?」

 サナは呆然としてしばし虚空(こくう)を見つめた。

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