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はらぺこエステル

エステルとメイはボロボロになりながらホワイト領にたどり着いた。


近くにいた兵士にメイが声をかける。


「ハルトを頼ってきました。助けてください。」


「二人とも大丈夫か!すぐにギルドに連れて行く!」






俺はギルドで受付嬢とリコに挟まれて勉強をしている。


魔物の素材を受け渡した後に勉強をし、その後20日間ダンジョンにこもるのが俺のここ一か月の生活パターンとなっていた。


理由はギルドの素材の処理が間に合わなくなってきた為だ。


リコと受付嬢の距離が近い。


特に受付嬢は俺が照れるのを分かってワザと俺に密着するようにして勉強を教えてくる。

さらに孤児院の子供にも読み書きを教えて、識字率を高めたいというリコの思惑もあり、俺の勉強時間は多くなる。

すでに学校の勉強は終わり、学園レベルの勉強に手を付けている。


そして、リコは俺の作るお菓子にはまっている。


隙あらば、何か作らせようと動く。


「ハルト君、ここ間違ってるよ。」

受付嬢がワザと俺に胸を押し付けてくる。


そんな中、ギルドの扉がすごい勢いで開かれる。


見知った顔がそこにあった。


「エステルとメイか。」


よく見ると、エステルは痩せて飢餓状態となっていた。


エステルとメイが、泣きながら俺に抱き着く。


「助けて、助けてください。うえーん、えっぐ、えっぐ。」

「ハルト、何か食べさせて、もう限界なの。」


「まず、落ち着こう。今、ストレージから食べられる物を出す。」


俺はストレージから食べられる物をすべて出した。


ギルドにいるみんなが集まってくる。


エステルとメイは泣きながら食べ物を口に入れる。


特にエステルは飲み込むように食べた。


「まず事情を話してくれ。」





メイとエステルの事情を聞いたゲンが、泣き出す。

「バカヤロー!目にゴミが入っちまったぜ。」


「分かった。まずメイはすぐに体を洗って寝ようか。」

メイがリコに案内されて奥に消える。


「エステルはこの量じゃ足りないよな?」

エステルはテーブルいっぱいに出した大量の食事を食べつくそうとしていた。


「たひはい。」


「すまん、無理にしゃべらなくて大丈夫だ。水持ってくるな。」


俺が水を持って戻ると、食べ物はすべてエステルの腹の中に消えていた。


リコが戻ってくると、口を開く。

「メイさんとエステルさんですが、しばらくギルドで寝泊まりしてもらいますわ。」


「そうだな、メイはここで働かせることは出来ないか?確か、頭が良かったはずだぞ。勉強は俺よりで出来るやつだ。」


「それは助かりますわ。」


エステルのおなかが鳴る。


「うん、足りないよな。料理を作ってくる。」


今、ちょうどギルドの食堂は閉鎖している。

今まで夫婦で働いていた料理人が、王都で店を出すため、居なくなってしまったのだ。

折角学校や学園を卒業しても、スキルレベルが高い者が出てきても、王都に人が流れる。

これがホワイト領の悩みでもあった。


一番大きな鍋を取り出し、米を浸水させる。

このホワイト領では色々な食べ物を栽培している。

米・麦・もろこし・いも、と主食だけ取っても実に多様だ。


さらに、他の鍋には、水を張って火をかけながら、肉、根菜、野菜、キノコを入れて肉野菜スープを作る。


エステルがじっとこちらを見つめる。


「出来るまで時間がかかるぞ。」


「うん。」

エステルは完成するまでずっと厨房を見つめ続けていた。


完成した肉野菜スープを鍋ごとエステルに持って行く。


お玉から直で掬って食べだした。


さらにご飯を鍋ごと持って行く。


「ハルト、少し宜しいでしょうか?」

リコが俺を呼ぶ


「あれじゃきっと足りないですわ。」


「結構大量に作ったけどな。」


「エステルさんはきっと100人分くらい食べますわ。犬族で成長期、さらに今は飢餓状態、一般の方より数倍食べる状態でさらにはらぺこスキル分の食事量が必要ですわ。」

人より数倍食べる×はらぺこスキルの20倍か。


犬族は体の成長が早い分成長期の食欲は特に高くなる。

さらに飢餓状態か。


俺はだらだらと汗をかく。


「その通りだな。今すぐにこの厨房に大きいかまどと、でかい鍋を作りたい。2セット欲しい。費用は俺が出す。後、俺はしばらく料理を作り続けるぞ。」


「すぐに用意を進めますわ。」

リコが走り出す。


俺はその日、料理を作り続けた。





2日目


ゲンさんが厨房へとやってきた。


「かまどなら俺が作れるぜ!今日中に仕上げる。待ってな!」


俺は外に出て川のそばで肉を解体し切り続けた。


炭と網を用意し、エステルが食べる分の肉を切り続けた。


もちろん野菜も切る。


「エステル、肉と野菜を焼くだけで大丈夫か?」


口の中の肉を飲み込み「大丈夫だよ。」と言って食べ続ける。


孤児院の子供と町の人も集まってくる。


俺の包丁さばきで全員分作ってやる!






3日目


早朝、リコが俺に近づいてくる。


「かまどと大型の鍋2セット分完成しましたわ。」


「早すぎるだろ!」


「ゲンさんも鍛冶師の方もスキルをフルに使って夜までかかって完成させたのですわ。」


厨房に行くと確かに完成している。


俺は、早速、米を大鍋2つに浸水させる。

と言っても、あまり深く米を入れると、米がつぶれる。

加減して米を入れた。


その隙に、大量の肉と野菜を切っていく。


今日はご飯を大量に作る。


塩分多めのおかずにご飯を大量に食べてもらう『ヤマト式作戦』なのだ。


俺はすべてのかまどをフルに使用し、大量のおかずを作っていく。


エステルは早く起きておなかを鳴らす。


俺の料理を見るのが面白いのか、食べている時以外いつも見ている。


俺は一心不乱に料理を作り続ける。


「良い匂いがするぜ。」

ゲンさんが厨房に顔を覗かせる。


俺は作業が一段落すると、ゲンさんにお礼を言う。

「ゲンさん、助かった。かまどの調子は良いぞ。」


「そりゃー良かったぜ。」


「ゲンさんも食べて言ってくれ。」


「ああ、もらうぜ。」


「それとかまど代を払いたい。」


「いらねーよ!」


「代金は払う。」


「いらねーよ馬鹿野郎!黙って使いやがれ!」


俺はゲンさんの人の好さに苦笑した。


「これ、おらの畑で作っただよ。使ってくれ。」


「肉を狩ってきたぜ。料理に使ってくれ!」


「山菜ときのこを取ってきただよ。」


大量の食材がどんどん寄付されるようになった。





4日目


「旧ハウス領から大量の難民が押し寄せてきましたわ。食べ物の用意が足りません。」


「何人くらい来たんだ?」


「1000人ほどですわ。」


「俺が協力して料理を作るぞ。」


「助かりますわ。食材はこちらで用意しますわ。」


その日、俺は遅くまで料理を作り続けた。


片付けを終えると、リコが声をかけてくる。


「お疲れ様ですわ。」


「まだ小さいのに寝なくて大丈夫か?」


「ふふ、ハルトも同い年ですのに。」

リコは笑い出す。


「どうして、くたくたになるまで助けてくれるの?」

エステルがじっと俺を見つめる。


メイとリコも俺を見つめる。


「うーん。料理は好きだぞ。」


「それだけで、あそこまで動き続けるのは不自然ですわ。」


「本当なんだ。話すと長くなるけど本当なんだ。」


「聞きたいですわ。」


「俺な、昔、料理人が嫌いだったんだ。戦闘にも向かない、回復魔法も使えない、ポーションも作れない。でも、ある人が言ったんだ。『食べることは生きることだ』ってな。それから、料理が好きになった。その後、ホワイト領のみんなが俺を助けてくれて、パンとスープを食べさせてもらって、今日もエステルや難民が食事をして、顔色が良くなっていくのを見てると、前よりその意味が分かる気がしてるんだ。」


「それで楽しく料理をしているのですわね?」


「そうだな。」


「ハルトは優しいね。」


エステルにストレートに褒められると、照れ臭くなってくるな。

「今日は休む。」


「おやすみですわ。」

「お休み。」

「おやすみなさい。」






俺は毎日料理を作り続けた。


皆の顔を見ると、食事をして元気になっているのを感じる。


もっと早く!


もっと正確に!


みんなに命を届ける!


俺は一心不乱に料理を作り続けた。


『料理レベルが6から7に上がりました。』


俺は料理を作り続ける。


エステルが俺の料理を食べて涙を流す。

「前より、体が生まれ変わっていく感じがするよ。」


エステルのはらべこスキルはその日スキル反転した。


最後までお読み頂きありがとうございます!ここまで少しでも、ほんの少しでも面白いと思っていただけた方はブクマ、そして下の☆☆☆☆☆から評価をお願いします!

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