テイカーの失敗続き②
テイカーは自信満々だった。
今度こそうまく行く。
メイとエステルに魔物のターゲットを取らせ、俺が倒すだけ。
簡単だ。ただ気になるのはメイもエステルと同じバッドスキル持ち。
二人ともバッドスキルを2つ持っている。
だがまあいい。
あの二人は用が無くなったら追放する。
メイのバッドスキルは『眠り姫』。
このバッドスキルのおかげで一日の活動時間は5時間程度。
しかも無理をして5時間だ。
エステルのバッドスキルは『はらぺこ』。
とにかくたくさんの物を食べないと、飢餓で死んでしまう。
パーティーは順調にダンジョンの5階まで到達する。
メイは視野が広く、常にみんなが囲まれないよう気遣いながら位置取りを考え行動した。
メイはナイフで魔物を倒し、パーティーの強さは前より上がった。
だがテイカーはこれを自身の手柄と勘違いする。
ふ、思った通りだ。
二人とも無能だが魔物のターゲット取り程度の役には立つな。
あいつらは通過点に過ぎないが、しばらくは俺のパーティーに入れておいてやるか。
6階でテイカーに異変が起きる。
「ライフスラッシュ!ライフスラッシュ!」
「テイカー!もうポーションが残り少ねーわよ!」
「うるさい!クリム!指図するなよ!今すぐ殺すぞ!」
テイカーが剣をクリムに向ける。
「ひい!」
クリムがおびえる。
これによりテイカーを注意する者が居なくなった。
その後もテイカーはライフスラッシュを使い続け、魔物を倒していく。
「ふ、どうだ!俺の力を思い知ったか!」
「テイカー。鼻血が出てるぜ!」
「ポーションを出せ!」
「もう無いよ。全部テイカーが飲みつくしたよ。」
エステルの言葉を聞きテイカーは怒り出す。
「クリム!ポーションが足りない!お前のせいだぞ!」
「え?」
テイカーはクリムを殴り飛ばした。
クリムは信じられないという顔をしてテイカーを睨む。
メイが機転を利かせる。
「テイカー、あまり動かないでください。鼻血が止まらなくなります。すぐに帰還しましょう。」
「ち、仕方ない。帰還するぞ!」
その後テイカーは、こりることなく何度もライフスラッシュを使い続け、メイとエステルは重い荷物を持たされることになる。
ダンジョン4階。
「おい!メイ!エステル!早く歩け!」
「荷物が重くてきついんです!」
バックパックには大量のポーションと魔物の素材、ダンジョン探索に必要な物資がすべて収まっている。
5人分の荷物を2人だけで運んでいた。
「おなかがすいて力が出ないよ。」
エステルは、ダンジョン探索の報酬が減り、食べ物を十分に食べられず、空腹状態のままダンジョンに向かっていたのだ。
テイカーは下僕のように2人を扱い、2人は度重なる無茶ぶりに疲弊していた。
「ち!無能が!休憩だ!無能のせいで休憩だ!」
こうして、休憩を取ることとなった。
メイはバッドスキルの効果で睡魔に襲われ目を閉じる。
「起きろ無能が!」
テイカーはメイを無理やり起こす。
前領主はメイを守るため学校に通わせ、十分な睡眠をとらせるよう、配慮されていた。
しかし、テイカーが領主となり、パーティーに入れてからメイに十分な睡眠をとらせる事が無くなった。
メイに料理を作らせる。
メイは料理を作り皆に配る。
スープを口に入れた瞬間テイカーが怒りだす。
「まずいんだよ!」
スープをメイに向かって投げつける。
いつもと同じ味だったがテイカーは気分で言う事を変え、定期的に発作のように暴力を振るうのだ。
「え?普通だよ?」
エステルがメイを庇う。
「ウルサイ!平民の無能どもが!お前たちをパーティーから追放する!お情けでパーティーに入れてやっていたがもう限界だ!」
メイとエステルはすんなりと追放を受け入れる。
2人ともこのパーティーにうんざりしていたのだ。
パーティーを抜けようとしても先生に脅され、抜けることが出来なかった。
エステルとメイは親がおらず、バッドスキル持ちの為立場が弱い。
だが、テイカーから切り出してもらえた。
これで問題なく抜けることが出来る。
「分かりました。ご迷惑をおかけしました。」
「分かったよ。」
「この荷物は置いて行っても大丈夫でしょうか?」
「これだから無能は、自分で判断も出来ねーのか!置いていけ!」
「すいません。失礼しました。」
「無能でごめんなさい。」
二人は素早くダンジョンの入口へと向かい歩き出す。
テイカーと距離が離れ、見えなくなった瞬間に走ってさらに距離を取る。
「ふ、居なくなったか。クリム!リン!荷物を持て!出発だ!」
「私には重くてもてねーわよ!」
「二人を呼びもどそーぜ!女の俺達にこの荷物はきついぜ!」
「エステルとメイも持っていただろ!黙れ!殺すぞ!」
こうしてクリムとリンは荷物持ちをすることになった。
その後、エステルとメイは、二人でパーティーを組み低階層の魔物をコツコツ狩る生活を続ける。
メイは頭が良く、学校卒業までの学科をすべてクリアしていた。
授業を免除され、エステルの授業が終わるとともに起床し、二人でダンジョンへと向かう。
テイカーのパーティーに居た時とは違い、重い荷物を持つ必要が無くなった。
ダンジョンで魔物を狩り、メイがダンジョンで取れた素材や肉を使い夕食を作る。
「うーん。おいしいよ。」
「そうですか、ありがとうございます。」
「テイカーに追放されて良かったよ。たくさんお肉を食べられるようになったね。」
「ええ、エステルの顔色も良くなってきましたね。」
「うん。ダンジョンでこうやってお肉を食べて、帰ってからも狩った魔物の肉を食べられるから助かってるよ。」
「そういえば知ってます?前に追放されたハルト君、今ホワイト領で大活躍してるみたいですね。」
ハルトとメイも、面識があり、たまに話をしていた。
「知らなかったよ。無事に学校を卒業出来たら、ホワイト領に行きたいな。」
学校の卒業資格を得ることで就職に有利になる。
後はテイカーに絡まれないように卒業するだけだ。
「私もここを卒業出来たらホワイト領に行きます。」
「それじゃ、一緒に行こうよ。」
「そうですね。」
二人は順調に生活を続けた。
その頃テイカー率いる【ブラックセイバー】
リン・ハウスは窮地に立たされていた。
今までハウス家の領地は家づくりの収入がメインの収益源だった。
しかし、ホワイト家の作る安くて高品質な家に注文を奪われ、家づくりの利益が無くなりつつあった。
当主である父が、、テイカー・ブラックにハウス工場を建てる為の資金援助を申し出た。
しかし、テイカーは、
「は?知らねーよ!てめーらで何とかしろよ!」
と、お願いを断ったのだ。
父にお願いされ、リンの方からもう一度テイカーに資金援助をお願いすることとなった。
失敗すれば貴族の星を王に返上し、ハウス家は貴族の位を捨てることになる。
リンは意を決してテイカーに話を切り出す。
「テイカー。頼む!ハウス家に資金援助をしてほしーんだぜ!」
テイカーは無言でリンを投げ飛ばした。
リンは壁にぶつかり、うずくまる。
「お前らいい加減にしろよ!てめーの事はてめーでやれよ!人の事を金づる扱いしてんじゃねー。」
テイカーはリンにまたがり、何度も顔を殴る。
リンの顔がありえないほどぼこぼこに腫れ、一見リンと分からないほどの見た目となる。
「は、カスが!」
テイカーはリンを置いてその場を立ち去る。
リンは苦しさでしばらく寝ころんだまま、うずくまる。
床は鼻血で赤く染まる。
リンはゆっくりと起き上がる。
「もう無理だぜ!テイカーに殺される。」
テイカーの傘下貴族でいるより、平民として暮らした方がましだ。
このままではテイカーに利益だけを搾り取られ、使い潰される未来しかない。
ハウス家はその後、貴族の位を捨て、リンは学校を去る。
リンのぼこぼこに腫れ上がった顔は、父である当主の決断を決定づけた。
貴族の星の返上はすぐに行われた。
リンは王都で冒険者となり、平民として暮らす。
テイカーはリンだけでなく、多くの者から恨みを買う事となった。
ブラック家の傘下であるハウス家が無くなった後、テイカーがハウス家の領地を手に入れる。
そして、リンが居なくなったことで、クリムと2人だけのパーティーとなる。
「仕方がない。エステルとメイを呼び戻すか。」
ふ、俺が呼び戻せばあいつら泣いて喜ぶに違いない。
大貴族で才能に溢れ、有能な俺の元に戻りたいはずだ。
お、エステルとメイだ。丁度良い。
仲間に入れてやろう。
「おい!エステル!メイ!お前たちをパーティーに戻してやる。ありがたく思え。」
二人は引きつった顔をする。
「今日は疲れていて、役に立たないと思います。明日にしましょう。」
メイが機転を利かせる。
「ふ、仕方がない。それで許してやろう。」
俺様の寛大な対応。
この俺の下で働ける喜び。
あいつらは喜んで戻ってくるだろう。
「それでは私たちは失礼します。」
メイとエステルはその場から去った。
テイカーが見えなくなった瞬間メイはエステルの手を引いて走り出す。
「この領から逃げます!学校の卒業資格は諦めるんです!今すぐ物資を買い揃えて、ホワイト領に行きましょう!」
「そうだね!それが良いよ。」
学校の卒業より命の方が大事!
二人はテイカーの危機が迫ったらここを抜けると決めていた!
エステルとメイは急いで旅支度を整え、その日の内にホワイト領に向かい、出発する。
テイカーはハウス家の領地を手に入れ、上機嫌となる。
リンもしょせん無能だったか。
だが、俺が領地を手に入れたからには領地は生まれ変わる。
くっくっく。
その頃、旧ハウス家領地
大工と木こりが集まり、領地を抜ける話し合いが行われていた。
「この領地はブラック家の物になってしまう。」
「ブラック家だか!あそこだけはだめだーよ!死ぬまで働かされるか、領主に殺されるだ!」
「ハウス家も良くなかっただよ。だども、ブラック家だけはだめだ!」
「そうだな、俺は、ホワイト家に逃れようと思う。道中で魔物に襲われる危険もあるが、その方が安全だ。」
「おらたち家族も一緒に行きてーだ!」
「おらもだ!」
「おらも行くだ!」
テイカーが領主になってからブラック家の悪評は広まっていた。
それとは逆にホワイト家の名声は広まる。
旧ハウス家の多くがホワイト家を目指し、テイカーが新たに手に入れた領地は、ただ魔物の多い森となり果て、ブラック家の経営を圧迫する。
そして、多くの大工と木こりを受け入れたホワイト家は、雇用を確保するためハウス工房とハウス工場を24時間稼働させ、更なる利益を生み出すこととなる。
さらに、バッドスキルを持つエステルとメイは、ホワイト家のハルトを頼り、ホワイト家を目指す。
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