トム&ジェニファーの憂鬱
ホワイト領には新人冒険者を助けることで有名な冒険者が居る。
パーティー【トム&ジェニファー】。
2人は中年の夫婦で2人パーティーを組んでいる。
念願の子供には恵まれなかった。
だが新たな生きがいを見つける。それが新人冒険者の支援である。
新人冒険者、特に若い子は無理をしてすぐに死んでしまう。
これを防ぐため、二人は新人冒険者、特に小さな子供を率先して支援し、教育を行った。
一緒にダンジョンに同行し、レベル上げの手伝いをする。
2人の支援により若い冒険者の死亡率は確実に減少していた。
街を歩くとかつての教え子が声をかけ、子供を紹介する。
かつての教え子が遊びに来てくれる。
2人は満たされていた。
だが悩みもあった。
「ねえトム、またポーションを使い切ったわ。」
新人冒険者はケガをしやすい。
新人冒険者が危険なケガを負うと、2人は惜しげもなくポーションを使い、命を救った。
「しょうがないさジェニー、またお金を貯めよう。」
ポーションが切れるとお金を貯める為に新人教育を中断する。
この生活を繰り返していた。
「くやしいわ、私にもっと力があれば、もっとみんなを助けられるのに。」
「そうだね、でもこればっかりはしょうがない。」
トムとジェニーは自身の成長よりも他の救済を優先し、冒険者としてのランクは今一つなのだ。
二人に声をかける者が居た。
このホワイト領では有名な人物。
英雄ハルトである。
「トム&ジェニファーだな?」
「そうですが、何か?」
何故私に声をかけた?
悪い事は何もしていないはずだ。
「リコ、この人で間違いないよな?」
「ええ、間違いありませんわ。」
「どうしたのですか?私たちが何かしましたか?」
ジェニーが不安そうな表情を浮かべる。
「2人の活動を支援したい。ポーションを定期的に現品支給したいんだ。」
「な、なぜですか?私はあなたに何も返せません。」
ジェニーが困惑する。
「返さなくても大丈夫だ。これからもみんなを助けて欲しい。」
リコが間に入る
「ハルトはあなた方のように、新人を支援し、助ける人の力になりたいのですわ。ハルトは今まで投資を続け、準備を進めてきました。今やっと準備が整ったのです。」
トムは驚愕する。
これが英雄!
12才の頃からずっと力を蓄えてきたのか!
3年も苦しい思いをしながら、贅沢もせず、ひたすらホワイト領を発展させ続け、そして今私たちを助けようとしている!
こうしてトム&ジェニファーは定期的にポーションを貰えるようになった。
ハルトが素早く居なくなると、2人はハルトの居た方向に礼を続けた。
ジェニーが泣き出す。
「夢が、叶った、叶ったわよ、うう、えっぐ。」
トムはジェニーを抱きしめ、なだめた。
家に帰ってから2人は話し合う。
何もお返しできない。
でも英雄ハルトの事は新人冒険者全員に伝えよう。
この行動は更なる支援を呼んだ。
ハルトのパーティー支援のうわさが広まり、トム達のかつての教え子が集まる。
「俺は2人のおかげで冒険者として生活出来るようになった。でも、お礼をしようとしても受け取ってもらえなかったんだ。」
「知らなかった。いつも笑顔の二人がポーション不足で悩んでいたんだろ?言ってくれれば支援したのに!」
「私も育ててもらったおかげで子供を産むことが出来たわ!」
「なあ、リコに話をしてみないか?俺たちで寄付を募るんだ!そうすればもっとトム&ジェニファーが楽になる!」
「俺も出すぞ!」
「私も出す!」
「俺も俺も!」
こうしてトム&ジェニファーは、かつての教え子から大量の支援を受ける。
助けた教え子が支援をし、さらにトム&ジェニファーが子供を助けることで、持続可能な循環が生まれる。
ハルトがギルドに入ると、新人冒険者があいさつをしてきた。
「ハルトさんおはようございます!」
「なんだ?なんか態度が変わったぞ?」
「ふふ、ハルトは英雄ですからね。」
受付嬢とリコはにこにこと笑う。
その後、多くの新人冒険者と、かつてのトム&ジェニファーの教え子たちはハルトに頭を下げて挨拶するようになる。
「ハルト、お願いがありますわ。」
「ん?」
「ブラック領の学園の入試試験を受けて欲しいのです。」
キュキュクラブ全員の顔が曇る。
「エステルとメイは受けなくて大丈夫ですわ。ご安心くださいませ。」
「ブラック学園には行きたくないぞ。テイカーに絡まれるし最悪俺を殺そうとしてくるぞ。」
「その・・・王から、テイカーの本性を知りたいと、それで、ハルトに入試を受けさせて、テイカーの動きを見たいようなのですわ。」
テイカーの悪評は国に広まっている。
要するに、おとり捜査がしたいのか。
「テイカーは俺を殺そうとしてくるかもしれないぞ。難癖付けてこられても厄介だ。」
「大丈夫です。テイカーに偽の情報を流して、騎士がハルトを見張りますから。」
「ちょっとサウナに行ってリフレッシュしてくる。半年間サウナに入ってないんだ。」
俺は新しく出来たサウナに入る気満々だったのだ。
「今すぐ向かってくださいませ。王がらみなので断れないのですわ。」
俺はそっと目を閉じ、深呼吸をする。
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