王子にこんにゃく破棄されましたwww
壇上に立つ王子が私を指差して凛とした声でこう言い放ちました。
「イザベラ! 今日この卒業パーティーの場で、俺はこんにゃく破棄を宣言する!」
うわあ……そこで噛むかな、普通。しかもコンニャク破棄って……ふふっ……気付いたら賞味期限が切れてたのかな……そんなことを晴れの舞台で高らかに宣言されても、私困るのですが……。
「ド、ドウシテ、ワタシガソンナメニ~」
ああ、笑いを堪えようとしてつい全く感情の籠ってない棒読みになってしまった。でもこれは決して私のせいではない。全てこんにゃく王子が悪いんだ。……これから罰としてしばらくこんにゃく王子って呼んでやろう。
ていうか王子、顔真っ赤にして目も潤んでるじゃん。そりゃあそうだよねえ。公衆の面前で堂々とこんにゃく破棄を宣言しちゃったんだもんねえ。ご愁傷さまです、アラン様!
「それは、お前自身が一番分かっているだろう! 俺とルイズ嬢のしじちゅうの愛を妨げようとしたからだ!」
もう……本当にやめてってば! お腹痛いんですけど!
滑舌悪すぎるにも程があるでしょ。『指示厨の愛』って何よ、それ……『う~ん、あと5mm右に首を傾げて、2cm顎を引いて、上目遣いで僕を見てごらん。よし、最高に可愛いよルイズ!』って感じ? そんなヤバい関係は流石に誰でも止めようとするでしょ。
「ワタシハ、トウゼンノコトヲ、シタマデデス~」
「嘘です! イザベラ様は、私のことを礼儀知らずの元平民だといつも馬鹿にしていらっしゃいました。挙句の果てに教科書を隠したり酷い噂を流したりして、私を事あるごとに苛めていたではないですか!」
おおっ! 凄いじゃん! 一人だけちゃんと長文を流暢に話すことが出来てる!!! 偉いぞ、ルイズちゃん!!! こんにゃく指示厨王子も彼女をしっかり見習いなさいよ!
「なんと醜い嫉妬心だろうか。そのような浅ましい心の持ち主に、王太子を支える大切な役目が務まるわけがない! ルイズ嬢こそ、未来の王太ヒヒに相応しい!」
ひぃ……ひぃ……もう勘弁してえ……本来栄誉ある立場なのに完全にただの悪口になっちゃってるから……『応対ヒヒ』ってお茶をお盆に載せて運んで来てくれるお猿さんみたいな感じなのかな……ふふ、可愛いかも。
「アア、ソンナア、ヒドイデス~」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「……いやあ、本当に酷い舞台だったね。特に亜蘭君の噛みっぷりには驚いたよ。自分で立候補するぐらいだから、人前に立つ自信とか経験があるのかと思ってたのに」
「……ねえ。演劇の間中、彼が噛みまくってた本当の理由知りたい?」
「ええ? そんなの、ただ大勢の観客の前で緊張してただけでしょ?」
「それが、違うんだって。……誰にも言っちゃだめだよ。……実は亜蘭君、ラミのことが好きなんだって!」
「えっ! マジで! そういえば普段は大人しいのに、伊座辺さんが主役に決まった途端、婚約者の王子役に一番に立候補してたもんね。……じゃあ、大好きな彼女と共演してテンパってたってこと?」
「そうじゃなくて、演技だと分かっていてもラミを振るのが辛すぎて……噛んだ振りをして無かったことにしたかったみたい」
「はあああ!? 何それ!! ピュアすぎるでしょ!!! というよりそもそもセリフを間違えたからって、別に無かったことにはならない気がするんだけど」
「まあ、勿論それはそうなんだけどね。それで伊鶴さんと真実の愛で結ばれてるという設定すら本人的には辛かったらしくて……」
「うわあ、巻き込まれた伊鶴さん、可哀そう。途中から確かに能面みたいな顔してたもんね」
「それなのにラミは全然気づかずに終盤は何度も吹き出してたし。あの子、相当鈍感だからなあ」
「黙ってれば可愛いんだけど、実際は相当なお馬鹿だよね」
「多分、これからしばらく亜蘭君のこと『こんにゃく王子』なんて呼んでいじるだろうなあ……」
「うわあ。その可哀想な姿が目に浮かぶわ。……なんか、もし付き合えたとしても彼はこれから苦労する気しかしないね」
「「亜蘭君、本当にご愁傷さまです!!!」」