第一章 『神社』 ①
Sorry. Sorry! I`m late!
聞き慣れた英語のCDが、過去に戻れたことを証明した。
20XX年12月23日。この日、僕の学校では数学の小テストがある。
勉強の苦手な僕は一巡目、テストの前の時間に仮病を使うことにした。
で、先生にばれてテストを受けさせられた。当然一問目からわからない。
ふつうの人なら「昨日のうちに勉強しとけば…」などと、後悔するのだろうが僕は違う。
僕の性格上、おそらくもう一度前日からやり直してもまともに勉強しないだろう。結果は同じなら戻る必要はないように見えるが、タイミングが大事だと僕は知っている。
僕はテスト当日の朝に戻って仮病を使うために、学校帰りに神社に寄った。その神社には小さな公園がある。公園といっても少し遊具があるだけだが、そのうちの一つの遊具に秘密があることを僕だけが知っている。僕は、過去に戻るために強く願いながらブランコを本気でこいだ。本気でこいだ時にこのブランコにのっている人は、願った過去に戻ることができる。
よって僕は、テスト当日の朝に戻れたわけだ。
英語のCDの流れる我が家の朝は、冒険や恋愛物語の主人公と違い、至って普通だ。父親がコーヒーを飲みながら新聞を読み、母親が鼻歌交じりに僕の弁当を作ってくれている。
いつものなら、あくびをしながらリビングの机にむかい「おはよう」とあいさつするのだが、当然そんなことをすれば学校を休むことはできない。
「健也、もう起きないと遅刻するわよー」
「今日…ちょっとしんどいから…学校は…」
ここで”休む”という言葉を口に出さないのが、仮病で休みまくっている僕のテクニック。他の家庭はどうか知らないが、我が家の場合は簡単に休ませてくれる。専業主婦の母親が、一日中家にいるため無理に学校に行かす必要がないのだ。
「しんどいなら、学校に休みの連絡入れなきゃねー。えっと、ニ年五組で…二十四番だっけ?」
「うん…あってるよ、ありがと…」
ほれみろ、熱出ているふりをするだけで簡単にさぼれる。まあ、高ニにもなって仮病を使って、罪悪感がないといえばウソになるが…{嘘も方便}という言葉もあるし問題ないだろう。
ここからは、僕も知らない世界。一巡目で体験しなかった、仮病でテストを受けない世界の始まりだ。といっても、寝たふりをしないといけないから遊べるのは母親が買い物に行く時くらいかな。
いま十時くらいだろうか、母親が買い物に行ったようだ。やっと、仮病のふりを中断できる。
「んんっ~、良く寝た。おっ、外めっちゃ晴れてんじゃん、散歩して―」
外の空気吸いたくなった、とか言えばいいか、ばれたときには。
僕は、仮病を使っておいてわがままな話だけどちょっと近所を散歩することにした。
どうせ行くなら、例の神社言って過去に戻れたお礼を言いに行こう。