6.見え切った欺瞞、疎外と感化
学校の人気者である束間がただの大きな布にされ、リーダーシップをとる人もいなくなった。
クラスの中から異能探しが始まる。
〈お前だろ!〉
〈いや、俺じゃねぇよ〉
〈こ、怖いよぉ〉
〈とりあえず異能のやつ出て来いよ!俺たちはあんなになりたくねぇんだよ!〉
犯人捜し。大多数の言葉の暴力。矛先は…
僕に向いた。
〈なんかお前いつも授業とか上の空だしなんか隠してんじゃねぇのか?〉
〈なんかいつも様子おかしかったよね〉
〈っていうかお前このクラスにいらないわ〉
〈お前早く出ろよ、どうせお前ならだれも悲しまないって〉
〈クラスの中でも浮いてるんだからもういいじゃん〉
僕が…出る?異能持ちじゃあないのに?いや、周りから見たらそう見えたのかもしれないが、さっきの周りの発言の中におかしな言葉が混ざっていなかったか?
人柱になれと言っているのか?このクラスで僕はそんな立ち位置にいたのか。
厄介者扱いか。いや、同じクラスにいるだけの赤の他人だったのか。確かにそうなるような振る舞いしかしていなかったが。
もしかしてあの口論の時、皆がひそひそ話していたのは僕への不満だったのか?
疎外感。
このクラスには友達もいなければ、話したことある相手もいない。それでも人柱になれというのはおかしな話じゃないのか?
「いや、僕が出るんじゃなくて本当の異能持ちの人が出ればいいんじゃないの?」
質問。
〈知らねぇよ!出てこねぇからとりあえずお前行けよ〉
拒絶。
「ねぇ、誰が異能持ちなの?いるんでしょ?出てきてよ」
質問。
〈…〉
隔絶。
味方はいない。まるでクラスメイトにいじめられているようだ。
今、僕の脳は心は絶望と心外に侵されている。だが流石僕。この期に及んでまだ自分には何かがある、自分には何かができる。この状況を打破できると思い込んでいる。
もしかしたらこのDABとかいう狂乱していそうな集団が、何か僕に才能を見出してくれるのではないか。何かの間違いで異能の集まりを倒すことができるのではないか。
とりあえず何かしらのアクションを起こせばあるいは?
心と体は正反対。一歩も動けなかった。いや、そうじゃない。逃げるためにしか体は動きそうになかった。
情けない。非日常を味わいたいと思って、実際に直面すれば動けない。愚直で愚鈍だった。このまま僕は人柱になるのだろうか。
いやいやそんな簡単に殺されるような人間じゃないはずだ。特別な人間なんだから。打ちひしがれそうな心を鼓舞するが、全く動けない。
「ねぇ、こいつもやったらいいの?どうすればいい?」
と、噺が校長に話しかけたその時。
「…私です。私が異能持ちです」
そう言っておずおずと手を挙げたのはスクールカースト最中点。いや、ヒューマンカースト最中点とも思えるような。そんな女だった。名前は弌川、だったはず。特に何かに秀でていることもなく、落ちぶれていることもない。
すべてにおいて平均点、いや、中間点の存在だ。
クラスのだれもが存在を認識していなかった。普通過ぎるとはそういう事だ。実際、顔も見た目も全く覚えていなかったようで、弌川への周りの視線は怪訝だった。
視線もまともに浴びたことないのだろう。体が強張り、体が震えていた。
なぜここまでの大ごとになるまで異能として出てきてくれなかったのか。これじゃあ今後のクラスの空気が不穏になってしまう。
まぁ、僕が死ぬ前に出てきてくれて本当に助かった。
「弌川さん…?が異能持ちでしたか。お待ちしていました、ようこそDABへ。それではベースへ帰投しましょう」
良かった、このまま帰ってくれるのか。僕がいなくなる前に弌川さんが出てきてくれたのはやっぱり運命なのかもしれない。僕は特別なんだ。
「あ、その前に皆さん。これを知られてはまずいので、あなたたちにはいなくなって貰います」
とっても和やかで丁寧な口調で校長は話す。言葉は生徒全員が望んでいた優しい言葉とはかけ離れていた。