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1.葦名の悪癖、ハゲとの口論

「はぁ…なんか面白いこと起きないかなぁ」


 朝二限目の授業。学校の授業中という集中しなければいけない時間帯に綺麗な空を見て妄想にふける学生一人。それが僕、葦名衣だ。


 授業中にもかかわらず、机に伏しながら空を見つめるその格好からは容易に怠惰を見て取れるだろうが、しかしながらそんな状態を見ていても優等生だと感じ取れる。


 特に服装を着崩しているということもなく、校則に則った恰好でネクタイを春夏秋冬構わずつけ続けていて、眼鏡もしている。

 なんか見た目的にもそれっぽいし。


 まぁ、実際のところ僕は優等生でもなんでもなく、むしろ性格的にも態度的にも最悪な人間なのだが、それは後々見えてくるだろう。どうせ見た目のメッキなんてそう長く保たれるものではない。


 …一時的にでもコーティングできると考えると、見た目の力は偉大過ぎるのかもしれない。そう考えると伊達の眼鏡も捨てたもんじゃないな。いや、僕はちゃんと度が入ってる眼鏡かけてるけどね?


「おい葦名!そんなに暇なのか?」


 好き勝手な妄想をしていた脳内は、罵声と濁声で現実に引き戻された。入学してからずっとこの調子だったので、流石に今日で我慢の限界だったのかもしれない。


 中年デブ禿説教教師。クラスの嫌われ先生ポジションの象徴みたいな先生が目をかっぴらきながら僕の机の前に立つ。


 やはり、結局アルバートさんが言った通り人間というのは見た目が9割を占めている。


「いや、別にそんなに暇ではないですけど……」

「じゃあノートをしっかり取れ!高校入って初めてのテストが近いんだ!初めのテストから赤点なんて取りたくないだろ?」


 そういうとニヤニヤと挑発的な笑顔を顔に浮かべる。おそらくこれで僕がはいすいませんでしたって謝ると思っていたのだろう。


「え、ノートちゃんと取ってますよ」

「はぁ?そんな風に空を仰いで、ノートが取れるわけがないだろう!」


 そう言って僕の手元からノートを取る。そして顔が羞恥で赤くなる。僕がしっかりとノートを取っていたばっかりに先生に恥をかかせてしまった。申し訳ないなぁ。


「……ノ、ノートを取っていればいいってことじゃないぞ!しっかり話も聞いておけ!」

「はい。今後はバレないように話聞かない事にしますね」

「っーーー!もういい!」


 やり場を失った怒りと羞恥をぶつけるかのように葦名の机を叩く。周りの空気が少しひりつく。眉をひそめてひそひそと話す小さな声が教室の中に渦巻いていく。


 全く机を叩くなんて暴力的なことやめてほしい。今のご時世これだけでも体罰として訴えられるのに、一番後ろの席まで来てまですることがこれか。


 いやぁ、自分より身分が上の人間を馬鹿にするのはやめられない。だって性格悪いから。

いや、こんな性格なのが悪い。


「はい」


 ほら、メッキがどんどんと、ぼろぼろと崩れていく。第一印象が良くとも、それが剥がれれば結局そこまでなのだ。


 刺激の足りない毎日に飽きてきているのか。非日常を常に求めて生きている。そして、何かが起こった時僕は周りよりも優れた才能を手にするだろう。少なくとも僕は特別な存在だから。


 こんな妄想をするのは、そういう年頃と言ってしまえばそういう事なのかもしれない。だからこんな性格なのも仕方がない。また妄想に耽る。


(なんかいきなり起きないかなぁ。何人か突然死ぬくらいでも良いんだけど。)


 そんな妄想してまた空を見上げる。


 空に呆けているうちに、時間が過ぎていき昼休みになる。うちの学校には食堂があるのだが、そこでは食べないようにしている。


 なぜなら、そこで食事をとると在校生の数に反して席が全く足りておらず、相席をしなくてはならなくなる。それに加え、相席する人はもれなく話しかけてくる。


 毎秒誰かとコミュニケーションしないと死ぬ病気にでも罹っているのだろうか。人と関わるのは時間の無駄だというのに。


 だからいつも弁当は地下で食べている。校舎の地下には図書館と空き教室があり、空き教室には基本的に誰もいない。というか誰かに遭遇したことがない。


 今日もそこで昼食をとろうと思い地下の教室へ行くと、珍しいことに先客がいた。


「懐かしいなぁ。でもなんか異常に綺麗。ここは清掃区域じゃないはずなんだけど…」


 ノスタルジーに浸っているようだ。それにしても人がここにいるなんて珍しいと思い、少し注目しているとこちらに気付いたらしく、


「おぉ、ここ使う人いたんだ」


 と、笑みを浮かべながらこちらに話しかけてくる。


「…どうも」

「あぁ、誰かと思ったら葦名君じゃないか」

「え、あ、はい」

「なんで名前を知っているのかだって?それは同じクラスだからだよ?」


 心を読んだかのような話し方。いやその前に話したこともないのに馴れ馴れしい。


「そうですね」

「つれないねぇ。もっと話しようよ」

「話すの嫌いなんで」

「知ってるよ?クラスでも一人だけ自分から孤立してるもんね」

「そう思ってるなら放っておいてください」

「私の事知ってる?」


 …なんだこいつ。

因みに僕は中年デブ禿説教教師に恨みはありません。悪しからず。

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