15.残酷思考なヤムチャ視点
恐怖心。それより好奇心が上回る。そこから目が離せない。しばらく見つめる。すでに鉄や肉の香りはすでに疲弊した鼻腔へは届かなかった。
「衣君、逃げてね。きっと少しは時間は稼げると思うからさ。そうだね、間間さんに助けを求めれば多分助かると思うよ」
「へ?」
そう言って僕の右手に左手を重ねてくる。いきなり握手?とおどけた事をかんがえた僕の手の中に納まったものを見てその考えは吹き飛んだ。
先のふざけた思考を一新する。それでも言葉の真意を読めなかった。
ただ、切羽詰まった状態なのは理解できた。初代さんの顔からは普段の優しさが消え、目をぎらつかせ少し苦笑いをしながら玉のような汗をかいていたから。
それでも、僕は山の上に腰掛けるものから目を離せないでいた。
人間。
罰点印のマスクにスーツ。蠢いていると思っていた右手で弄んでいるのは神経がつきっぱなしの人間の目玉。左手に持っているのは血の滴るナイフ。あの時話の輪に混ざらなかった唯一の男だった。この異常な光景に僕は後ずさりするしかなかった。手の中の電話から罰点の視線を切りるため、背中に携帯を隠しながら適当に電話を掛ける。
【あ゛】
優しくも掠れたその声に吃驚し血で足が滑る。
尻もちをつく。
それを合図に始まる戦闘。先に仕掛けたのは初代さんだった。銃を二発撃ちこむ。が、噺と対峙したときのような精密さはなく、弾は二発とも明後日の方向へと飛んでいく。続けざまにもう一発、今度は狙いをしっかり定めて、打ち込む。それを予測していたかのように、罰点は文字通り尻に敷いていた人間で受け止める。
全くと言っていいほどその行動には躊躇がなかった。むしろ楽しんでいるようにも感じる。
しかし、罰点の隙を見逃さず、初代さんは直接の攻撃を仕掛ける。罰点の視界は今銃弾を受け止めるために持ち上げた死体で一杯。そこを突いた。おいてあった机を足蹴に、跳躍する。
ただ、うまく跳躍できなかったのか体勢を崩してしまう。そこに罰点は手に持っていた死体を投げ捨て、次の動きを待った。初代さんはギリギリ死体に対応し、それを受け止め、バランスを崩しながらもどうにか着地した。そこに罰点は追い打ちをかけた。左手から何かを投げられる。
ナイフと思われる投擲物を体をひねり最低限の動きで避ける。しかし、それはべちゃりという音を立てて潰れた。
眼球。玩具が道具へ昇華した。
上から罰点が飛び降り、蹴りを浴びせようとする。が、初代さんは飛びのきながらその攻撃を躱す。しかし、今度こそバランスを崩してしまった。
「がっ…」
そこに罰点がナイフを振りかざしながら馬乗りになり、初代さんは押し倒される。
初代さんは背を床に押し付けられた衝撃で肺の空気が押し出されたのか、苦悶の表情を浮かべている。危機的状況。男が女に馬乗りになった場合、逃れるすべはゼロといっても等しいだろう。
左手に携えたナイフが初代さんの心臓をめがけて振り下ろされる。右手は初代さんの脇腹を抉ろうと打ち込まれる。初代さんはナイフを振り下ろす手を両手をクロスして受け止める。が、どちらも守れるはずもなく右手は受け入れる。
しかし、攻撃を受け入れるだけではない。初代さんは、そこで遊ばせていた足を罰点の首へと絡め自身の上体を持ち上げる。それとともに後ろへと無理やり倒す。
全ての攻撃が早い。目で追うのでやっとだ。ヤムチャ視点の僕をよそに、戦いは熾烈化していく。
初代さんが上になったところで縦拳を罰点の顔めがけて振り下ろす。が、その拳を止めて初代さんが罰点から飛び退く。何があったのかと罰点のほうを見ると、罰点が顔の前にあらかじめナイフを用意していた。もしそのまま縦拳を振り下ろしていたら、手をナイフが貫通していただろう。
「…強いですね」
罰点へと話しかける。が、首を縦に振るだけで言葉は発さない。
「少し話をしませんか?」
罰点は首を横に振り、立ち上がる。
「そうですか。多分私あなたの能力分かったんですけど…どうです?私の推理聞いてみませんか?」
罰点は少し訝しげな顔をし、臨戦態勢を解く。そして名も知らぬ元クラスメイトをわざわざ山から引きずり出し、その上に座る。その時初代さんが僕のほうを一瞥する。何だ?僕の表情をうかがったのか?
しかしそこから僕に向かって何も言うことはなく、また罰点のほうを向きなおす。罰点は暇だったのか、下の死体の両の目を手でくり抜き、それでお手玉を始める。
「…それやめてもらっていいですか?見ててあまり気持ちいいものではないので」
初めて初代さんが辛辣な言葉を吐く。それに合わせて溌溂とわざとらしいリアクションを取り、死体の上で正座する。
正直僕のほうが初代さんの攻撃的な発言に驚いてしまった。全員に優しいわけじゃないんだな。しっかりと間違えは指摘してくれるのか。




