完璧な彼女
「なにが不満なのですか」
彼女は深い海の色をした、ほとんど黒く見える大きな眼を僕へ向けてそう言った。
悲しそうにではなく、二割の怒気と、一割の苛立ち、そして七割の不可解さをたたえながら、しかし、それらをほぼ無表情の下へ抑え込んで。
「いや、それでいいんだ」
「なんのためにわたしを注文したのです」
「もちろん、フルオーダー彼女として」
そう、彼女は特注品だ。万人がうらやむ理想の女性像ではない。
ちょっと顔立ちキツすぎじゃないのとか、もっと可愛らしいほうがいいんじゃないかとか、細すぎるだろうとか、胸小さすぎだろとか、背を高く設定しすぎてないかとか、全然笑わないんだけどとか、愛想悪いぞとか言われるが、当たり前だ。
僕は君たちのために彼女をオーダーしたのではない。みんなのアイドルにするためでも、フェミニズムに迎合するためでも反発するためでも、ましてダッチワイフにするためじゃない。
彼女は僕にとって美の理念であり、具現だ。そしてそれは、見た目だけのことではない。
「わたし以外のオーダー彼女は注文主と密接な親愛関係を築いている。あなたの目的は、いったいなんなのですか」
「君にそうやって存在していてもらうことさ」
「意味がわからない。あなたが必要としていたのはフルオーダー娘だったのではありませんか。存在していること以上の望みはないというのは、親が我が子へ向ける感情でしょう」
「親子の関係っていうのは、そんなに単純じゃないよ。保護者としての義務を果たさなきゃならないし、期待もかけてあげないと伸びない。かといって、プレッシャーで押しつぶしてもいけない。難しい、僕にはとても無理だ」
彼女の柳眉が、気持ち吊り上がった。
「わたしは、なにも望みをかけられていないと?」
「前の彼女は、そう言って出て行ったんだ」
「あたりまえでしょう。わたしだって人間であったなら、わたしを望んでくれる他のだれかを選ぶ」
「だからオーダー彼女にしたんだ」