幸運の剣士をあなたに。
雲ひとつ無い青空を眺めて。
今日の仕事が終わるまで、空はそのまま青いままで。
そんな事を願いながら、緑の芝生を転げ降りる。
いい気持ちだ。
馬鹿みたいに見えるけど、凄くいい気持ち。
僕の名前はレニー・フォーチュン。19歳の剣士だ。
フォーチュンなんて名前が付いているけど、18歳までの僕は全然幸運とは縁の無い冴えない男。
生まれた時から両親がいない僕は、15歳まで施設で育った。
見た目は不細工、勉強もスポーツもダメ、自分に自信が無かったから人と話すのも苦手で、彼女は勿論、一緒に遊ぶ友達もいない。
自分は何をやってもどうせ上手くは行かないと、結局小さな努力すらしなかったし、毎日いじめられて部屋に閉じこもっているのが辛くて、隣街のウェイビルまで家出しちゃったんだ。
勿論ウェイビルの街でもする事が無かったから、小さな教会に入って、優しそうな神父さんに悩みを聞いて貰って御祈りしたら、突然真っ白な光に包まれて、気が付いたら僕は生まれ変わっている。
背が伸びて、顔も格好良くなって、知らない間に僕は剣と鎧を身に付けていた。
神父さんは「貴方に幸運を授けました。この幸運を皆に分け与えてあげて下さい」と言い残して消えちゃったけど、格好良くなった僕は剣を持つと自信が湧いてきて誰とでも話せたし、剣を振っただけで悪党を退治出来る力も持っている。
僕は街一番の剣士になって、お金も稼いだし女の子にもモテモテ。
自分の力は幸運で身に付いただけだったんだけど、その時は皆に幸運を分け与えてあげるという意味が分からなかったんだ。
18年間の鬱憤を、晴らす事ばかり考えていたから。
ある時僕は、僕に弟子入りしたいという、2つ歳下のパットという男の子に出会う。
パットは格好良くて、頭も良い。
人柄も誠実で、何より物凄い努力家だった。
剣は僕の方が強かったけど、すぐに追い抜かれると思っていた。
僕は努力をしていなかったから。
ある日パットは腕試しに、悪評高い強盗を退治する事になった。
周囲はパットにはまだ早いと注意していたけど、僕はパットが負けるとは思わなかったからパットは1人で仕事に行き、僕は女の子とデートしていたんだ。
その日の夜、パットは瀕死の重症で発見される。
強盗が仲間を隠していて、挟み撃ちにされたパットは背中を刺されて、一生車椅子の生活になってしまう。
僕は自分に腹が立って腹が立って、2人の強盗を何回も何回も斬って、そして1日中泣いていた。
僕は仕事を休んでパットを介護し、神父さんに言われた通り「パットに幸運を分け与えてあげて」と祈り続けた。
暫くすると僕の買った宝くじで大金が当たり、パットの生活の不安は無くなった。
そのお金で雇ったヘルパーさんと意気投合したパットは互いに結婚を誓い合い、車椅子生活でも幸せを手に入れた。
僕はそれから、皆に幸運を分け与えるという事が、どういう事なのか考える様になる。
パットの様な幸運は、そう何回も起こらない。
僕は昔の僕を思い出し、誰にでもいつか訪れる幸運を信じて貰うという事にこそ、幸運を分け与える意味があると考えた。
僕は今までやっつけた悪党達のお墓に行き、頭を下げて謝罪した。
これからは命を大切にする、と、今更馬鹿みたいな誓いを立てた。
その後、街で最強の悪党が現れた時、彼の生い立ちが僕にそっくりだと気付く。
両親の顔も知らず、何の取り柄も無くいじめられ、それにいじけて努力もせず、生きる為に泥棒を繰り返して自信を付けていただけの人生だった。
僕の幸運は今でも続いていたから、街で最強の悪党も僕の敵では無かった。
でも、僕は彼をそもそも敵にしてはいけないと思っていた。
彼が僕の剣で壁に吹き飛ばされそうになった時、僕は自分の身を挺して彼を庇う。
予想していたより少し痛かったけど、それでも彼は助かり、何故自分を助けたのかと、僕に訊いてきた。
『僕は18歳まで最悪な人生だったけど、19歳で最高の人生になった。でもそれは、ただの幸運のおかげ。誰にでもいつか訪れる幸運を信じて、1日でも長く生きていて欲しい。これを伝えるのにふさわしい人は、きっと他にいたと思うけど、今、目の前で救えるのがあなただけだった』
と、正直に彼に話した時、パットの事や、かつて調子に乗ってやっつけてしまった悪党達の事を思い出して、自分が悔しくて涙が止まらなくなってくる。
圧勝して、決めセリフも吐いたのに涙が止まらない僕は凄く恥ずかしくて、そのまま走って逃げた。
お金も受け取らずに走って逃げた。
あれから3ヶ月、僕は久しぶりに剣士の仕事の依頼を受ける事になる。
皆に剣の先生になって欲しいと言われたけど、それは絶対無理だ。
僕は実力で強くなった訳じゃない。
いや、そもそも僕は弱いままなのだから。
僕がいつの日か幸運を使い果たしたら、きっと僕は昔の僕に戻ってしまうのだろう。
でもその時は、誰かに幸運を分けて貰える事を信じて1日でも長く生きようと思う。
それにしても、本当に良い天気だ。
これだけ天気が良かったら、1人で車椅子を漕げる様になったパットも散歩に来るだろう。
僕は全身芝生まみれになりながら、これから戦う相手を救える事が嬉しくて、でも恥ずかしくて堪らなかった。