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017.ジムの事情

 色々あって、ようやく我が家に戻って来た私たち。

 ルカの事前の準備によって入念に立ち入りが規制された部屋には、私、グレイ、ルカ、ジムくん、そして何故かサムくんの5人が集っていた。


「いや、どうしてサムが居るんだよ。良いのか?」

「ジムに話を聞くんなら、オレだって居た方が良いに決まってるだろ! 文句あんのかよ」


 グレイが親指で軽くサムくんを指すと、サムくんは腕を組んでグレイを睨みつけた。ジムくんとの兄弟喧嘩を目撃したのが最初だったせいもあって、私の中で結構喧嘩っ早い印象になっているサムくん。

 でも、私がジッと見つめていると、ハッとしたように居住まいを正した。


「ご、ごめんなさいお嬢様! お嬢様がダメだって言うんならオレ、外に出てます……」


 その殊勝な態度に、申し訳なくなってしまう。

 そもそも、実年齢から言えば私よりもサムくんの方が年上だ。

 立場的には確かに私の方が上なのかもしれないけれど、だからと言って年上の人を傅かせる趣味はない。


(でも、確かにジムくんに確認したいことって、結構ナイーブなところがあるし、サムくんがいると困っちゃう……かな)


 今現在私たち、特に私とグレイは、ジムくんに関してあることを疑っている。

 その予想がもしも当たっていたとしたら、私たちの事情も説明する流れになる可能性がある。その時、多分だけれど関係のないサムくんを巻き込むのは良いこととは思えないのだ。

 だけど、今のサムくんは理由は分からないけれど、私に対して素直な態度だ。なら別に、サムくんが同席しても構わないのではないか、と思わなくもない。


「うーん……グレイはサムくんの同席は反対?」

「そうだな。俺はあんまり想定外の要素を増やすべきじゃないと思う。ただでさえジムがとんでも要素をブッ込んで来てるしさ」


 グレイの言い分は、私の中の最有力候補に近い。

 未来に発生する可能性のあるイベントすべてが分かる訳ではない以上、当然の判断とも言えよう。


「ルカはどう思う?」

「我々がこの事態を認識するに至った出来事の当事者ですので、彼の話も聞くべきかと」


 ルカの言い分も分かるんだよね。

 ジムくんが、とんでもない魔法の使い手である、ということに気付くキッカケとなったのは二人の喧嘩だ。あれがなければ、私たちはまったく関係のないところをずっと探していただろうから。

 そして、本当の発端は私たちの関知していないところで始まっていて、それを知る人は、ジムくん本人を除けば、サムくんとポーラさんしかいないのだ。


「うーん……ジムくん」

「何だ?」

「私たち、これから貴方に結構ナイーブな質問をするつもりなんです。それに答えてもらう時、側にお兄さんは居ても大丈夫? ジムくんが望ましくないと言うのなら、サムくんには出てもらいます」


 そう言うと、ジムくんは少し考えるように目を伏せて、サムくんは憎々しげにジムくんを睨んだ。まだ詳細は聞いてないけど、何となくサムくんの気持ちが分かるだけに、ちょっと申し訳ない。

 私が恨まれるように話を進めることも可能なんだろうけど、残念ながらその手段が分からないので、ジムくんには許して頂きたい。


「いや、兄さんが居ても構わない。あまり大ごとになると困るかと思って伏せていただけで、別にどうしても隠したい訳じゃないんだ」

「そう、分かりました。……そう言うことだからサムくんも同席してくれますか? ごめんなさい、気分を害するような物言いになってしまって。もし不愉快だったら、文句は幾らでも受け付けます」


 サムくんのほうを向いて言葉を続けると、サムくんの表情がパッと困ったように変わった。器用なものだ。


「と、とんでもない! オレのことは気にしないでください!」

「じゃあサムは空気ってことで話を進めようか」

「お前には言ってないぞ! グレイ、お前も年下のクセに生意気だぞ!」

「サムくん。グレイはその辺り緩めなので、見逃してあげてくれませんか?」

「はいっ!」

「……チョロ」


 いや、私もそう思うけど、グレイ何でちょっとサムくんに喧嘩腰なの? 中身はもうちょっと大人でしょ、あなた。

 ジトッとした視線を送ると、グレイは茶目っ気たっぷりに笑ってみせる。……伝わっててこれなんだから始末に負えない。

 まぁ、元気ならそれに越したことはないから良いけど。


「それでは、お嬢様。まずは何から尋ねましょうか?」

「うん、じゃあ私から直接聞くね」

「かしこまりました」


 ルカが代わりに聞いてくれるつもりだったみたいだけど、ここは私が聞くべきだろう。ルカの手腕を疑ったりはしてないけど、これだけは譲れない。公式の場でもないし。


「じゃあまずは、これだけは聞いておかないといけませんね。……ジムくん」

「ああ、何だ?」

「貴方は、何者ですか? 何故、そのような優れた魔法を扱えるの?」

「うーん……そうだな。何て言えば良いのかな」


 室内を、一瞬の沈黙が満たす。

 5歳という、魔法適正の検査さえ行われていない幼い少年が、大人ですら難しい魔法を、いとも簡単に操ってみせるその手腕。まず、通常の子どもであれば有り得ないことである。

 何故なのかと考えてみた時に、私とグレイという特殊な生い立ちの二人の導き出す答えは一致していた。即ち、彼は私たちと同じなのではないか、という。


 根拠は、私たちはジムというキャラクターを知らない、という一点に尽きる。

 彼が私たちと同じで、エリサガというゲームのプレイヤーだったのなら、私たちと少し違う目線でプレイしていた為に魔法の鍛え方などに精通していて、それを実践していたとしたら、その有り得ない魔法の腕に説明がつくのだ。


 だけど一方で、説明のつかないこともある。

 それは、どうやらジムくんが私たちを知らない、ということである。

 普通のエリサガプレイヤーなら、暗殺者グレイ、獣王国の悪魔ルカスウェドの二人は知らなくても、悪役令嬢エカテリーナを知らない、ということはまず有り得ない。それくらいエカテリーナは情報的に割と出しゃばってるのだ。

 本編開始時に既に死んでても、物語の何処かで必ず死因について語られるという恐ろしい仕様。……スタッフの歪んだエカテリーナへの愛たるや。ドン引きだよ。


 ……話が逸れた。

 えーと、とにかく私とグレイは、ジムくんがエリサガプレイヤーの転生者なんじゃないかと疑ってる訳だ。


「アスルヴェリアではあまり浸透していない考え方だが、『転生』という言葉を知っているか?」

「転生……亡くなった人の魂が別の命へ生まれ変わるということですね」

「ああ、それが俺なんだ。とは言っても、普通に転生すれば、前世の記憶なんてない。俺は自分から転生魔法を使って転生したんだ」

「え? それってつまり……」


 私とグレイの考えは、半分当たりで、半分外れていたようだ。

 ジムくんは、転生者ではあっても、エリサガプレイヤーじゃなかった。


「聞いたことくらいあるだろ? 大賢者フェルティナンド。あれが俺だ」


 ――そんな、大賢者フェルティナンドって……、


「みんな、聞いたことある? 私、知らないんだけど……」

「えっ」


 あ、ごめんなさいジムくん。表情を凍り付かせてるところ悪いんだけど、私世事に疎くて。

 慌てて周囲を見回すと、グレイとサムくんも首を傾げていた。


「知らないな、そんな人の話。多分、凄い奴なんだろうなーとは思うけど」

「オレも知らね。おい、ジム。テキトーなこと言ってるんじゃないだろうなぁ」

「え? 嘘だろ? 俺が転生魔法使ってから500年くらいしか経ってないぞ? それで、竜殺しとかすべての魔法を極めた話とか、全部途絶えるのか?」


 今までの中で、一番ショックを受けた顔をしているジムくん。

 それこそ、ラノベの主人公みたいな功績を持っていたらしい。か、可哀想に。同情くらいしか出来ないのが申し訳ない。


「……いえ、少々よろしいですかジム」

「何だよ。今、滅茶苦茶ショック受けてるんだから放っておいてくれ……」

「お師を……ディアリアサナス・リントレンという悪魔を覚えていますか? その最期は?」

「ディアリアサナス……?」


 ルカが、妙に深刻そうな表情でそう尋ねる。

 ディアリアサナス・リントレン。

 私は知らない名前だったけど、グレイがそっと耳打ちしてくれる。


「ルカルートで出てくる名前だな。ルカが子どもの頃に面倒を見てくれていた最強の悪魔で、天上地上地獄問わず暴れ回って、ブイブイ言わせてたんだとか」

「そうなんだ。……ブイブイって表現、古くない?」

「どつくぞ」


 うん、今それどころじゃなかったね。ごめん。

 エリサガ講座では、ひとまず重要ってことでアスルヴェリアのルートの、しかも概要だけしか押さえてないから、私は他のスタート地点のキャラクターに関しては良く分かっていない。でも、雰囲気からすれば、名前まで覚えてるグレイが凄いんじゃないかなって情報っぽい気がする。普通、攻略対象の過去に関わる故人って、そこまで名前登場しないものだもんね。


「ああ、覚えてるよ。俺が転生しようって決めたキッカケだ。最期は……俺の仕掛けた対侵入者用魔法罠にかかって魂が四散したんだったか。しかも、俺がふざけて設置したバナナの皮を踏んで転ぶと発動するって罠だったから、凄く怒ってたなぁ……こんなくだらないことで死ぬなんて有り得ないとか何とか」

「……まさか、本物のフェルティナンドなのか……」


 ルカが愕然とした表情で呟いているけど、私はそれどころじゃない。

 あれ、私の耳がおかしくなったのかな。

 ルカの師匠、最強の悪魔って言ってなかったっけ? それが、バナナの皮で滑って転んで死んだの? 嘘でしょ?


「いやぁ、あの人とは気が合ってたから、俺も流石に哀しかったね。だから、是非ともまた戦いたいと思って、転生することにしたんだ。あの頃、世界には俺と張り合えるレベルの強者はあの人くらいしか居なかったからつまらなくて」

「え? あの、ジムくん?」

「ん? どうかしたのか、お嬢様」


 すっかり言葉を失ってしまったルカはとりあえず置いておいて、私は信じがたい事実を確認する。

 聞き間違えだと良いんだけど、聞き間違えじゃない、よね。


「貴方今、戦いたかったから転生したって言った? まさか、転生魔法って凄く難しそうに聞こえるけど、つまらないからそれを実行したんですか?」

「そうだけど、何かおかしかったかな?」


 …………。


「おかしいよ!? 普通におかしいよ、それ!?」

「お、落ち着けエカテリーナ! ちょ、ジムお前、本気で言ってるのか? 冷静になって、もう一回教えてくれないか、転生理由!」


 キーッと叫び出す私を抑えながら、グレイも頬をひくつかせつつ尋ねる。

 何でそんなことを聞かれるのか分からない、といった表情でジムくんは答える。


「俺は元々才能に恵まれてなくてさ」

「うん」


 才能に恵まれてない人が、そんな物凄い経歴を得ることになる訳ないでしょ、とかツッコミはとりあえず置いておこう。疲れそうな気しかしない。


「悔しくて滅茶苦茶鍛えてたら、ある時から誰にも負けなくなって、」

「うん?」


 もう二口目からツッコミたくて仕方なくなる。

 だから、その間に何が起きたのよ!?


「とりあえず田舎に居たらどの程度強くなったのか分からないから都会に出たんだけど、誰も俺に勝てなくて」

「ああーっ!」

「落ち着け、エカテリーナ気持ちは分かる!」


 チートだよね、これ。

 本人に全然そんな気ないけど、自慢だよね、これ!

 転生してたった5年でようやく慣れてきたと思ったら死亡フラグ目白押しだよ、って分かった私に対するイジメですよね分かります!


「そのままなし崩し的に魔王を倒したり邪竜を倒したりしてたんだけど、誰も俺に勝てないからつまらない生活を送ってたよ。ひとまず永遠に近い命は手に入れて、修行に修行を重ねてもそれを発揮出来るだけの相手にも恵まれなくて」

「止めないでグレイー!」

「待て、お前は公爵令嬢だろーっ!?」


 一発殴らせて、後生だから!


「そんな中出会ったのがディアリアサナスさ。あの人は強くて、とても楽しかった。俺も負けないくらい強くなろうって修行にも身が入ったんだ。それが、まさかあんな終わりを迎えるなんてな」

「ふーっ、ふーっ」

「その調子で抑えろ、エカテリーナ。……で、転生することに? どうして?」


 グレイの疑問に、ジムはキョトンとして答える。


「え? 男なら、普通最強に憧れるだろう?」

「ん?」

「その時は俺が最強になったのかもしれないけど、未来じゃ分からないだろ。もっと強い奴がウヨウヨ居るかもしれない。だから俺は、転生することにしたんだ。その頃には、ディアリアサナスも転生しているだろうしね!」


 …………。


「結構なご身分ですことー!!!」

「さっきから、お嬢様は何を怒ってるんだ? 良く分からないんだが……」

「え、何なのジムお前。無意識に火に油投下しまくってるんだけど」

「え? 何で?」


 いや、八つ当たりなのかもしれない。

 私が彼に対して感じる苛立ちは多分、私の将来に暗雲が立ち込めていると分かっているからだ。死にたくない。死なない為に、この時間をすべて使わなければならない。息が出来ない。自由なんて一つもない。

 なのに、目の前の彼は、自分の自由な目的の為に、夢の為に、好き勝手に転生して、好き勝手に行動することが許されている。いや、そもそも許す存在なんてない。彼は、自由だから。


「お、おいエカテリーナ……」


 グレイが、ギョッとしたように目を見開いて、それから慌てた様子で私の背を撫でた。私はここに至って、自分が泣いていることに気付いた。

 グレイと出会えて、随分と楽しい時間を過ごすことが出来ていたけれど、それは多分、表面的で。私は、今まで気を抜けたことはないのだ。


「……何でもないです。ごめんなさい、ジムくん」

「あ、いや……別に構わないけど……」


 おろおろと視線を泳がせるジムくんは、そんなに生きて転生した人の精神を持ち合わせているようには見えない。それもまた、羨ましく思える。私は、人生を途中で奪われたのに。


 ――ズルイ。


「お嬢様!」

「……ルカ?」


 今度は、ルカが顔色を青くしながら駆け寄ってきた。

 きっと、それだけ師匠の話がショックだったのだろう。

 そう思って微笑みを向けると、ルカはホッと息をついた。


「お嬢様、ですよね?」

「何の話? 私よりも、ルカは平気? お師匠様の話、哀しかったんでしょう?」

「いえ、僕は大したことではありません。見ていたのですよ、最期の姿は。ただ、驚いてしまって……」


 苦笑を漏らすルカは、もういつも通りだ。

 良かった。ルカは大切な私の仲間だから。元気で居て欲しい。


「えーと、要するにジムくん……と言うかそのフェルティナンドさん? は、もっと強くなりたくて、でも戦えるような人もいなくなってしまったから、未来にその希望を託して転生することにして今に至る、と。そういう訳ですか?」

「ああ。そういうことだな」


 思わず呆れて溜息が出てしまう。

 いや、だってこの人、前世は立派に大人だった訳でしょう?

 そんな人が、俺最強になりたい! なんて理由だけで転生する? 普通最強目指すだろって言われても、それ多分特殊な普通だと思うよ。


「じゃあ、貴方が冒険者ギルドへ、大量に珍しい魔法薬を持ち込んでいた理由は何ですか?」

「あんなの珍しくも何ともない普通の魔法薬学で作れるけど……」

「この際、それが珍しいかはどうでも良いので、理由を教えてもらえます?」

「あ、ああ。分かったよ」


 私が泣いてしまったからか、ジムくんは怖気づいた様子で何度も頷いた。

 何だかその反応、腹立たしいんだけど、気にしない方向でいこう。話が早いし。


「俺が転生してから500年ほど経ったのはすぐ分かったけど、情報が圧倒的に足りてなくて。早く情報を仕入れるには、本を読むのが手っ取り早い。でも、今の時代でも本は貴重じゃないか。それを買う金が欲しかったんだよ」

「本? 聞いた話によると、相当お金はもらってたみたいだし、一回目の持ち込みだけで足りなかったんですか?」


 そう尋ねると、何だか残念なものを見る目で見られた。あの、不愉快なんですが。むくれる私に、ルカが補足してくれる。


「サンチェスター家はかなりの蔵書量を誇りますが、通常は一冊入手するだけでも、半年分の稼ぎが必要と言われています。ジムの場合、もっと遠いでしょう」

「そ、それくらいは分かるよ。そうじゃなくて、魔法薬の代金かなり高そうだったじゃない」

「いえ、一回目の代金では本一冊買える程度ですよ。情報を欲していたのなら、足りなかったでしょう」


 チラリとグレイを見たら、訳知り顔で頷いていた。

 し、仕方ないじゃない。相場はこれから勉強する予定だったんだもの。

 私は、赤くなったことを誤魔化すように咳ばらいをして、軽く頭を下げた。


「……ごめんなさい、不勉強でした」

「いや、謝る必要はないと思うよ。貴族のお嬢様なら、そうやって興味を持つだけ偉いと思うし」


 何故か、ジムくんにフォローされるのが屈辱的だ。

 決めた。常識も勉強しよう。


「それで、ある程度資金は貯まって来たけど、この町には丁度良い本屋が無かったし、軟禁されるわで面倒になったし、とりあえず王都に行くことにしてさ」

「え?」

「その為に、もう少しだけ資金が必要になったからギルドに行ったんだ。結果的に間に合わなかったけど」


 何だか、聞き捨てならないことを言った気がする。

 今度は私じゃなくて、サムくんが慌てた様子で怒鳴った。


「オマエ、やっぱり家出するつもりだったんじゃねぇか!」

「ほらー、兄さんは絶対うるさいと思ったよ」

「そういう問題じゃない! オマエ……母さんが、どんだけオレらのこと心配してたと思ってんだ!!」


 サムくんの怒りの声に、流石に申し訳なかったのか、ジムくんは眉を下げた。


「これでも母さんには心配をかけてるな、と思ってるんだよ。まさか、息子の一人が転生者だなんて思ってもみないだろうし。けど、俺は居ない方が母さんにも良いと思ってさ」

「勝手に家出した方が良いって? ……これだから、母さんが心配するんだよ」


 ギリリと唇を噛み締めるサムくん。

 私からすれば、サムくんの気持ちの方が良く分かる。

 とは言え、その辺りは家族の問題だから、私が口出しするようなことではないだろう。


「んー、予想以上の背景を持ってた訳だけど、これって俺たちにしてみれば結構良いんじゃないか?」

「良いって……どういうこと?」


 グレイが、ヒソヒソと私だかけに聞こえる程度の声で囁く。

 私が首を傾げると、グレイはニヤッと口の端を上げた。


「だって、ジムは情報を収集して、最終的には最強になりたいんだろ? でも、今はそれが出来ない状況に追い込まれてる。ほら、エカテリーナが提供出来る材料がこんなにあるじゃないか」

「なるほど、確かにそうかもしれないね」


 グレイの言葉に納得した私は、その方向で提案をすることにした。

 確認すべきこともまだあるけれど、私の先生にするにはこれ以上の人材は居ないだろう。……この際、人間性は置いておくとして。


「ねぇ、ジムくん」

「お嬢様も何か文句が?」


 げんなりした様子のジムくんに、私は微笑みを向ける。

 何故かビクッとしてるのが大層癇に障るけれど今は無視だ。


「本が読みたいですか?」

「え? ああ、うん。歴史書とか、地理に関する資料とか、出来る限り勉強したいな」

「出来れば大手を振って家を出たいですか? ポーラさんに心配をかけたい訳ではないんですよね?」

「そりゃあ、まぁそうだな。既に迷惑もかけてしまったし、これ以上は避けたい」


 それだけ聞ければ十分だ。

 私は深く頷くと、意を決して言葉を続けた。


「それでは、ジムくん。私が書庫を提供し、周囲へのとりなしを行いましょう」

「え? お嬢様が? ……どうして?」

「その代わり、私に魔法を教えてください!」


「……は?」


 私の言葉に、ジムくんは目を点にした。

 そして、しばしの静寂が訪れるのだった。

※作者が、ジムとサムを取り違えるミスが多発しています。

投稿前に確認していますが、逆になっている可能性もありますので、もし見つけた際は、ご指摘頂ければ幸いです。因みに、

ジム=チート。弟の方。大賢者(笑)で、

サム=チートじゃない。兄の方。です。

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