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011.お茶会終わりの反省会

「……悪いけど、もう一回説明してくれるか?」


 波乱万丈なお茶会を終えて帰宅すると、私は健やかな笑顔のグレイさんに迎えられた。そしてそのまま、やや笑顔の硬いルカに引きずられるようにして自室へ向かい、お茶会で起きたすべての出来事を、懇切丁寧に報告した。

 その結果が、今目の前の二人の、酷く微妙そうな顔である。気持ちは分かる。私もそんな顔したい。


「ですから、一応第一王子のフォローには成功したと思います。直に接触しちゃいましたけど。何か絡まれるようになりましたけど」

「うん。で?」


「第二王子には、普通に応対したつもりだったんですよ。何か、ちょっと興味持たせちゃったみたいですけど」

「うん。で?」


「第三王子は、完全に濡れ衣ですよ。すべては第一王子が変に絡んで来た影響です。そのせいで、第三王子と友だちになりましたけど」

「うん。で?」


「王様には、正直に言えって凄まれたので、とりあえず正直に言いました。そもそもわざわざ呼び出されたので仕方なかったんです」

「何なの、このお嬢様っ!?」


 ガーッ! と叫び出すグレイさん。どうどう、と宥めたら怒られた。酷い。


「軒並み想定外のイベント起こしてるじゃないか、バカじゃないのか」

「そ、そんなこと言われてもっ! そりゃあ、ゲームみたいに上手くいきませんよ。皆生きてるんですから」

「ちょっと良い風に話持って行こうとしても駄目だからー」

「いひゃいれふーっ」

「グレイ。やりすぎですよ」

「へーい」


 むいーっと頬を両側から引っ張られる。

 痛くはないけど、やめて頂きたい。

 怒ってる様子のグレイさんを、ルカが注意してくれはしてるけど、何かルカも不機嫌っぽい。……えぇー?


「不本意ですけど、私のせいで不確定要素が増えちゃったから怒ってるんですか……?」


 ヒリヒリする頬を撫でながら、おずおずと問いかけると、グレイさんは頭を抱えながら重苦しい溜息をついた。


「いや……ごめん。八つ当たり。俺がキミの立場でも、上手く出来た自信無いし」

「えっ、ど、どうしてグレイさんが落ち込むんですか?」


 思わずギョッとしてしまう。さっきまで、あんなに元気に私の頬を引っ張っていたのに。もしかして、情緒不安定なのだろうか。いや、そうもなるか。死亡フラグだらけだし。


「フルコンプした時にはさ、もうこのエリサガで分からないところなんて何も無いなって思ってたけど、全っ然思ったように出来なくてやりきれないんだよ」


 しかめっ面で吐き捨てるように言うグレイさん。

 何だか、目が据わってるように見えるんですが、大丈夫ですか?


「こうして実際に登場人物になってみると、不確定要素だらけで吐き気がして来るよな。ははは、今更ながらグレイルートの死亡フラグも全部折れるか不安になって来たぞははは」

「し、しし、しっかりしてくださいーっ!!」


 とうとう、グレイさんが変な笑いを上げ始めた。大丈夫じゃないよね、これ!?

 私は慌ててグレイさんの背中を撫でる。

 どーどー、落ち着いてー。


「……本当にごめん、エカテリーナ」

「え?」

「俺、キミの役に立てるってあんなに堂々と言ったのに。まさか、こんなに早速訳が分からなくなるなんて思わなかった……なんて、言い訳だよなぁ」


 ずーん、と肩を落とすグレイさん。

 私は、尚もその背を撫でながら、そっと彼の顔を覗き込んだ。


「そんなこと、気にしないでください。私、グレイさんと会えて、本当に嬉しいんですから」

「俺なんかと?」

「なんか、じゃないです。初めて会えた同郷の……しかも、同じエリサガプレイヤーです」

「でも、全然役立ってないじゃないか。ルカの方がよっぽどキミのこと助けてる」

「ルカには凄く感謝してる。でも、私に具体的な道を指し示してくれたのはグレイさんです。自信持ってください! 一緒に生き残りましょうよ!」


 ね? と言って微笑みかけると、グレイさんはしばらく考え込むようにして、それから弱々しくだけど、笑って頷いてくれた。


「ありがとう。俺がキミを助けるつもりだったのに、何だか俺の方が助けられてる気がするな」

「世の中持ちつ持たれつです。グレイさんが大変な時には、私が助けるので、私が大変な時には、グレイさんが助けてくださいね」

「……ああ、出来る限り頑張るよ。そんで、夢のニート生活を手に入れるっ!」

「その調子ですっ!」


 二人で、えいえいおーと拳を突き上げる。

 気合いでどうにかなる問題じゃないけど、気合いが無いと何も出来ない。

 この調子なら、とりあえず目の前の問題に向かって頑張っていけそうだなぁ、と胸を撫で下ろす。

 何にも解決になってないことは……分かってますけどね。


「そうだ、ところでエカテリーナって、前世は何歳くらいだったんだ?」


 ようやく落ち着いてお茶を飲み始めてからすぐ、ふとグレイさんが首を傾げた。

 そう言えば、前世の話ってあんまりしてなかったよね。

 私は前世の光景を思い出しながら、静かに答えた。


「高校生です。高校3年生の17歳」

「あれ、何だ。じゃあ、同い年だったんだな。死んだ年が一緒とは限らないけど」

「グレイさんも、前は高校3年生だったんですか? 奇遇ですねぇ」

「あー……まぁな」


 微妙に歯切れ悪く頷くと、グレイさんは誤魔化すように言った。


「な、ならエカテリーナ。今は俺の方が年上かもしれないけど、立場的にはキミの方が上だし、前世じゃ同い年だったんだから、そのグレイさんって呼ぶの止めようぜ。あと、敬語も」

「イヤでしたか?」

「イヤって言うか……ほら、俺たち仲間じゃないか。何か、距離があってちょっと寂しいだろ?」


 確かに、私たちは死亡フラグ根絶同盟を組んでいるようなものだ。

 文字通り命を共に背負った仲間なのだから、距離感があるのはおかしいかもしれない。納得した私は軽く頷く。


「うん、分かった。グレイって呼べば良い? それとも、前世の名前が良い?」

「グレイで良いよ。どうせ、もう死んでるんだ。前世の名前なんて必要ない」


 その瞳に、少しのほの暗さを見せたグレイさん……グレイは、でもすぐに優しげに笑った。

 本当は、私はこの集まりの時には、前世の名前を呼んでもらっても良いと思ってたんだけど、この雰囲気で言える訳が無い。私は、そっと言葉を飲み込んだ。


「お嬢様、お話はお済みでしょうか?」

「えっ、あ、ごめんねルカ。良く分からない話をしちゃって……」

「いいえ」


 話にそっと割って入って来たルカは、もう不機嫌そうな顔はしていない。

 気のせいだったのか、それともルカの感情コントロール能力が優れているのか。……どっちもありそうだな。

 私は、苦笑気味にルカに尋ねる。


「それで、どうかした?」

「はい。具体的な死を避ける手段についての話し合いがまだですので、速やかに開始することを提案致します。夕食の時間が迫っておりますので」


 ルカに言われて時計に視線をやると、確かにもうそんな時間だった。

 自分としてはしっかり話し合ってるつもりなんだけど、言われてみれば具体策については何も話していない。

 グレイを見ると、彼も自覚が合ったのか、微妙な顔をしていた。


「コホン。さんざん話を逸らした俺が言うのも何だが……早速始めるか」

「うんっ」

「とりあえず、今回のお茶会の結果については今後の周囲の反応次第って感じだな。少しでもお茶会の影響が出たら、すぐ話し合うことにしよう」


 そもそも、お茶会に関する言及はゲームでは殆どされていなかった。

 それこそナレーションベース程度のことだったから、私たちもその程度、で済ますつもりだった。

 王子たちの印象にはなるべく残らず、王様お后様の覚えはめでたくって感じで。

 でも、最初に立てた行動指針からは逸れてしまったから、私たちは周囲の変化に対して、後手に回ることになった訳だ。

 本当は、死亡フラグがどう転がってるか分からない現状で、後手に回ることは避けたかったけど……そうなったものは仕方が無い。そもそも、すべてがゲーム通りに行く訳でも無いんだからと、自分たちを慰めるしかない。


「案外、王子たちに恋愛フラグ立てたのは、悪くはない……のかもな。読みにくさは増すけど、神子様との恋愛ルートに入られると、格段に死ぬ確率が上がる訳だから、先んじて潰しとくってのも良いのかもしれない」


 唸りながら呟くグレイに、私はそっと異議を申し立てる。


「あの、グレイ。恋愛フラグなんて立ってないよ? ちょっと、他人から友人になったくらいだよ?」

「……えー、王子たちのルートだと、それぞれの目線からアスルヴェリアに潜む邪神の欠片に迫って行く訳だが、問題はエカテリーナとの恋愛段階が進むことで、ゲームと同じような展開になるのかどうか。これも、要検証というか、確認だな」

「あれ、無視? 無視なの?」


 哀しいことに、グレイは私の方を見ようともしない。

 え、何で? 私何か変なこと言った? 立ったフラグは友情フラグでしょ?


「ルカは、使い魔的な能力って無いのか?」

「おや。グレイは、ゲームとやらで僕を使っていなかったのですか?」

「……もしもーし」

「ゲームでは使えない能力が、現実では使えたりするかもしれないじゃないか」

「残念ながら、そうした能力はありませんね。諜報を行う際には僕自身が動くので、お嬢様の守りが疎かになる可能性がある以上、お引き受け出来かねます」

「そりゃもっともだな」


 私の発言は、無かったことにされたらしい。

 ここは、とりあえず気持ちを切り替えよう。そうしよう。


「確認が必要なのが、王子たち……と、王様の出方だな。エカテリーナに接触して来る時には、俺かルカは傍に居るだろうから、ちょっとでも甘い雰囲気になったらお互い報告な」

「その程度であれば、お任せください」

「……甘い雰囲気って何……?」

「ああ、その辺エカテリーナはもう何も考えなくて良いぞ。俺たちに任せとけ」

「ええ。お嬢様に群がる虫は、尽く抹殺してご覧に入れましょう」

「……いや、抹殺はやめとけよ……」


 そこはかとなく、心底清々しそうなルカの笑顔に、不穏なものを感じるのは私だけでしょうか。

 事態は飲み込めないけど、とりあえず頷いておいた。事なかれ主義なもので。


「じゃ、じゃあ、私は何をしたら良いかな?」

「これからのエカテリーナの行動は、特に重要になって来る。大きなイベントに対しては、とりあえずその時々に対応して行くので間に合うはずだ。俺たちが注意すべきなのは、寧ろ小さなイベントだな」


 顎に手を当てて考え込むグレイ。

 小さなイベントというと、イベントとも呼べないような日常的な出来事、ということだろう。

 私も一緒になって考える。実際、何の兆候もなく日課の行動に出ようとした直後に死亡、なんて笑えない。

 けれど、どんなに考えても私に思い出せるのは、大きなイベントだけだった。


「本編開始後ならともかくとして、今の時点でどんな行動がアウトかなんて、予想出来ないよ。どうしよう?」

「僕が居れば、大抵のことは問題ありませんよ」

「でも、幾らルカが私の専属って言っても、本当にいつもくっついていられる訳じゃないでしょう? お茶会だって、お父様に付いてたし」

「あの距離程度であれば、死は遠ざけられますよ。問題ございません」

「疑ってる訳じゃないけど……」


 疑っている、と言うよりも分からない、と言った方が相応しいかもしれない。

 私は、そもそもゲームではルカの姿を見たことがないし、現在までにルカが戦ったりする姿を直接見たこともない。

 死なないようにしてくれていた、ということ自体に疑いは抱いていないけど、現実感が無いのだ。

 困って微笑む私に、ルカは少しだけ悔しそうに口元を引き結んでいた。


「そうだな。1年後の魔力検査まで、キミのレベル上げが必要だな」

「レベル上げ?」


 私は予想外の言葉に、思わず瞬く。

 そしてすぐに、自分でもそれを考えていたことを思い出す。


「そっか。シンプルにバトルで殺されるってエンドもあったもんね」

「それもあるけど、1年後までにキミが、もし本物の神子に勝るとも劣らずってレベルまで強くなってたらどうなると思う?」


 イタズラっぽく笑うグレイに、私は首を傾げた。

 どうなるって言われても……範囲が広すぎて分からない。

 お手上げをする私の横で、ルカがぽそっと呟いた。


「なるほど。お嬢様の価値を貴族たちにアピールして、保身を図るのですね」

「その通り。あとは、シンプルに自衛手段の確保な」

「ほ、保身? だって、元々ゲームでも神子の力はちょっとだけ現れてたなら、このままでもそれなりに扱われるんじゃないの?」


 意味が良く分からない。私がバカなのだろうか。それとも、お気楽モードで既出の情報が少な過ぎるのか。……全部かな。


「いや、扱われてない。貴族の多くは、その重要性が分かってないんだ」

「それっておかしくない? 邪神が解放されたら、世界が危ないのに……」

「じゃあキミ、ゲーム内でエカテリーナが公爵家の娘って要素以外で称えられてるの見たことあった?」


 ……無かったな、そう言えば。

 何しろ、グレイに言われるまでまったく知らなかったくらいだ。

 エカテリーナ、ただのおバカな貴族のお嬢様だと思ってたよ。


「そう言うこと。多分王様とか中枢の人が、その話が広まるのを抑えてるんだと思う。……ただ、その辺の事情が、実はフルコンプしてる俺も分からない」

「……王様、モブだったもんね」

「ああ。しょっぼいチュートリアルをちょっと担当してただけのな」


 本当に、色々伏線とかもあるだろうに、何で王様モブだったんだろう。

 しばらく無言で溜息をつき合うと、どちらともなく頷いた。多分、それは考えちゃいけないヤツ。


「他の代替キャラでも居ればそれで良かったんだが、居なかったんだよな。王子たちも、詳しくは知らなかったっぽいし」


 ゲームでは、ちょっと不完全燃焼でも、ストーリーとかシステムが良ければ、それで問題無い。

 だけど、ここは現実だから、適当に流すことも出来ない。その怠惰は、死に直結してしまう。


「目立つってのも考えものだろうけど、ここでエカテリーナの神子の力を押し出すことで、今一番発生時期に近い、貴族によるエカテリーナ暗殺エンドが避けられると思うんだ」

「あ。それは覚えてる。確か、お父様……サンチェスター公爵を邪魔に思ってる他の公爵が、裏から手を回して殺して……バレて、激怒したお父様に失脚させられたって言う、何かちょっと……アレな」

「そうそう。最高にバカなエンディングな」


 そんなバカなエンディングを迎えたい筈が無い。

 震える私に、グレイは笑いかける。


「キッカケは、魔力検査でしょっぼい神子魔力が検出された程度でチヤホヤされるエカテリーナを見てイラついたこと、らしいから、ちょっとやそっとの能力値じゃ、意味がないだろう。けど、そのバカ貴族にも分かる程、強くなってれば? 自己中な奴らなら、殺そうなんて考え失くす筈だ」

「それに、私自身が強くなってれば、小さな死亡フラグなら自力で何とか出来るかもしれない?」

「そうだ。神子の力は、邪神の欠片に対して高い威力を発揮する。今は凄く弱いから、封印を保つ程度のことしか出来てないけど、強く出来れば、封印の隙間から死に誘う邪神の影響も封じられる筈だ」


 貴族云々の方は、多分まだ不透明だけど、邪神の影響に対して対抗手段を得られるかもしれない、というのは私にも見えた。

 私は、力強く頷いた。


「それじゃあ、ひとまず修行をすれば良いんだね!」

「ああ! ……と、言っても、先に修行を見てくれる先生を見つけないといけないけどな。俺、魔法使えないし」

「それならば、僕が手の空いた時に調べておきましょう」

「あっ、私も……」

「お嬢様はどうぞ、お屋敷でお待ちくださいね」

「でも……」

「お屋敷であれば、僕の結界や、グレイの罠もありますから、安心です」

「……うん」


 し、知らない間に、我が家は要塞にでもなっていたのだろうか。

 何かちょっと怖いけど、守ってくれてるのだから、文句なんてあるはずがない。


「それでは、ひとまず解散ですね。お嬢様、さぁ、食堂へ参りましょう」

「分かった」

「いってらー。俺も、少し情報収集してみるわー」


 そうして、これからの目標を「修行」に定めた私たちは、夕飯の為に解散した。

 物ごとがちゃんと進んでいるような、居ない様な?


 まだまだ分からないことも多いけど、死亡フラグなんかには負けないぞ!


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